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スポットライトリサーチ

ペプチドを細胞に入れるには? ― クロロアルケン置換が切り拓く膜透過性の新戦略 ―

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第 704 回のスポットライトリサーチは、静岡大学大学院 光医工学研究科 光医工学共同専攻 (鳴海研究室) で博士号を取得され、2026年4月から 神戸学院大学 薬学部 国嶋研究室の助手として活躍されている、竹尾 沙優里 (たけお さゆり) 先生にお願いしました!

竹尾さんが所属されていた静岡大学 鳴海哲夫研究室では、創薬や有機分子触媒などへの応用を見越した最先端の有機合成化学研究を展開されており、中でも「ペプチド結合等価体」の合成と応用に力を入れて研究されています (鳴海先生には、第 48 回ケムステVシンポ「ペプチド創薬のフロントランナーズ」でもご講演いただきました)。

今回、竹尾先生らの研究チームでは、ペプチド結合を、ジペプチドの生物学的等価体であるクロロアルケンジペプチドイソスターに置換することで、医薬分子として有用な中分子ペプチドの膜透過性を大幅に向上させることに成功しました。中分子の環状ペプチドなどは注目のモダリティとして創薬応用が盛んに研究されていますが、分子量の大きさに加えてペプチド結合の化学的性質による薬物動態への影響が無視できません。
本研究では「”似てるけど違う”有機分子を作り、生命現象を科学する」という等価性(isosterism)に着目した研究戦略とその創薬における実用性が高く評価され、創薬化学誌の最高峰である Journal of Medicinal Chemistry に掲載されるとともに、静岡大学よりプレスリリースも行われました。

Amide-to-Chloroalkene Substitution for Peptide Backbone Modification to Enhance Membrane Permeability

Sayuri Takeo, Mio Takeda, Chihiro Iio, Ai Sakakibara, Showmitra Saha, Natsuki Shibata, Yuki Yamazaki, Takahiro Fujii, Ryuhei Harada, Kohei Sato, Nobuyuki Mase, Mizuki Watanabe, Takanori Oyoshi*, Tetsuo Narumi*

J. Med. Chem. 2026, 69, 6, 6440–6460, DOI: 10.1021/acs.jmedchem.5c02090.

研究を現場で統括された、教授の鳴海哲夫先生より、竹尾先生についてのコメントを頂戴しております!

竹尾さんは、普段は優しさが滲み出るような穏やかな雰囲気をもっていますが、研究となると一転して高い集中力を発揮し、粘り強く最後までやり抜くタイプの研究者です。今回の研究では、有機合成やペプチド合成に加え、PAMPA や細胞を用いた膜透過性評価、さらには分子設計の議論まで幅広く取り組み、研究を多面的に前へと推進してくれました。新しいことにも臆せず飛び込み、自らの力で着実に身につけていく吸収力と実行力は、彼女の大きな魅力です。研究室内では後進の指導にも積極的に関わり、「頼れるお姉さん的存在」として周囲からの信頼を集めていました。今後、大学教員としてさらに経験を重ね、より一層面白い研究を切り拓いていくことを期待しています。

それでは、インタビューをお楽しみください!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

中分子ペプチドは、タンパク質–タンパク質相互作用を標的とできることから、創薬分野で大きな注目を集めています。一方で、ペプチドは細胞膜を透過しにくいため、細胞膜内の標的を狙う上で大きな障壁となっています。
本研究では、この問題に対して「水素結合」という観点からアプローチしました。具体的には、ペプチド結合をジペプチドの生物学的等価体であるクロロアルケンジペプチドイソスター (CADI) に置換することで、水分子との相互作用を制御し、膜透過性に与える影響を体系的に評価しました。
その結果、CADI は単に疎水性を高めるだけでなく、ペプチドの脱水和状態を促進することで、膜透過に有利に働くことが示唆されました。実際に、ジペプチドにおいては既知の主鎖改変技術と比較して最も高い受動的膜透過性を示しました。さらに、CADI を導入した鎖状および環状ペプチドミメティックにおいて、細胞膜透過性の大幅な向上が確認されました。
また、CADI を導入したペプチドミメティックは、細胞レベルでは主にエンドサイトーシスを介して取り込まれ、細胞質に到達することが明らかになりました。加えて、CADI の導入によって膜透過性だけでなく、創薬標的として重要な核酸 (グアニン四重鎖) への結合選択性の向上も確認されました。
本研究は、ペプチド主鎖のわずかな化学構造の違いが、生体内での振る舞いを大きく左右することを示すとともに、膜透過性を指向した新たな分子設計の視点を提示するものです。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

これまでアルケンジペプチドイソスター (ADI) は、主に加水分解耐性や配座制御の観点から研究されてきました。先輩方や私自身も本研究以前は、それらに関連する研究を中心に進めてきました。本研究では、そうした従来の視点に加えて、ADI の「水素結合の性質」というこれまで十分に議論されてこなかった側面に着目しました。
ADI の水素結合能に着目し、その物性への影響を体系的に評価したことで、中分子ペプチド創薬における ADI の新たな可能性を示すことができたと考えています。これまで積み重ねられてきた ADI 研究の流れの中で、このような形で関わることができたことを意義深く感じるとともに、先輩方から受け継いできたこのクロロアルケン骨格には強い思い入れがあります。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

CADI を導入すれば単純に膜透過性が向上する、というわけではなかった点です。特に、CADI を導入した鎖状や環状のペプチドミメティックは、PAMPA 法では期待通りの傾向が見られず、LogD7.4との相関も明確ではありませんでした。一方で、長鎖のアルギニン–グリシン–グリシン (RGG) ペプチドでは、細胞レベルで明確な透過性向上が観測されており、この違いをどのように理解するか戸惑いました。そこで、鳴海先生や研究室メンバーと議論を重ねる中で、膜との相互作用や、評価系によって反映される取り込み機構の違いに着目するようになり、人工膜と細胞では異なる振る舞いを示す可能性を考えるようになりました。結果として、評価系を拡張することで一貫した理解に到達することができ、単一の指標に依存せず、多面的に現象を捉える重要性を強く実感しました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

私はこの春から神戸学院大学薬学部の国嶋 崇隆教授の研究室にて助手として研究を続けていきます。化学について、知れば知るほど奥深く、興味深い学問だと感じる一方で、自分の未熟さを痛感することも多くあります。だからこそ、これからも化学と真摯に向き合い、日々の勉強や研究を積み重ねていきたいと思っています。研究の過程で結果に一喜一憂することも含めて楽しみながら、最終的には社会に貢献できる成果につなげていきたいと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

今回、CADIの膜透過性というテーマを一つの形にまとめることは、私にとって大きな挑戦でした。未知の領域に踏み込むことに不安もありましたが、それ以上に挑戦したいという気持ちが研究を前に進めてくれました。
研究は思い通りに進まないこともありますが、結果に粘り強く向き合うことで、新しい視点が見えてくると感じています。今回の研究を通して、その過程そのものが自分を成長させ、豊かにしてくれるのだと改めて実感しました。研究の魅力が、少しでも読者の皆様に伝われば幸いです。

最後になりますが、このような貴重な経験をさせてくださった鳴海先生に、心より感謝申し上げます。化学や研究に対する深い情熱を間近で感じ、多くのことを学ばせていただきました。また、研究室の皆様、ならびに本研究にご協力いただいた共同研究者の皆様に深く感謝いたします。さらに、このような貴重な機会を与えてくださった Chem-Station スタッフの方々に、この場をお借りして御礼申し上げます。

研究者の略歴

名前: 竹尾 沙優里 (たけお さゆり)
所属: 神戸学院大学 薬学部 国嶋研究室 助手
(論文執筆時: 静岡大学大学院 光医工学研究科 光医工学共同専攻 鳴海研究室 博士後期課程3年)

 

竹尾先生、鳴海先生、インタビューにご協力いただき誠にありがとうございました!
それでは、次回のスポットライトリサーチもお楽しみに!

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創薬化学者と薬局薬剤師の二足の草鞋を履きこなす、四年制薬学科の生き残り。
薬を「創る」と「使う」の双方からサイエンスに向き合っています。
しかし趣味は魏志倭人伝の解釈と北方民族の古代史という、あからさまな文系人間。
どこへ向かうかはfurther research is needed.

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