[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

有機電解合成プラットフォーム「SynLectro」

[スポンサーリンク]

 

光レドックス触媒反応に続いてブームが訪れている有機電解合成反応

もちろん両者とも昔からあったものですが、最新触媒や試薬などの開発、多くの研究者が参入したことにより大幅にできることが多くなりつつあります。

かくいう筆者の研究室でも装置を導入して、徐々に取り入れ始めています。主流でやっていくというよりも有機合成の幅を広げていることは確かであり、合成ツールのひとつとしては使えたほうがよいからです。

有機電解合成は、いわゆる電気化学反応なので、大雑把に言えば電極2つとフラスコ、電解質と反応させる化合物に電源がさえあれば反応をかけることは可能です。

とは言われても、本気で新しい電解反応開発するぞ!とならなければなかなか手が出ないのは当然です。そういうわけで、誰でも使うことのできる有機電解反応の「プラットフォーム」があれば、文献で紹介されている反応や新しい反応の開発まですぐにとりかかることができます。

そこでつい最近、メルク社有機電解合成プラットフォームである、SynLectro™が発売されました。今回、この製品の特徴の紹介を、他の製品と比較して簡単にしてみたいと思います。

まずは何が重要か?

電解反応装置でなにが重要か?人それぞれだと思いますが、以下にあげます。

  1. 安価である:どんなに素敵な反応でも、装置が高価だと手を出しにくいですよね。1反応いくら?なんて考えてしまいそうです
  2. 簡便である:装置はセットアップしたのはよいが、いちいち手間がかかる、ケアが大変なんてことがあると使わなくなっていまいます
  3. 電極の配置:電極を平行に保持し、準備段階から合成反応中に至るまで、電極を確実に固定することが重要です。電極の平行が維持できないことで不均一な電界が生じ、局所的なホットスポット発生による副反応や、電極・装置の損傷に繋がる恐れがあります。最悪のケースとしてショートした場合、ラボの安全面からも推奨されません
  4. 多検体反応できる:反応をスクリーニングするときに複数個同時に同条件でかけれたほうが好ましいですね
  5. 反応の様子がみえる:化学者たるものやっぱり反応がみれたほうがよいですよね。特に電解反応はなにかトラブルがないか、目で見て確認できる方がいいですね
  6. スケールアップ可能:有機合成ですから最適化して条件をできる限り容易にスケールアップできるような装置が望ましいです。ハイスループットとスケールアップは相反するものかもしれませんが

特に電解反応特有なものは。例えば、以下のような普通のスリーブ状丸底フラスコでは、電極が傾いてしまい平行の維持が難しく、電界の安定化が困難になります1

出典:Waldvogel et al, JACS 2017

 

また、電極の平行維持に加えて、多くの自作装置は、作業上の安全性を脅かすような液漏れに悩まされることが多いらしいです。

また、汎用性を考えると開放系の反応システムであることや、温調機能があることが望ましいという点も付け加えておきます。そういった意味で、実験室で安全に電解合成反応を行うにはしっかりとした装置を購入したほうが望ましいわけです。

Erectrosyn :スタイリッシュに小スケールで1つの反応をかけたい

以上のようなセットアップが大変、なんか面倒そうという考えを覆したのが、このIKAから発売されているErectrosynですね。スクリプス研究所のPhil Baran教授と共同開発した この装置は、大変スタイリッシュで非常にセットアップが簡単そうです。もちろん上記の電極の平衡維持に関しても解決しており、CVも測定可能、すぐに使える有機電解反応のオールインワン型といっても過言ではないでしょう。

Erectrosyn (出典:IKA)

 

オールインワン型といっても、様々なオプションが用意されており、当初は1反応しかかけれなかったのですが、現在では複数の反応がセットアップできたり、いろいろな電極の準備もあるようです。大きな問題点は値段が高価といったところでしょうか。色々つけると、元の価格は何だったんだぐらいな価格に跳ね上がります。スケールアップにもあまり向いていないかもしれません。

Waldvogel型電解装置:多検体スクリーニングに便利

一方で、Erectrosynよりも先に発売されていた、電解反応スクリーニング用の電解装置です。電解反応開発で著名なドイツマインツ大学のWaldvogel教授が開発したもので、これもIKAから発売されています。テフロン製のソケット?で電極が固定されているので、ずれることがなく、6つの反応を同時にかけることが可能です。

筆者の研究室でもこれを採用して使っています。実は、正確に言うとこの装置は慶応大学の栄長教授に教わったもので、セット価格でなく、それぞれ別にオーダーすることで、かなり安価に準備することができます。セットだとかなり高価ですが、アルミブロックやパワーサプライなどはそれぞれ似たようなものを準備すればよいというわけです。内容を教えていいのかわからないので、このぐらいにしておきますが、かなり安価に準備することができました。

Screening System Package (6 Cells) (出典: IKA)

 

問題点は、容器もテフロン製なので反応の中身が見えないということと、Erectrosyn同様に、スケールアップが困難であり、たくさん化合物を合成したい場合は6つ同じ反応をかけなければなりません。また、完全密閉系なので、万が一気体が大量に発生するようなことがあれば、破裂の危険性も無いわけではないです(スケールが小さいので大丈夫かもしれませんが)

SynLectroTM: バッチリアクター。スケールアップ合成を検討可能

上記の2つは上述した特徴1,5,6をすべて備えてるとはいいきれませんでした。そんなわけで、Waldvogel教授が新たに開発したのが、今回シグマアルドリッチ社から発売された新製品であるSynLectroになります。

どんな製品かはまず以下の動画を見ていただければわかるでしょう。

あれ?一見して、普通のフラスコの電極さしているだけなんじゃ??と思った方。まあ簡単に言えばそうですね苦笑。電極をしっかり平行化、反応の中身が見えて、開放系にもでき、温調機能も備え、スケールアップも可能かつ液漏れをしないとなるとやはりガラス製品になってくるようです。紹介ポイントは以下の通り

  • 有機電解合成のバッチ式リアクターを簡素化・標準化し提供
  • 電解合成における反応性や安全性の面から最適化されたガラスセル・PTFE栓・電極ホルダー・電極(電極は現在、14種類)
  • スケールアップ合成を検討可能な50mL/200mLのセルサイズ(通常型&ジャケット型)
  • R.Waldvogel教授監修(Johannes Gutenberg Univ. Mainz)

SynLectro (出典:シグマアルドリッチ)

 

というわけで、新製品は原点回帰でありながら、これまでに蓄積した経験を生かした拡張性の高い、モジュール型の製品でした。たくさんの反応をかけなければならないときには、最適ではないかもしれないですが、多くのオプションも揃っており、スケールアップ可能で、安価に購入できる本製品は第三の有機電解反応のプラットフォームとなりそうです。

追伸:SynLectroの名前の由来

SynLectro = synthesis and electroです。SynElectroよりCOOLな造語だそうです(米国native speakerの感覚として)

SynLectro関連リンク

参考文献

  1. Waldvogel, S.R., J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 12317−12324. DOI: 10.1021/jacs.7b07488

電解反応に関するケムステ記事

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 水素原子一個で強力な触媒をケージング ――アルツハイマー病関連…
  2. 第四回ケムステVシンポ「持続可能社会をつくるバイオプラスチック」…
  3. シクロデキストリンの「穴の中」で光るセンサー
  4. エルゼビアからケムステ読者に特別特典!
  5. 新しい構造を持つゼオライトの合成に成功!
  6. 乙卯研究所 研究員募集 第二弾 2022年度
  7. 精密分子設計による高感度MRI分子プローブの開発 ~早期診断に向…
  8. スケールアップのためのインフォマティクス活用 -ラボスケールから…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 天然の日焼け止め?
  2. 新しい選択的ヨウ素化試薬
  3. ヤモリの足のはなし ~吸盤ではない~
  4. \脱炭素・サーキュラーエコノミーの実現/  マイクロ波を用いたケミカルリサイクル・金属製錬プロセスのご紹介
  5. セルロースナノファイバーの真価【オンライン講座】
  6. こんなサービスが欲しかった! 「Chemistry Reference Resolver」
  7. なぜあなたの研究は進まないのか?
  8. 日常臨床検査で測定する 血清酵素の欠損症ーChemical Times 特集より
  9. ポメランツ・フリッチュ イソキノリン合成 Pomeranz-Fritsch Isoquinoline Synthesis
  10. 実験手袋をいろいろ試してみたーつかいすてから高級手袋までー

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年11月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP