第702回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理学部(田中研究室)にて助教をされていた秋吉亮平 先生にお願いしました。秋吉先生は現在、近畿大学理工学部(無機化学研究室)の講師をされています。
今回ご紹介するのは、半導体特性を持つ配位性高分子(CP)に関する研究です。
含硫黄CPは、金属-硫黄結合に由来する優れた半導体特性を示すことが実証されてきています。一方、成型加工に際して、従来のMOFやCPの多くは加熱すると融解する前に熱分解してしまうという課題がありました。今回、長鎖アルキル基を用いた戦略により、融解性および液晶性をもつ半導体配位高分子を報告されました。課題とされてきたMOFやCPの成形加工性向上が期待されます。本成果は、Angew. Chem. Int. Ed. 誌 原著論文およびプレスリリースに公開されています。
“Meltable Semiconductive Lead–Thiolate Coordination Polymers with Long Alkyl Chains”
Akiyoshi, R.; Takamura, S.; Sawada, C.; Takahashi, N.; Okubo, T.; Saeki, A.; Goo, Z. L.; Sugimoto, K.; Mori, Y.; Kawaguchi, S.; Nakamura, Y.; Ina, T.; Katayama, M.; Yamada, H.; Shimono, S.; Kurihara, T.; Ogasawara, K.; Tanaka, D. Angew. Chem. Int. Ed. 2026, e18379. DOI: 10.1002/anie.202518379
研究室を主宰されている田中大輔 教授から、秋吉先生について以下のコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!
秋吉さんは、熊本大学の速水真也先生の研究室で学位を取得してすぐの2021年4月に、私の研究室初の助教として着任してくれました。採用の際には速水先生から「秋吉は抜群だよ!!」との非常に熱い推薦のお言葉をいただきましたが、実際に着任後は八面六臂の大活躍で、私立大学の多人数の学生指導から新しい実験手法の導入、論文の執筆に至るまで、精力的に活躍してくれて研究室を引っ張ってくれました。今後の錯体化学やMOFの研究分野を牽引してくれる若手研究者として周りからも期待されています。今回の論文は、速水研究室で培った液晶材料の知見を私の研究室で扱っている半導体MOFの研究に取り入れた、この5年間の秋吉さんの研究の集大成というべき内容です。今年の4月から近畿大学理工学部の杉本邦久先生の研究室に講師としてご栄転されましたが、持ち前のスマートさとガッツでさらなるご活躍をされることを願っています。
Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。
本研究では、半導体特性を示す配位高分子に長鎖アルキル基を導入することで、溶融可能な半導体材料の開発に成功しました。金属イオンと有機架橋配位子から構成される有機-無機複合材料は、金属–有機構造体(MOF; Metal–Organic Framework)や配位高分子(CP; Coordination Polymer)として知られ、現代の固体化学や材料科学を支える重要な結晶性材料です。特に、硫黄を配位原子とする含硫黄CPは、高いキャリア移動度や狭いバンドギャップを示す半導体材料として知られており、光触媒や光電子デバイスへの応用が期待されています。しかしながら、これらの材料の多くは難溶性の結晶性固体として得られるため、成形加工性に乏しく、薄膜形成やデバイス作製における大きな障壁となっていました。
本研究では、柔軟なアルコキシ基を導入したベンゼンチオール配位子を用いることで、融解可能な半導体CP KGF-34の開発に成功しました(KGFとは“Kwansei Gakuin Framework”の略で、田中研究室で新しいMOFやCPが得られた際に付けられる名称です)。KGF-34は、Pb(II)イオンから成る含硫黄CPであり、PbS無機骨格と柔軟なアルキル鎖を併せ持つことを特徴とします。このような構造設計により、優れた半導体特性と液晶性や融解挙動を両立することに成功しました。さらに、融解挙動を利用して薄膜を形成し、光電子デバイスの作製にも成功しました。本成果は、MOFやCPにおいて長年の課題とされてきた「成形加工性」を克服するための設計指針を提示するものであり、プリンタブルエレクトロニクスや太陽電池、電界効果トランジスタなどへの応用展開が期待されます。

(a) KGF-34(C6)の結晶構造 (b) 溶融挙動 (c) 融解挙動を利用して作製した光電子デバイスにおける光電流スイッチング
Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。
本研究テーマを進めるうえで、自分なりに工夫した点は、アルキル長鎖を導入する対象となる半導体CPの設計です。一般に、多くのMOFやCPは絶縁体であり、広いバンドギャップや低いキャリア移動度を示します。そのため本研究では、まず基盤となる優れた半導体特性を示すCPの探索から着手しました。具体的には、メトキシ基を有するベンゼンチオール配位子を用い、金属種や置換基位置を変化させながら、多様な含硫黄CPを合成し、半導体特性の評価を行いました。その結果、Pb(II)イオンと4-メトキシベンゼンチオールから成る半導体CP(KGF-34(C1))が、狭いバンドギャップと高いキャリア移動度を示すことを見出し(J. Mater. Chem. C 2024, 12, 1958)、これを基盤としてアルキル鎖の伸長へと展開しました。既知化合物の改良ではなく、自身で設計・合成した半導体CPを起点として研究を展開できたことは、本研究の特筆すべき点です。
また、本研究で最も印象に残っているのは、単結晶X線構造解析によって、設計通りの構造が実際に確認できた瞬間です。KGF-34(C1)は、結晶構造中にPbS無機ネットワーク構造が存在し、この無機骨格が優れた半導体特性の発現に寄与しています。本研究では、このPbS無機ネットワーク構造を維持したままアルキル鎖を伸長させる必要がありましたが、Pb(II)イオンは多様な配位構造をとるため、配位子骨格のわずかな違いによって結晶構造全体が大きく変化する可能性がありました。そのため、狙い通りの構造が実現しているかどうかは、実際に構造解析を行うまでわかりませんでした。そのような状況の中で、狙い通りの結晶構造が確認できた瞬間は、大きな喜びと達成感を覚えました。研究の魅力は思いがけない結果との出会いにありますが、自ら設計した構造や性質が予想通りに実現したときの喜びもまた格別であると実感しました。

PbS無機構造を維持したままアルキル鎖を伸長
Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?
本研究は比較的狙い通りに進展したため、研究そのものにおいて特別に大きな困難があったわけではありません。一方で、論文の改訂作業には苦労しました。投稿時点では、C6のアルキル鎖長を有する1種類の配位高分子(KGF-34(C6))のみを報告していましたが、査読過程において、他のアルキル鎖長を有する化合物も含めた系統的な評価を行うべきとの指摘を受けました。これに対応するため、既に評価済みであったC1およびC6に加え、C1からC8まで計8種類の化合物(KGF-34(Cn); n = 1–8)を合成し、系統的な物性評価を実施しました。提示された改訂期間はわずか2週間であり、この短期間で実験およびデータ整理を行うことは非常に大変でした(結局、締め切りを二度延長してもらい、約1カ月半を要しましたが、、、)。改訂後のSupporting Informationの分量は当初の倍以上に増え、研究内容をより深く、かつ説得力のある形で示すことができ、最終的に論文は受理されました。本改訂を乗り越えることができたのは、限られた期間の中で懸命に実験を進めてくれた学生の尽力によるものであり、感謝の念に堪えません。
Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?
錯体化学を基盤として、今後さらに独創性の高い研究を展開していきたいと考えています。私は本年4月より、近畿大学理工学部理学科に講師として着任しました。奇しくも、先日MOFの研究でノーベル化学賞を受賞された北川進先生がかつて助手として在籍されていた大学・学科に身を置くこととなり、大変光栄に感じると同時に、自らもこの地から新たな研究の潮流を生み出したいという強い意欲を抱いています。
上述した通り、これまで関西学院大学で開発してきたMOFやCPは、Kwansei Gakuin Framework(KGF)と命名してきました。これに対し、近畿大学で合成した化合物については、Kindai Universityにちなみ、「KDU」と命名したいと考えています。KGFシリーズを超えるようなKDUを数多く創出し、新たな機能や物性の開拓を通じて、錯体化学の可能性をさらに広げていきたいと思います。
Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。今回の研究は、田中研究室に蓄積されてきた知見と、私が学生時代に培ってきたソフトマテリアルに関する知見とを組み合わせることで初めて成り立ったものであり、学生時代に学んだ知識や経験が大いに活かされたと感じています。学生の皆さんには、現在取り組んでいる自身の研究テーマについて、指導教員の先生よりも詳しくなるくらい主体的に向き合ってほしいと思います。すぐに役立つとは限りませんが、研究を通じて積み重ねた知識や経験は、いつか必ずどこかで活きてくるはずです。
最後に、本論文は私を含め18名の著者から構成されており、多くの方々のご協力のもとで発表することができました。研究に携わってくださった皆様に、心より感謝申し上げます。特に、実験を担当してくれた高村君と澤田さん、本研究の遂行にあたり多くのご助言をいただいた田中先生に深く御礼申し上げます。さらに、学生時代から憧れていたスポットライトリサーチへの寄稿の機会をいただいたChem-Stationスタッフの皆様にも、厚く御礼申し上げます。
研究者の略歴

名前:秋吉 亮平 (あきよし りょうへい)
所属:近畿大学 理学部 化学科
略歴:
2021年3月 熊本大学大学院 自然科学教育部 理学専攻 修了(速水 真也 教授)
2021年4月-2026年3月 関西学院大学 理学部 化学科 助教
2026年4月-現在 近畿大学 理工学部 理学科 講師
関連リンク
- J. Mater. Chem. C 2024, 12, 1958. DOI: 10.1039/D3TC04362B





























