[スポンサーリンク]

D

ディールス・アルダー反応 Diels-Alder Reaction

[スポンサーリンク]

概要

[4+2]環化付加反応の代表。諸々の共役ジエンと親ジエンからシクロヘキセン骨格が得られる反応である。一般に良好な立体選択的・位置選択的にて進む。

環状化合物、特に6員炭素環の合成戦略ではほぼFirst Choiceとして用いられる。数ある反応の中でも実用性は群を抜いている。

ジエンまたは求ジエンのいずれかもしくは両方が安定な場合には、熱的に逆反応が起きうる。これをretro Diels-Alder反応とよぶ。ヘテロ原子(窒素、酸素など)を環内に含む場合はヘテロDiels-Alder反応と呼ぶ。また光学活性な化合物を得る手法である不斉Diels-Alder反応も良く研究されている。それぞれ別項を参照されたい。

Danishefsky-Kitahara dieneと呼ばれるジエンは、単純ジエンに比して位置選択性や反応性に優れている。このため、合成上有用な試薬として汎用される。類似のものとしてBrassard diene、Rawal dieneが知られている。

diels_alder_3

 本反応の開発における業績により、Otto DielsとKurt Alder両名は1950年のノーベル化学賞を受賞している。

基本文献

  • Diels, O.; Alder, K. Liebigs Ann. Chem. 1928460 , 98. DOI:10.1002/jlac.19284600106
  • Diels, O.; Alder, K. Liebigs Ann. Chem. 1929470 , 62.
  • Diels, O.; Alder, K. Ber. 1929, 62 , 2081, 2087.
  • Yamabe, S.; Minato, T. J. Org. Chem. 200065, 1830. DOI: 10.1021/jo9919310

<review>

  • Kloetzel, M. C. Org. React. 1948, 4, 1.
  • Holms, H. L. Org. React. 1948, 4, 60.
  • Butz, L. W.; Rytina, A. W. Org. React. 19495, 136.
  • Martin, J. G. Chem. Rev. 1961, 61, 537. DOI:10.1021/cr00013a013
  • Brieger, G.; Bennett, J. N. Chem. Rev. 198080, 63. DOI: 10.1021/cr60323a004
  • Sauer, J.; Sustman, R. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 198019, 779. DOI: 10.1002/anie.198007791
  • Fallis, A.G. Can. J. Chem. 1984, 62, 183. doi:10.1139/v84-037
  • Ciganek, E. Org. React. 1984, 32, 1.
  • Oppolzer, W. Comp. Org. Syn. 1991, 5, 315.
  • Roush, W. R. Comp. Org. Syn. 1991, 5, 513.
  • Kumar, A. Chem. Rev. 2001, 101, 1. DOI: 10.1021/cr990410+
  • Bear, B. R.; Sparks, S. M.; Shea, K. J. Angew. Chem. Int. Ed. 2001, 40, 820. [abstract]
  • Fringuelli, F.; Piermatti, O.; Pizzo, F.; Vacaro, L. Eur. J. Org. Chem. 2001, 439. [abstract]
  • Hilt, G. Synthesis 2005, 2091. DOI: 10.1055/s-2005-872084
  • Wessig, P.; Muller, G. Chem. Rev. 2008108, 2051. DOI: 10.1021/cr0783986
  • Reymond, S.; Cossy, J. Chem. Rev. 2008108, 5359. DOI: 10.1021/cr078346g
  • Nair, V.; Menon, R. S.; Biju, A. T.; Abhilash, K. G. Chem. Soc. Rev. 2012, 41, 1050. DOI: 10.1039/C1CS15186J

<review for applications to complex molecule/material synthesis>

  • Nicolaou, K. C.; Synder, S. A.; Montagnon, T.; Vassilikogiannakis, G. Angew. Chem. Int. Ed. 2002, 41, 668. [Abstract]
  • Takao, K.-i.; Munakata, R.; Tadano, K.-i. Chem. Rev. 2005105, 4779. DOI: 10.1021/cr040632u
  • Juhl, M.; Tanner D. Chem. Soc. Rev. 200938, 2983. DOI: 10.1039/B816703F
  • Kotha, S.; Meshram, M.; Tiwari, A. Chem. Soc. Rev. 200938, 2065. DOI: 10.1039/B810094M
  • Tasdelen, M. A. Polym. Chem. 2011, 2, 2133. DOI: 10.1039/C1PY00041A
  • Funel, J.-A.; Abele, S. Angew. Chem. Int. Ed. 201352, 3822. DOI: 10.1002/anie.201201636
  • Zydziak, N.; Yameen, B.; Barner-Kowollik, C. Polym. Chem. 2013, 4, 4072. DOI: 10.1039/C3PY00232B
  • Nawrat, C. C.; Moody, C. J. Angew. Chem. Int. Ed. 201453, 2056. DOI: 10.1002/anie.201305908
  • Mackay, E. G.; Sherburn, M. S. Synthesis 2015,47, 1. DOI: 10.1055/s-0034-1378676

反応機構

通常、dieneに電子供与基(EDG)、dienophilieに電子求引基(EWG)を持つ基質が反応に用いられる。フロンティア軌道(dieneのHOMOとdienophilieのLUMO)のエネルギー差が小さくなるため、軌道相互作用による安定化が効果的になり、反応が進行しやすくなる(通常電子要請型)。同様の考え方によれば、dienophileに電子供与基、dieneに電子求引基を持つものも反応しやすい(逆電子要請型)

diels_alder_4
反応はcis付加様式で協奏的に進み、endo付加体が優先的に得られる(endo)。通常電子要請型の場合には二次軌道相互作用で一応の説明がなされるが、endo/exo選択性は立体的影響を大きく受けるため、基質によっては完全にexo選択的に進むこともある。とりわけ、環状配座に固定された分子内Diels-Alder反応などでは、コンフォメーションの自由度が低いため、endo則が当てはまらないことも多々ある。

diels_alder_5

有機電子論からも予測されるように、Diels-Alder付加体の置換基はオルト位/パラ位を占めるように位置選択的に付加する(オルト・パラ則)。より詳細にはFrontier軌道法を用いて説明がなされる。すなわち、HOMO/LUMOの係数が大きい反応点同士が重なるように付加が進行する。

diels_alder_9
環状遷移状態においてジエンはs-cis(cisoid)配座をとって付加する。s-trans(transoid)配座からはDiels-Alder反応は進行しない。たとえば下記の反応においてZ-1,3-pentadieneはs-cis配座をとりにくいため、反応性はE体にくらべ著しく低下する。

diels_alder_2

反応例

近年ではDiels-Alder反応を利用した生合成模倣経路での全合成(Biomimetic Total Synthesis)が数多く報告されている。例えば、SorensenおよびEvansの両グループは分子内Diels-Alder反応を鍵反応とするFR182877の全合成を達成している。

diels_alder_tot

用いるルイス酸によって位置選択性が異なる例が知られている(キレート可能かどうかで、基質への結合位置が変わるため)。

diels_alder_7
プロスタグランジン類の合成:α-クロロアクリロニトリルはDiels-Alder反応におけるケテン等価体として機能する。

diels_alder_8

 

環状エノンに光照射して生じるひずんだジエノフィルはDiels-Alder反応の良い基質となり、通常とは異なるtrans縮環で目的物を与える。以下はvibsanine骨格への応用例[2]。

diels_alder_10

実験手順

フランとアクリル酸メチルを用いるDiels-Alder反応[1]

diels_alder_6

実験のコツ・テクニック

ジエンの重合を防ぐために、弱塩基(ジメチルアニリンなど)や酸化防止剤(ヒドロキノンなど)を加えて反応を行うことも多い。

参考文献

  1. Kotsuki, H.; Asao, K.; Ohnishi, H. Bull. Chem. Soc. Jpn. 1984, 57, 3339. doi:10.1246/bcsj.57.3339
  2. Davies, H. M. L.; Loe, O.; Stafford, D. G. Org. Lett. 2005, 7, 5561. DOI: 10.1021/ol052005c

関連反応

 

関連動画

 

関連書籍

 

 

外部リンク

関連記事

  1. 高知・フュルスナー クロスカップリング Kochi-Furstn…
  2. ダンハイザー シクロペンテン合成 Danheiser Cyclo…
  3. ティフェノー・デミヤノフ転位 Tiffeneau-Demjano…
  4. フィッシャー インドール合成 Fischer Indole Sy…
  5. スティーヴンス転位 Stevens Rearrangement
  6. セイファース・ギルバート アルキン合成 Seyferth-Gil…
  7. 鋳型合成 Templated Synthesis
  8. カテラニ反応 Catellani Reaction

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 潤滑油、グリースおよび添加剤の実践的分離【終了】
  2. 原子3個分の直径しかない極細ナノワイヤーの精密多量合成
  3. ヒト遺伝子の ヒット・ランキング
  4. 日本学士院賞・受賞化学者一覧
  5. 投票!2019年ノーベル化学賞は誰の手に!?
  6. 有合化若手セミナーに行ってきました
  7. 【速報】2015年ノーベル生理学・医学賞ー医薬品につながる天然物化学研究へ
  8. (S,S)-DACH-phenyl Trost ligand
  9. 細胞の分子生物学/Molecular Biology of the Cell
  10. 「抗菌」せっけん、効果は「普通」…米FDA

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年6月
« 5月   7月 »
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

注目情報

最新記事

【速報】HGS 分子構造模型「 立体化学 学生用セット」販売再開!

いまから約7年前の2015年10月。分子を愛する学生・研究者に悲報が届けられた。…

次世代型合金触媒の電解水素化メカニズムを解明!アルキンからアルケンへの選択的水素化法

第383回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院 理工学府 修士2年(研究当時)の野上 周嗣…

LG化学より発表されたプラスチックに関する研究成果

LG Chem develops advanced plastic materials …

経験の浅い医療系技術者でも希望にかなう転職を実現。 専門性の高い職種にこそ求められる「ビジョンマッチング」

「人財躍動化」をビジョンに掲げるAdecco Group Japanの人財紹介事業ブランドSprin…

創薬における中分子

ここ10年の間で、低分子・高分子の間の化合物の分類として 中分子 という言葉が台頭し…

ポンコツ博士の海外奮闘録⑦〜博士,鍵反応を仕込む〜

ポンコツシリーズ一覧国内編:1話・2話・3話国内外伝:1話・2話・留学TiPs海外編:1…

強酸を用いた従来法を塗り替える!アルケンのヒドロアルコキシ化反応の開発

第 382回のスポットライトリサーチは、金沢大学大学院 医薬保健総合研究科 創薬科学…

ドラえもん探究ワールド 身近にいっぱい!おどろきの化学

概要「化学」への興味の芽を育むマンガ+解説書 子ども(大人も)の毎日は、「化学」とのお付き合…

データ駆動型R&D組織の実現に向けた、MIを組織的に定着させる3ステップ

開催日:2022/05/25 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

薬剤師国家試験にチャレンジ!【有機化学編その1】

2022.5.21 追記: 問3の構造式を再度訂正しました。2022.5.2…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP