[スポンサーリンク]

天然物

デルフチバクチン (delftibactin)

[スポンサーリンク]

GREEN2013delftibactin01.png

デルフチバクチンは、細菌のなかま(Delftia acidovorans )から分泌され、生命にとって有害な3価の金イオンAu3+を、金属金Au(0)に変えて析出させる作用を持った天然化合物。デルフチバクチンが発見されたときは「純金のウンコをする細菌の仕組みが分かった」と話題になりました。

 

金塊の表面にも細菌が!

金塊の表面には、いく種類かの細菌からなる特異な生態系がかたちづくられており、金属金の析出に重要な役割があることが指摘されていました[2]。目には見えなくても細菌はいたるところに生息します。一見すると何もいないかのように見えて、天然に産する金塊の表面でさえも、この例外に漏れず、細菌がうようよいるというのです。

 GREEN2013delftibactin02.png

金塊に住む細菌たちからなる独自の生態系をメタゲノムから解明!

一昔前まで微生物を研究するには、培養条件をどのように最適化するかが第一の課題でした。培地上でコロニーができるぐらいに増殖してくれなければ調べようもありません。しかし、次世代シーケンサと呼ばれるDNA配列を読み取る精密機械の性能が格段に向上し、研究手法は変化しています。土壌等の環境サンプルからDNAを抽出し、ポリメラーゼ連鎖反応で増幅したのち、DNAすべての配列を読んでしまうメタゲノム(metagenome)解析が、費用を抑えて可能になったのです。早速、このアプローチを、金塊の細菌叢にも適用。読んだ配列を、オンライン上に公開されている配列データベースと比較することで、金塊生態系の構成員が、解き明かされました[1]。

 GREEN2013delftibactin03.png

金属金を析出させる細菌を単離!

こうして見つかった細菌たちの中に、生命にとって有害金イオンを還元して、金属金にする細菌がいてもおかしくない。このように仮説を立てて、三価の塩化金を溶かした培地を作り、金塊生態系の主だった構成員から順に、目的の細菌が探索されました。そこで見つかった菌がデルフチア・アシドボランス(Delftia acidovorans )。コロニーの周りには析出した金属金が黒ずんで見えました[1]。

 GREEN2013delftibactin05.png

まずは金属金を析出させない変異体を獲得!

この金属金を析出させる作用を持った細菌のゲノム解読。ここでも次世代シーケンサの活躍です。配列データベースの情報と照らしあわせたところ、怪しげな遺伝子がいくつか見つかりました。この遺伝子をノックアウトしてつぶし、調べたところ、金属金を析出させない変異体を手に入れることができました[1]。この変異体がデルフチバクチン単離の糸口になります。

GREEN2013delftibactin04.png

そして代謝産物の比較でデルフチバクチンを同定!

ここで次はメタボローム。代謝産物の網羅解析です。質量分析の結果から、変異型株にはなく、野生型株にはあるピークを発見。核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance; NMR)を併用して構造決定した物質が、デルフチバクチンです[1]。

 GREEN2013delftibactin06.png

金属金を析出させる作用をデルフチバクチンで確認!

このデルフチバクチンを塩化金水溶液に加えると金属金がみるみる析出してきました。溶液の色が1時間ほどでみるみる変わっていくだけでなく、析出した金属結晶も電子顕微鏡で観察されています。ただ、金イオンではなくとも、鉄イオンでも金属鉄が析出したことから、デルフチバクチンが金だけに特異的というわけではないようです。デルフチア・アシドボランス(Delftia acidovorans )自体、金塊以外の土壌でも見つかるため、金だけにとらわれない複数の作用があるのでしょう。金属イオンをはさみこんで集積させ、金属結晶として析出させているものと、考えられます[1]。錬金術のように、金塊がざくざくと手に入るといった都合のよいことには、そのままでは利用しがたいと考えられます。一方、デルフチバクチンの発見により、細菌の特異な重金属耐性について、理解が深まりました。

 

  • デルフチバクチンの分子モデル

GREEN2013au.gif

  • 参考文献

[1] "Gold biomineralization by a metallophore from a gold-associated microbe." Johnston CW et al. Nature Chemical Biology 2013 DOI: 10.1038/nchembio.1179

[2] "Biomineralization of Gold: Biofilms on Bacterioform Gold." Reith F et al. Science 2006 DOI: 10.1126/science.1125878

Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. ビリジカタムトキシン Viridicatumtoxin
  2. イレッサ /iressa (gefitinib)
  3. 二酸化炭素 (carbon dioxide)
  4. ファイトスルフォカイン (phytosulfokine)
  5. ペンタレネン Pentalenene
  6. シガトキシン /ciguatoxin
  7. パクリタキセル(タキソール) paclitaxel(TAXOL)…
  8. クルクミン /curcumin

注目情報

ピックアップ記事

  1. 亜酸化窒素 Nitrous oxide
  2. フェリエ転位 Ferrier Rearrangement
  3. 第16回日本化学連合シンポジウム「withコロナ時代における化学への期待」
  4. 5/15(水)Zoom開催 【旭化成 人事担当者が語る!】2026年卒 化学系学生向け就活スタート講座
  5. あなたはどっち? 絶対立体配置
  6. 【なんと簡単な!】 カーボンナノリングを用いた多孔性ナノシートのボトムアップ合成
  7. チャート式実験器具選択ガイド:スパチュラ・グローブ編
  8. 有機合成化学協会誌2020年4月号:神経活性化合物・高次構造天然物・立体選択的エーテル環構築・二核ルテニウム錯体・多点認識型含窒素複素環カルベン
  9. 身近なカガクを説明した記事まとめ
  10. タンパクの骨格を改変する、新たなスプライシング機構の発見

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年7月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2025年1月号:完全キャップ化メッセンジャーRNA・COVID-19経口治療薬・発光機能分子・感圧化学センサー・キュバンScaffold Editing

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年1月号がオンライン公開されています。…

配位子が酸化??触媒サイクルに参加!!

C(sp3)–Hヒドロキシ化に効果的に働く、ヘテロレプティックなルテニウム(II)触媒が報告された。…

精密質量計算の盲点:不正確なデータ提出を防ぐために

ご存じの通り、近年では化学の世界でもデータ駆動アプローチが重要視されています。高精度質量分析(HRM…

第71回「分子制御で楽しく固体化学を開拓する」林正太郎教授

第71回目の研究者インタビューです! 今回は第51回ケムステVシンポ「光化学最前線2025」の講演者…

第70回「ケイ素はなぜ生体組織に必要なのか?」城﨑由紀准教授

第70回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

第69回「見えないものを見えるようにする」野々山貴行准教授

第69回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

第68回「表面・界面の科学からバイオセラミックスの未来に輝きを」多賀谷 基博 准教授

第68回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

配座制御が鍵!(–)-Rauvomine Bの全合成

シクロプロパン環をもつインドールアルカロイド(–)-rauvomine Bの初の全合成が達成された。…

岩田浩明 Hiroaki IWATA

岩田浩明(いわたひろあき)は、日本のデータサイエンティスト・計算科学者である。鳥取大学医学部 教授。…

人羅勇気 Yuki HITORA

人羅 勇気(ひとら ゆうき, 1987年5月3日-)は、日本の化学者である。熊本大学大学院生命科学研…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP