[スポンサーリンク]

chemglossary

卓上NMR

[スポンサーリンク]

卓上NMR (Benchtop NMR)とは、通常のNMRよりも小型で、専用の部屋を必要としないNMRのことである。永久磁石を使っているためメンテナンスが簡便である一方、共鳴周波数は通常のNMRより低いため分解能は劣る。

NMRにおける磁石

ケムステでは過去にNMRの原理ついて解説してきたのでここでは割愛する(例えば、NMRの基礎知識【原理編】を参照)が、高磁場を発生されるために通常のNMRでは大型で高重量のコイルを使用している。そのため、NMR専用の部屋に厳重な地震対策を施したうえで設置している場合が多い。また超伝導状態にするために液体ヘリウムと液体窒素も必要であり、特に液体ヘリウムは液化装置が一般的でないため定期的に充填する必要がありメンテナンス費用が高価である。このような事情により、NMRは簡単に導入できる機器ではないことがわかる。

NMR装置の構成(JEOL RESONANCEのページより引用)これらすべてを入れるにはマンションのワンルームほどの広さの部屋が必要になってしまう。

NMRの歴史を紐解くと初期のNMRは永久磁石を使っていたが、高磁場を得るためにすぐに電磁石、超電導磁石へと変わっていった。一方で、2000年以降から永久磁石を使った小型のNMRによる測定の研究も続けられ 2010年に世界初の卓上型NMR「Picospin」が発売された。日本には2012年から代理店による取り扱いが始まり大きな話題になった

卓上NMRラインナップ

現在では四社の卓上NMRが有名であり、それぞれについて機能や特徴を下に記す。

Picospin

世界初の卓上型NMRを発売したPicospinは2012年に分析機器大手のThermo Fisher Scientificに買収され、現在ではThermo Fisher Scientificのプロダクトとして販売されている。2010年発売時のPicospinは45 MHzの共鳴周波数だったが、現在では、Picospin 80 という共鳴周波数が82 MHzのより分解能が高いモデルも発売されている。最大の特徴はシリンジでサンプルを注入するだけで測定ができることで、NMRチューブが必要ない。また、サンプル部は、汎用の接続口を使用しているためin situ NMRなどいろいろな応用が可能である。

装置写真(Thermo Fisher Scientificのページより引用)前部の赤いところが注入口で青いところから測定済みのサンプルが排出される。

Spinsolve

Spinsolveはニュ―ジーランドのMagritek社が2013年に発売を開始した卓上NMRである。Picospinとは異なり、サンプルをNMRチューブに入れて、装置に差し込み測定する。特徴は豊富な製品ラインナップで、共鳴周波数は43,60,80 MHzから選ぶことができ、核種のオプションを選択すると7Li, 11B, 13C, 15N, 29Si, 31Pも測定できる。また多彩な二次元NMRも測定することができる。また最近になってSpinsolve ultraという水のピークを抑制しながらHの測定ができるシリーズを発売した。

装置写真(Magritekのページより引用)上部の白いカバーを外してNMRチューブを入れる。

NMReady

NMReadyはカナダのNanoanalysis社が開発した卓上NMRである。Spinsolve同様にサンプルをNMRチューブに入れて、装置に差し込み測定する。共鳴周波数は60 MHzで1Hか19F測定のNMReady 60eか1Hと13C,11B,19F, 31Pのどれか一つを選ぶことができるNMReady 60Proがありいくつかの二次元NMRを測定できる。特徴はタッチパネルによる操作ができることで、PC分の場所が必要ないことである。測定データはUSBで取り出すことができる。

装置写真(Nanoanalysisのページより引用)

Pulsar

PulsarはOxford Instruments社が開発した卓上NMRで、SpinsolveやNMReady同様にサンプルをNMRチューブに入れて、装置に差し込み測定する。共鳴周波数は60 MHzで1Hと19Fを二次元を含めて測定できる。使い勝手に定評があるMestrelab社製のMnovaソフトウェアの永久ライセンスがついていることが特徴である。

装置写真(Oxford Instrumentsのページより引用)

四台の性能比較

同じ周波数と核種で比べると価格は4つとも同じくらいの価格になるようである。Picospin以外でもFlow測定が可能なオプションアクセサリーを用意していて卓上NMRの利点を十分に活かすしようとなっている。キャリブレーションは一日一回に加えて適宜自動で短時間行われるため、サンプルを準備したらすぐに測定できる。

用途

一つは、学生実験用が挙げられ簡単な構造の化合物を短期間で学生実験室内で調べることができるため有用であると考えられる。また、同一の化合物を大量に測定するQA/QC用途でも便利であると考えられる。インダストリーサイドでは、メンテナンス費用の高い機器は購入しにくく外注するのが一般的である。そのため、通常のNMR購入と外注の中間のオプションとなる。紹介したPicospin以外の卓上NMRはNMRチューブを使うため、測定に使ったNMRチューブをそのまま通常のNMRで測定できるためサンプル準備が二度手間にならないという利点がある。

あるアメリカのNMR専門の分析会社では二台(PicospinとSpinsolve)も卓上NMRを導入している

世界的に卓上NMRのマーケットは拡大しているようで、市場調査レポートも発行されている。ただし、磁石が強力になれば機器の値段が高額になり(各社の最高級モデルは1000万円以上)、普通のNMRと純粋に機能を比べて中途半端ということも言える。もちろん冷媒が必要ないというのは大きなメリットであり、今後さらなる高磁場化が期待される。

関連書籍

[amazonjs asin=”4781912958″ locale=”JP” title=”磁気共鳴‐NMR―核スピンの分光学 (新・物質科学ライブラリ)”] [amazonjs asin=”4320044495″ locale=”JP” title=”qNMRプライマリーガイド ―基礎から実践まで―”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. レドックスフロー電池 Redox-Flow Battery, R…
  2. メカニカルスターラー
  3. 定量PCR(qPCR ; quantitative PCR)、リ…
  4. 重医薬品(重水素化医薬品、heavy drug)
  5. 蛍光異方性 Fluorescence Anisotropy
  6. メソリティック開裂 mesolytic cleavage
  7. 分子の点群を帰属する
  8. 薄層クロマトグラフィ / thin-layer chromato…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 調光機能付きコンタクトレンズが登場!光に合わせてレンズの色が変化し、目に入る光の量を自動で調節
  2. 有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合
  3. 荷電処理が一切不要な振動発電素子を創る~有機EL材料の新しい展開~
  4. やっぱりリンが好き
  5. 天然物の構造改訂:30年間信じられていた立体配置が逆だった
  6. クロスカップリング反応にかけた夢:化学者たちの発見物語
  7. マシンラーニングを用いて光スイッチング分子をデザイン!
  8. 二重マグネシウム化アルケンと二重アルミニウム化アルケンをアルキンから簡便に合成!
  9. ケムステV年末ライブ2025を開催します!
  10. 【書籍】化学探偵Mr.キュリー4

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年5月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

有機合成のカラム精製に革新を 〜モノリスカラムで変わる「研究のスピード」〜

筆者の研究室では有機合成を行っています。合成も大変ですが、何より大変なのが精製操作。最近、とある…

酸素は系内に入り込み続ける【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

アンモニウム構造によりラジカル種の発生位置を完全に制御!

第710回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の榊原 陽太(さかきばら …

化学つれづれ草【ある研究者の回想】

概要物理化学者で量子機能材料を専門とする著者によるエッセイ集.化学者としての研究,教育,人生…

第60回有機反応若手の会

開催概要有機反応若手の会は、有機化学分野で研究を行う全国の大学院生を中心とした若手研究者が集い、…

ノーベル賞受賞者と語り合う5日間!「第18回HOPEミーティング」参加者募集!

申し込みはこちら概要主催:独立行政法人 日本学術振興会(JSPS)開催地:神奈川…

光触媒による高効率なCO2還元の実現―まさかの光を弱く当てることが重要だった―

第709回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 理学院(前田研究室)博士後期課程2年の仲田竜一 …

「π-πスタッキング」という言葉が生む誤解【芳香環の相互作用を見直す: 前編】

芳香環が平行に並んで近接しているとき、その構造を「π–π スタッキング」と表されることがよくあります…

一重項酸素によるC(sp2)−P結合切断を用いた長波長光によるリン化合物のアンケージング

第 708 回のスポットライトリサーチは、同志社女子大学 薬学部 医療薬学科 5…

マテリアルズ・インフォマティクスにおける画像解析の活用ガイド

開催概要材料開発において、電子顕微鏡やX線トモグラフィーを用いて材料の微細構造を観察するために画…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP