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面接官の心に刺さる志望動機、刺さらない志望動機

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先日、ある機器メーカーの企業の研究所長とお会いした際、最近の採用面接の状況について話をした。

「研究職志望の20代の男性が来られたのですが、志望動機を聞いたら、『御社の事業はニッチな分野でトップであり、安定性があると思いました』と仰るんですよ」。さらに「『トップっていうのは売上のことですか?どの製品のこと?あとトップだとなんで安定性があると思うの?』と深く聞いていくと、答えられない。私は知識がないことを指摘したいのではなくて、考え方を知りたいだけですけどね」。

この候補者の受け答えを見て、企業の面接官はどう感じたのか。

おそらく、事前調査、相手ニーズに合わせたトーク、その場に合わせた柔軟な対応、いずれも出来ないという印象を与えてしまったことは間違いない。この企業は、研究者であっても営業と同行してクライアントの対応や、技術プレゼンができることを特に重視していたこともあり、面接官にはかなりネガティブに伝わってしまっていた。志望動機はどの面接でも序盤に聞かれる可能性が高く、その印象が面接全体の流れに影響してしまう。

今回は、ポイントを整理した上で、きちんと伝わる志望動機が何かを考えてみたいと思う。

主体性がない志望動機はNG

なぜ応募したのかを聞かれて、「大手企業だから」「転職エージェントで紹介されたから」「家から近いから」等とそのまま思ったことを答える方が結構いる。

嘘ではないのだと思う。

ただ、求められている問いの答えではない。いずれも、受身で主体性のない印象に感じてしまう。

上記の回答だと、大手企業はたくさんあるし、そもそも大手の基準も不明確。何となくしか考えていないように感じる。転職エージェントに紹介されたというのも、単なるきっかけであり、知りたいのはその先である。家が近いというのも、「遠かったら応募しないのか」と問いたくなるし、積極性がない。一番重要である「あなたがどういう考えで選んだのか」という主体性がない回答は望ましくない

聞かれているのは、「世の中にあるたくさんの企業と、目にした数多の求人の中から、なぜ我社に興味を持ち、なぜこうして時間を作ってまで来たのですか?」である。あなたがどういう基準で物事を眺め、判断し、行動したのかを丁寧にわかりやすく説明をすることを望んでおり、それによって価値観や人となりを知ろうとしている。

つまり、この率直に浮かんだ答えを入り口として、もう少し自分の考えを深堀する必要がある。

自分の本心を知るためには、それなりの時間をかけること

深堀するにはどうしたら良いのか。まず、いきなり志望動機を書き出すと苦戦することが多いので、無理に進めない方が良い。一旦は時間をかけて考えを掘り下げる時間を持つことで、自分の本心を知り、より本質的な回答ができるようになる。実際にあった事例をもとにみてみよう。

以前、転職を希望されていたAさんに、ある会社を希望する理由について聞くと、「大手企業だから」ということを一番に言われた。そこで、なぜ大手企業で働きたいと思っているのか時間をとって考えてもらうことにした。

すると、Aさんから、大手企業とは、「大きな仕事ができること」と「安定していること」だという言葉が出てきた。

更に、「あなたにとって『大きい』とは、金額なのか、研究内容なのか、何を指していますか」と問いかけてみた。

数日かけて、よくよく考えを深めてもらうと、「海外プロジェクトを担当できること」だという結論になった。現職ではなかなかそうしたチャンスに恵まれず、そこが一番モチベーションの下がっている原因だという。そこで今度は、応募する企業に海外案件の対応ができるか一緒に調べてみると、アメリカとヨーロッパに複数拠点があり、売上の6割が海外であった。中期計画でも欧米に加えて、中東やアジアの展開も進めているので、海外のプロジェクトを担当できるチャンスはかなりあると考えられる。またこの企業は、研究職から、グローバルの研究推進担当へのキャリアパスを推奨しており、語学学習や海外MBA留学制度もある。

続いて同様に、「安定していること」についても考えてもらった。Aさんにとっての安定は「会社業績が伸びていること」と「業界全体も成長していること」だと定義した。応募する企業は上場企業だったため、IR情報で営業利益を確認すると、直近3年の成長が鈍化していることが分かった。原因はライフサイエンス分野で大型買収を実施しており、さらに研究開発への投資を増額しているためである。ただ、Aさんの場合、成長分野にきちんと投資されていることはプラス要因だと判断。さらに業界自体が伸びているため、キャリアを積むにはよい環境であるという考えに至った。

<Aさんが「大手企業」がいいと思った理由>

項目 具体的には? 応募企業で実現できるのか?
大きな仕事ができそう 海外案件を将来的に担当したい

 

◎アメリカとヨーロッパに複数拠点があり、売上の6割が海外。研究職からグローバルの研究プロジェクト担当へのキャリアパスの実績もあり。
安定してそう 会社の業績が伸びていること

業界全体も成長していること

 

〇直近の数字をIR情報で確認すると、業績はそこまで伸びていない。ただ、原因は大型買収と研究開発費への投資。また、業界全体は伸びている。

こうして考えを具体化してまとめていくと、自分が望んでいることが徐々に見えてくる。少々時間はかかるが、いきなり志望動機を書き始めるよりも、結果的に効率が良い。

 

刺さる志望動機とは

下準備の段階で整理した内容をもとに、実際に志望動機の作成に入ってみたいと思う。その際、出来るだけ曖昧な表現は避け、数値や事実などの具体的な情報をもとに話すことがポイントである。以下は実際にAさんが最初に作成した志望動機と、情報を整理してから書き直した志望動機である。

訂正前の志望動機

「御社を希望したのは、業界大手の企業だからです。大きな仕事が出来ることと、安定しているため希望しました。」

 

訂正後の志望動機

御社を志望した理由は2つあります。

1つは将来的に海外のプロジェクトに関わりたいと考えており、それが実現できる環境だと考えたからです。以前より海外マーケットを見越した展開を積極的にされており、売上比率も6割を占めるとうかがいました。私は特に今後注力されるアジア圏の進出に興味があり、英語での経験を生かして、将来的には海外の研究プロジェクトの推進で貢献したいと考えています。

2つ目に、現状維持に留まらず、新たなコア事業の創出に向けて投資をされているからです。IR資料を拝見したところ、ライフサイエンス分野で大型買収や研究開発費の増額など、チャレンジングな展開をされている点に魅力を感じました。コア事業のみに依存せず、長期的な戦略に基づいて挑戦を続ける姿勢は、私の考え方とも共通する部分が大きいので、御社で働きたいと感じました。 

比較すると、どうだろうか。面接官に伝わる印象が全く違う。初めて会う面接官に対して、自分の考えを分かりやすく伝えるというのは、思っている以上に難しい。すんなりと答えが出ないのは当然なので、焦って適当に答えるのではなく、上記のポイントを参考に、是非、少し時間をかけて取り組んで頂ければと思う。

 

まとめ

面接官の心に刺さる志望動機、刺さらない志望動機

  1. 主体性がない志望動機はNG
  2. 2.自分の本心を知るための時間をかけること
  3. 3.刺さる志望動機とは

[]太田裕子 [編集]LHH転職エージェント(アデコ株会社)

*本記事はLHH転職エージェントによる寄稿記事です

LHH転職エージェント(アデコ株式会社)は、中途採用のための転職エージェント。
20代、30代、40代の決定実績が豊富です。
化学系技術職においては、研究・開発、評価、分析、プロセスエンジニア、プロダクトマネジメント、製造・生産技術、生産管理、品質管理、工場管理職、設備保全・メンテナンス、セールスエンジニア、技術営業、特許技術者などの求人があります。
転職コンサルタントは、企業側と求職者側の両方を担当する360度式。
「技術のことをよくわかってもらえない」「提案が少ない」「企業側の様子がわからない」といった不安の解消に努めています。


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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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