可視光励起パラジウムを用いたアリールハライドと末端アルキンのラジカルカスケード環化を報告した。得られたフェナントレン誘導体はPAHのモジュラー合成へと応用できる。
励起パラジウムを用いたラジカルカスケード環化反応の開発
多環芳香族炭化水素(PAH)は優れた電気伝導性と蛍光特性を示すため、有機ELや有機トランジスタへの応用が期待される分子群である[1]。特にフェナントレン誘導体は医薬品や天然物の主骨格にも含まれ、創薬分野でも注目される[2]。これまでに多様なPAH合成法が開発されており、中でもパラジウム触媒を用いたクロスカップリングは強力な手法である。例えば、薗頭カップリングの後、ルイス酸存在下分子内環化により縮環骨格を構築する手法は、PAH合成に広く用いられる(図 1A)。しかし、薗頭カップリングは高温が必要であり、多様なPAHの合成にはより温和な条件が求められる。さらに、カップリングと環化が一挙に進行すれば、PAH合成の短工程化が実現できる。
著者らは光励起パラジウムに着目した。光励起されたパラジウム(0)はアリールハライドとの一電子移動(SET)/酸化的付加によりPd(I)/アリールラジカル中間体を生成する[3]。今回著者らは、このPd(I)/アリールラジカル中間体が末端アルキンに付加し、ビニルラジカルを生じれば、続く分子内環化により一挙に芳香環を構築できると考えた(図 1B)。実際に著者らは、光励起パラジウムを用いたアリールハライドと末端アルキンの分子間ラジカルカスケード環化反応の開発に成功した(図 1C)。本反応は室温で進行し、高い官能基許容性を示した。さらに、得られたフェナントレン誘導体は、ハロゲン化した後再度本ラジカル環化条件に付すことで、複数の縮環された芳香環も構築できる。
“Modular Synthesis of PAHs from Aryl Halides and Terminal Alkynes via Photoinduced Palladium Catalysis”
Zhou, C.; Li, P.; Chen, M. Nat. Commun. 2025, 16, 8349.
DOI: 10.1038/s41467-025-62466-7
論文著者の紹介
研究者 : Ming Chen (陈 铭)(研究室HP)
研究者の経歴 :
2010 B.Sc., Soochow University, China
2015 Ph.D., Shanghai Institute of Organic Chemistry, China (Prof. Yuanhong Liu)
2015–2016 Research Assistant, Shanghai Institute of Organic Chemistry, China (Prof. Yuanhong Liu)
2016–2020 Postdoc, The University of Chicago, USA (Prof. Guangbin Dong)
2021– Professor, Changzhou University, China
研究内容:遷移金属触媒を基盤とした有機合成法開発および触媒・配位子設計
論文の概要
条件検討の結果、ベンゼン中、Pd(OAc)2/DPEphos触媒存在下、K3PO4を添加し、ビアリールハライド1aおよびフェニルアセチレン(2a)に対し青色光を照射することで、ラジカルカスケード環化が進行し、フェナントレン誘導体3aを与えた(図 2A)。本反応は非常に高い官能基許容性を示し、電子密度の異なるアリール基(2b and 2c)やアルキル基(2d)、シリル基(2e)をもつアセチレンに利用可能である。また、本反応は天然物の誘導化にも適用でき、側鎖に末端アルキンをもつステロイドから3fが合成できた。ビアリールハライドとしてN-アリールピロール1gも利用可能であり、さらに3hのような[4]ヘリセン骨格をもつ歪んだPAHも合成できた。
次に、著者らは機構解明実験に着手した(図 2B)。まず、対照実験としてフェニルアセチレン4を最適条件に付したところ分子内環化は進行せず4を回収した。この結果は、本反応が薗頭カップリング経由ではないことを支持する。また、ラジカルトラップ実験、ラジカルクロック実験、EPR測定により、本反応がラジカル機構で進行することが示唆された(本文参照)。
次に推定反応機構を示す(図 2C)。まず、青色光によって励起されたパラジウムがアリールハライド1にSETを伴う酸化的付加をすることで、Pd(I)/アリールラジカル中間体Int-Aを生じる。次に、アルキン2に対してラジカルInt-Aが付加してビニルラジカルInt-Bが生じる。その後、芳香環に対する分子内ラジカル環化が進行し、Int-Cを生成する。生じたInt-Cから3とInt-Dが得られる。最後に還元的脱離が進行し、Pd(0)が再生する。
さらに著者らは本反応を用いたPAHのモジュラー合成を試みた(図 2D)。まず、ヨードビフェニル1aを本反応に付すことでフェナントレン誘導体3iが得られる。続いて、3iの薗頭カップリングと一塩化ヨウ素を用いたヨード環化により、ヨードベンゾ[g]クリセン5を与えた。そして、再度5をラジカル環化条件に付すことによって7つの芳香環が縮環した6を、1aからわずか四工程で合成することに成功した。このほかにも多様な骨格をもつPAHのモジュラー合成に成功している。
以上、光励起パラジウムを用いたアリールハライドと末端アルキンの分子間ラジカルカスケード環化反応が報告された。本反応はモジュラー合成にも応用でき、複雑な縮環骨格をもつPAHを自在に構築できる。
参考文献
- (a) Chen, L.; Hernandez, Y.; Feng, X.; Müllen, K. From Nanographene and Graphene Nanoribbons to Graphene Sheets: Chemical Synthesis. Angew. Chem., Int. Ed. 2012, 51, 7640–7654. DOI : 10.1002/anie.201201084. (b) Mei, J.; Diao, Y.; Appleton, A. L.; Fang, L.; Bao, Z. Integrated Materials Design of Organic Semiconductors for Field-Effect Transistors. J. Am. Chem. Soc., 2013, 135, 6724–6746. DOI : 10.1021/ja400881n.
- Tóth, B.; Hohmann, J.; Vasas, A. Phenanthrenes: A Promising Group of Plant Secondary Metabolites. Nat. Prod. 2018, 81, 661–678. DOI: 10.1021/acs.jnatprod.7b00619.
- Sarkar, S.; Cheung, K. P. S.; Gevorgyan, V. Recent Advances in Visible Light Induced Palladium Catalysis. Angew. Chem., Int. Ed. 2024, 63, e202311972. DOI: 10.1002/anie.202311972.































