[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

蒸留操作で水はどう動くのか【プロセス化学者のつぶやき】

[スポンサーリンク]

前回まで
1. 設定温度と系内の実温度のお話
2. 温度値をどう判断するか
3. 反応操作をしなくても、化合物は変化する
4. わざと失敗する実験
5. 水分はどこにあるのか

蒸留操作で水はどう動くか

前記事で書いた水に関して少し踏み込んで話します。
多くの反応では水は除くべき対象であり、その脱水操作はさまざまな種類があります。

例えば

  • 硫酸マグネシウムなどを水和させて吸水する
  • モレキュラーシーブスなどで水を吸着させる
  • 蒸留により水を系外に排出する

です。
なかでも蒸留による脱水は蒸留装置があれば、何回でもでき、脱水剤を不要とする場合も多いため、工業的にも一般的に行われる手法です。

蒸留操作での脱水は例として

  • 脱水剤(NaやCaH2)で水を不可逆的に捕捉し、留出側で脱水溶剤を取得する方法
    メリット :不可逆的で、理論的には完全な無水状態まで水除去が可能
    デメリット:発火リスクがある
  • 蒸留の分離能を上げて留出側で脱水溶剤を取得する方法
    メリット :脱水剤が不要のため、廃棄物が少ない
    デメリット:溶剤の沸点が水よりも低く、水との共沸点を持たない溶剤のみ有効
  • 共沸現象を応用し、共沸成分と水を留去し釜側で脱水溶剤を取得する方法
    メリット :工業化もしやすい簡便さ
    デメリット:溶剤自身の沸点よりも低い水との共沸点をもつ溶剤のみ有効

があり、一言に蒸留脱水と言っても水を除去する場所が異なります。
釜に残すか、留分に抜き出すか、試薬と反応させるか。
水と溶媒の関係性で適切な操作が変わります。

蒸留は系内視点では水を除去していますが、系外も含めると水の居場所を変えている、
いわば水を系内外に
再分配している操作と捉えることができます。

蒸留で「乾いた」と言えるか

除去工程以上に、除去できたかが重要で、それは測定しなければ分かりません。
前記事「水分が把握できず推論になる例」で話した蒸留は以下のような状況でした。

①現象
長時間蒸留すると反応収率が上がった。

②前提
留分が系外に抜ける一般的な蒸留においては蒸留時間だけを長くするという動作はできない。
全還流状態を長くしたり、還流比を増やしたり、上昇蒸気量を減らすために熱源温度を下げたりすることで始めて蒸留時間が長くなる。

③今回のケース
装置が特殊な蒸留になります。
以下の図の様に

  • 留分受器の容量を超えると液が釜へ戻り続ける(エバポレーターのトラップのような器具)
  • 充填材なしの単蒸留
  • 断熱なしの空冷

図1 オーバーフロー型の溶媒精製蒸留装置

④推測
本装置において以下の状態と考えられます。

  • 留分が蒸留時間を長くする
    =全還流状態を長時間保持すること。
  • 単蒸留では理論段数がほぼない
    =還流比を上げても分離性能の向上は限定的。
  • 蒸留塔が断熱されず空冷
    =塔内の壁部ではガスが凝縮し液滴が生じていた。壁で凝縮気化を繰り返し若干の理論段数(分離能力)が発生したと推測。

この条件下では分離能がある状態で全還流状態になったため、限りなく分離性能の高い蒸留操作になったと考えられます。
その上で水との共沸する成分でなかったため、初留分に当たる受器には水分がほとんどなかったと推測しています。

⑤問題点
肝心の水分測っていないので、△△wt%から〇〇ppmに減少したのかは不明であり、
この推測は定量的な裏付けを持たないままとなります。

まとめ

蒸留は系内水を除去できる操作ですが、
系外も視野に入れると蒸留は“水を再分配する操作”と言えます。

以下のポイントが脱水能力に影響します。

  • 水が留出するか(共沸 or 沸点差)
  • 分離能(理論段数)
  • 還流状態

しかし、どこまで除去できたかは操作条件と装置に依存します。
そして何より、測定しなければ、どれほど脱水できたかは分かりません。

蒸留によって「乾いた」と判断するためには、操作ではなく、測定による裏付けが不可欠です。

関連記事

関連書籍

joe

投稿者の記事一覧

化学メーカーで研究、生産技術を経験。
現在は製造スケールのプロセス条件設計を行っています。カメを飼っています。

関連記事

  1. 化学でもフェルミ推定
  2. ラジカルonボロンでフロンのクロロをロックオン
  3. 細胞同士の相互作用を1細胞解析するための光反応性表面を開発
  4. 巨大ポリエーテル天然物「ギムノシン-A」の全合成
  5. 『リンダウ・ノーベル賞受賞者会議』を知っていますか?
  6. ノーベル賞受賞後に MOF 研究者は何を考えるべきか【考察】
  7. 酵素の動作原理を手本として細孔形状が自在に変形する多孔質結晶の開…
  8. 環状ペプチドの効率的な化学-酵素ハイブリッド合成法の開発

注目情報

ピックアップ記事

  1. 銅触媒によるアニリン類からの直接的芳香族アゾ化合物生成反応
  2. 高温焼成&乾燥プロセスの課題を解決! マイクロ波がもたらす脱炭素化と品質向上
  3. クリスチャン・ハートウィッグ Christian Hertweck
  4. ロルフ・ヒュスゲン Rolf Huisgen
  5. 低分子化合物の新しい合成法 コンビナトリアル生合成 生合成遺伝子の利用法 Total Synthesis vs Total Biosynthesis
  6. 金属を超えるダイヤモンド ーボロンドープダイヤモンドー
  7. ジブロモイソシアヌル酸:Dibromoisocyanuric Acid
  8. 新生HGS分子構造模型を試してみた
  9. 有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発
  10. 第141回―「天然と人工の高分子を融合させる」Sébastien Perrier教授

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2026年5月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

蒸留操作で水はどう動くのか【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

ペプチドを細胞に入れるには? ― クロロアルケン置換が切り拓く膜透過性の新戦略 ―

第 704 回のスポットライトリサーチは、静岡大学大学院 光医工学研究科 光医工学共…

核酸・ペプチド医薬品CDMO市場について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、核酸・…

ケモインフォマティクス

概要化合物の化学構造データやオミクスデータを情報解析するケモインフォマティクスを解説。(…

第61回Vシンポ「中分子バイオ医薬品分析の基礎と動向 ~LCからLC/MSまで、研究現場あるあるとその対処~」を開催します!

こんにちは、Macyです。第61回Vシンポのご案内をさせていただきます。今回は、Agilen…

水分はどこにあるのか【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

「MI×データ科学」コース 〜LLM・自動実験・計算・画像とベイズ最適化ハンズオン〜

1 開講期間2026年5月26日(火)、29日(金) 計2日間2 コースのねらい、特色近…

材料の数理モデリング – マルチスケール材料シミュレーション –

材料の数理モデリング概要材料科学分野におけるシミュレーションを「マルチスケール」で理解するた…

第59回天然物化学談話会@宮崎(7/8~10)

ごあいさつ天然物化学談話会は、全国の天然物化学および有機合成化学を研究する大学生…

トッド・ハイスター Todd K. Hyster

トッド・カート・ハイスター(Todd Kurt Hyster、1985年10月10日–)はアメリカ出…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP