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スポットライトリサーチ

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

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第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士課程後期1年の 友田 和希(ともた・かずき)さんにお願いしました!

友田さんの所属されている有機合成化学研究室(吉田研究室)では、新規反応の開発・新規分子の創造を軸にした先進的研究を展開されており、クロスカップリング反応において重要な有機ホウ素化合物・有機スズ化合物や、高反応性活性種であるアラインの合成化学などに取り組んでおられます。これまでにもスポットライトリサーチにおいてその研究成果を取り上げさせていただいておりますので、本記事下部の関連記事リンクよりぜひご覧ください!

今回、友田さんらの研究グループは、有機ホウ素反応剤を使った鈴木–宮浦クロスカップリング反応に関して、反応剤の安定性と反応性を両立させる手法の開発に成功しました。既存の一部の有機ホウ素化合物はカップリング反応条件に不安定なこともあり、その構造の有用性に反して利用が難しい場面がありました。友田さんらはその問題点を克服し、医薬品や化成品などの工業生産に繋がる重要な成果を挙げ、JACS Au 誌に掲載されるとともに広島大学よりプレスリリースされました。

Weak Base-Promoted Direct Cross-Coupling of Naphthalene-1,8-diaminato-substituted Arylboron Compounds

Kazuki Tomota, Jialun Li, Hideya Tanaka, Masaaki Nakamoto, Takumi Tsushima, Hiroto Yoshida*

JACS Au 2024, 4 (10), 3931–3941, DOI: 10.1021/jacsau.4c00665.

Abstract

The indispensability of a base in Suzuki–Miyaura coupling (SMC) employing organoboronic acids/esters is well recognized, which occasionally induces competitive protodeborylation in organoboron reagents. This phenomenon is particularly pronounced in fluorine-substituted aryl and heteroaryl boron compounds. Here, we show that direct SMC of naphthalene-1,8-diaminato (dan)-substituted aryl boron compounds, Ar–B(dan), characterized by its remarkable stability toward protodeborylation due to their diminished boron-Lewis acidity, occurs utilizing a weak base in conjunction with a palladium/copper cooperative catalyst system. The approach delineated in this study enables the efficient incorporation of various perfluoroaryl– and heteroaryl–B(dan) reagents, while maintaining high functional group tolerance. Furthermore, the inherent inertness of the B(dan) moiety allowed sequential cross-coupling, where other metallic moieties chemoselectively undergo the reaction, thus leading to the concise, protection-free synthesis of oligoarenes. Our results provide a potent approach to a delicate dilemma between a protodeborylation-resistant property and SMC activity intimately linked to boron-Lewis acidity.

研究室を主宰されている、教授の 吉田 拡人 先生より、友田さんについてのコメントを頂戴しております!

友田君は、穏やかな人柄で、自身を大きく見せようとすることなく等身大で表現できる人格の練れた人物です。研究に対する情熱は人一倍高く、研究室メンバーからの信頼も厚いです。今回の研究は、友田君が彼の強みである、実験技能の高さ・鋭い観察力を存分に活かして、大部分を1人で成し遂げました。現在アメリカ留学で研鑽中ですが、帰国後も学生のリーダーとして研究室を牽引し、将来は我が国の科学技術を先導する人材に成長してくれると期待しています。

それでは、インタビューをお楽しみください!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

今回我々は、強力にルイス酸性が抑制された保護型ホウ素反応剤[Ar−B(dan)]を用いることで、鈴木–宮浦クロスカップリング反応に唯一残されたとも言える課題を解決する新手法を開発しました。現在,数多くの医薬品や機能性材料の工業生産に用いられている鈴木–宮浦クロスカップリング反応 (SMC) では、アリールボロン酸 [Ar−B(OH)2] や、ボロン酸ピナコールエステル [Ar−B(pin)] が頻繁に原料として用いられますが、単離操作や、反応進行に必須の塩基に対する耐性が低く、反応利用が困難な有機ホウ素化合物も存在します (図A)。特に、ペンタフルオロフェニルのようなフッ素置換アリール、ピリジルやチアゾリルのようなヘテロアリールは医薬品や機能性材料に頻出の骨格であるにも関わらず、それらの対応するボロン酸は中性条件や塩基性条件で非常に不安定であることが知られています。この課題解決は合成化学だけでなく薬学や材料化学など他分野の発展にとっても重要であり、長年多くの有機化学者を悩ませてきました。

一方、我々の研究グループでは、この不安定ホウ素化合物のホウ素周りを1,8-ジアミノナフタレン (dan) で置換することで、単離操作だけでなく塩基に対しても極めて安定になることを明らかにしています (図 B)。しかし、塩基に対する安定性の向上は、同時に SMC における反応性の低下をもたらすため、この Ar−B(dan) を SMC に用いる際は、強塩基の使用が必須でした (図 C)。この条件では 2-ピリジルB(dan) の反応は効率よく進行しましたが、ペンタフルオロフェニルや 5-チアゾリルB(dan) は、反応系への僅かな水の混入で即座に分解してしまい、反応効率が大幅に低下します。また、強塩基を使用するため官能基許容性も低下します。

今回我々は、このジレンマ解決に向け、パラジウム触媒に加え銅を協働触媒として用いることで Ar−B(dan) の弱塩基条件 SMC を達成しました(図 D)。実際に、従来の SMC が唯一苦手としていた、2-ピリジルやペンタフルオロフェニル、5員環ヘテロアリールを有機基とする B(dan) の SMC が効率よく進行し、対応するカップリング体を効率よく得ることに成功しました。また、弱塩基を用いる本手法は、以前の強塩基を必要としていた条件とは対照的に様々な官能基を利用でき、それらを損なうことなく高収率でカップリング体を得られます。本研究成果は、医薬品や機能性材料の様な有用分子合成の短工程化にも貢献することが期待されます。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

今回、より高い収率でカップリング体を得るため、膨大な量の条件検討を行いました。その中でも、特に綿密に条件を見直して良かったと感じるのは、反応溶媒です。DEE 中での SMC は中程度の進行しか見られなかったため、類似の溶媒である DME でも収率が改善されることはないだろうとあまり期待していませんでした。しかし、わずかな可能性を信じて DME 中でも反応を試みたところ、予想に反して高収率でカップリング体のみが得られました。GC で高収率の結果を確認した時の衝撃は、今でも鮮明に覚えています。

さらに、研究室にとどまらず、企業の方々にも本反応を使っていただきたいと強く思い、応用展開にも力を入れました。本成果の応用展開の1つでは、短工程合成を意識した化学選択的な連続クロスカップリングを行っています。元来低反応性であった B(dan) 部位を残したまま、スズ (Sn) などの他の金属部位や、異なる置換基を有するホウ素部位、B(pin) を選択的かつ連続的に反応に用いることができ、テトラアリールを短工程かつ高収率で得ることができました (図 E)。

ここにはすべての内容を記載しきれませんでしたので、ぜひ論文にも目を通していただけると幸いです。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

遷移状態計算には特に苦戦しました。これまで所属研究室では、計算化学を用いてホウ素のルイス酸性度の評価法などを開発してきましたが、遷移状態構造の調査に DFT 計算を取り入れるのは初めての試みでした。遷移状態の計算手法については、他研究室の友人に教えてもらったり、自分で調べながら学んだりしましたが、思った以上に時間と労力を要しました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

まずは、博士号取得までに先輩方を超えるような成果や実績を残すことを目指しています。そのために、今回挑戦した計算化学や、さまざまな分野での化学知識を積極的に身につけるよう努力を続けていきます。博士課程修了後は、製薬業界や消費財業界での研究職に従事したいと考えています。特に、消費者に実際に手に取ってもらえる製品の開発に大きく貢献できる研究者になることが私の目標です。また、企業での製品開発において、今回発表した成果を実際に活用し、短工程合成に貢献することも私の夢の1つです。

現在、カリフォルニア大学バークレー校の全合成を専門とする Maimone 研究室に留学中です。そのため、吉田研究室で培った精密有機合成技術に加え、留学中に習得した中分子の分子変換技術も活かせるような研究職に就くことを考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。振り返ると、この研究は私が大学4年生の頃からほぼ毎晩遅くまで取り組んできた努力の成果です。日々積み重ねた努力は必ず報われ、やがて様々な成果に繋がると信じて、熱心に研究に取り組んできました。ここで皆さんにお伝えしたいのは、研究室での「1日1日」を大切にしながら、常に真剣に取り組むことの重要性です。自分の好きな研究に没頭できる時間、そしてその時間が成果に繋がる瞬間は、あっという間に過ぎてしまいます。だからこそ、今できる限りの力を発揮し、前向きに努力を続けるべきだと思います。私は、人間の限界は、自分が思っているよりずっと先にあると思っています。しかし、その限界が来るのも、突然やってくるものです。だからこそ、体調に気をつけながら、自分の限界を少しずつ見極め、共に頑張っていきましょう!ここで努力できなければ、今後一生、真剣に取り組むことは難しいと思います。

最後に、貴重なスポットライトリサーチの機会を与えていただきました Chem-Station の皆様、本研究を遂行するにあたり吉田拡人教授、中本真晃准教授、対馬拓海助教をはじめ、多くの方々のご指導とご助力を賜わりました。この場をお借りして御礼申し上げます。

研究者の略歴

名前:友田 和希(ともた かずき)
所属:広島大学大学院・先進理工系科学研究科先進理工系科学専攻化学プログラム・有機合成化学研究室(吉田研究室)
研究テーマ:ルイス酸性抑制型有機ホウ素反応剤を用いる新しいクロスカップリング反応の開発
経歴:
2022年3月 広島大学理学部化学科 卒業
2023年4月-2024年3月 古川財団 奨学生
2024年3月 広島大学大学院先進理工系科学研究科博士課程前期 修了
2024年4月-現在 戸部眞紀財団 奨学生
2024年4月-現在 日本学術振興会特別研究員 (DC1)
2024年10月-2025年6月予定 アメリカ合衆国カリフォルニア大学バークレー校 訪問研究員
2024年4月-現在 広島大学大学院先進理工系科学研究科博士課程後期

研究室 HP 内プロフィール (Link)

 

友田さん、吉田先生、インタビューにご協力いただき、誠にありがとうございました!
それでは、次回のスポットライトリサーチもお楽しみに!

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・アラインをパズルのピースのように繋げる! (第 198 回スポットライトリサーチ)
・ホウ素化反応の常識を覆し分岐型アルケンの製造工程を大幅短縮 (第 360 回スポットライトリサーチ)

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創薬化学者と薬局薬剤師の二足の草鞋を履きこなしていた、四年制薬学科の生き残り。現在は私大薬学部教員として実験に邁進中。
薬を「創る」と「使う」の双方からサイエンスに向き合っています。
しかし趣味は魏志倭人伝の解釈と北方民族の古代史という、あからさまな文系人間。
どこへ向かうかはfurther research is needed.

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