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東工大発、光を操るイミド化合物/光で創られるロジウムアート錯体

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東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の安藤慎治教授、石毛亮平准教授と田淵敦子大学院生らのグループは、同学院 材料系の早川晃鏡教授、応用化学系の桑田繁樹准教授らと共同で、白色灯下では無色だが、紫外光照射により、結晶状態では明るい橙色の蛍光を発し、溶液中では溶媒種に依存した多色蛍光を示す新規イミド化合物の開発に成功した。(引用:東工大ニュース8月4日)

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の永島佑貴 助教、田中仁 大学院生、アントニオ・ジュニオ・アラウージョ・ディアス 大学院生、田中健 教授のグループは、「3価のロジウム錯体」を光励起しながら還元することで、高エネルギー錯体である「2価のロジウムアート錯体」へ変換することに初めて成功した。さらに、生成されたロジウムアート錯体を触媒に用い、簡便に有機ホウ素化合物を合成する手法を開発した。(引用:東工大ニュース8月4日)

東工大よりプレスリリースにて、溶媒種に応答して紫外光下でフルカラー蛍光を示す無色透明なイミド化合物を開発光を利用した「ロジウムアート錯体」の発生に成功が発表されたので研究内容を紹介させていただきます。

さっそく、フルカラー蛍光を示す無色透明なイミド化合物についての論文を見ていきます。まず本研究の背景ですが、幅広い波長領域で蛍光を発する化合物は、有機電子デバイスの発光材料として応用が期待されているため研究が進められています。特にソルバトクロミズムと名付けられた、溶媒の種類によって異なる蛍光波長を示す現象は、環境の変化で対応して蛍光の波長が変わるプローブとしての応用が考えられます。一方、分子構造に目を向ければ、芳香族アミド/イミドは強固な構造かつ光熱と化学的に安定性が高いため蛍光材料として注目を集めていますが、波長変換材料などへの応用には可視光を吸収せず紫外光のみを吸収して発光するストークスシフトの拡大が課題とされています。特に赤色蛍光を示す例は少なく、その前例も量子収率が中程度から低い結果にとどまっていました。またフルカラー蛍光を達成するには青、緑、赤の三原色を表現することが必要ですが、単一の分子が太陽光下では透明で、紫外光照射で紫から赤色までの蛍光を溶媒の違いによって示した化合物は見つかっていません。ESIPTは外部の環境に敏感であるため単一の分子で多色の蛍光を示す可能性があり、本研究では、ストークスシフトの拡大に効果的とされる励起状態分子内プロトン移動(ESIPT)現象に着目し、波長の短い紫外光を波長の長い可視赤色光に変換する新規イミド化合物の開発を目指しました。

励起状態分子内プロトン移動(ESIPT)の光物理過程のエネルギー準位図とスペクトル図。光吸収後に分子内で水素原子(プロトン)が移動することで分子の安定性が変化し、吸収エネルギーと発光エネルギーに差が生まれ、それが吸収波長と発光波長差(ストークスシフト)としてスペクトル上に観測される。(出典:東工大プレスリリース)

上記の機能を発現する分子を合成するため、まず時間依存密度汎関数を用いて理論計算を行いました。赤色蛍光を高い量子収率で示すには分子内相互作用と凝集起因消光性を抑える必要があり、種々の構造を比較したところトシル基で置換されたN-cyclohexylphthalimideが最も適切な蛍光を示すことが予測されました。

基底・励起状態における化学構造、吸収・蛍光スペクトルの計算値 (出典:原著論文)

実際に3-tosylamino-N-cyclohexylphthalimide (3TsAPI) を合成し結晶の蛍光を調べたところ、明るい橙色の蛍光を示しました。結晶状態では弱い蛍光である場合が多いものの、X線結晶構造解析により判明したかさ高い構造により分子凝集によるエネルギー損失が抑えられ、強い蛍光が得られることが明らかになりました。

(a) 3TsAPIの構造式 (b)結晶構造 (c)結晶状態における励起・蛍光スペクトル (出典:東工大プレスリリース)

次に10種類の溶媒に溶かして吸収スペクトルを測定したところ、どの溶媒も340 nmに強い極大を持つスペクトルが得られました。またDMSO以外の溶液の色は励起光照射なしでは無色となりました。DMSOの場合、419 nmに極大を持つブロードなピークがあり黄色の溶液となりました。この理由ついて部分的にプロトン解離したアニオンが形成しているためだとコメントしています。

溶媒における吸収スペクトルの違い (出典:原著論文)

次に励起と蛍光スペクトルを測定したところ、溶媒の種類で異なる色を示しフルカラーを示すことが分かりました。特にEtOHとMeOH, DMSO以外は600nm付近の蛍光を示しており、ESIPTが生じた後の分子が発する赤色蛍光が確認されました。

溶媒ごとの励起(点線)・蛍光(実線)スペクトル (出典:原著論文)

長い励起波長で長い寿命を持つ蛍光の正体を突き止めるために、トリフルオロ酢酸を添加して蛍光とその寿命を測定しました。すると、長い寿命を持つ蛍光が抑えられESIPT生じた後の分子が発する蛍光が増加することが確認され、脱プロトンしたアニオンが生成していることが示されました。水素イオンとの相互作用が大きいエタノールやメタノール、ジメチルスルホキシドなどの溶媒中では、スルホンアミド基の水素原子が溶媒に強く引きつけられて、アニオンが生成したと考えられます。

アセトンとエタノールにTFA添加した時の蛍光スペクトルの変化 (出典:原著論文)

最後にCIE色度図に各溶媒の蛍光をプロットしました。エタノールやメタノール、ジメチルスルホキシドでは、アニオンの蛍光が観測されたものの、この効果により紫色から赤色の可視全域で蛍光することが確認されました。

UV照射あるなしでの溶液の色の違いとCIE色度図 (出典:原著論文)

結果として3TsAPIは最大の難関であった赤色蛍光を示すだけでなく、10種類の溶媒で別々の色の蛍光を示しフルカラーをカバーするユニークな特徴があることが分かりました。励起スペクトルと蛍光寿命の測定、TD-DFT計算により3種類の発光過程があることを発見し、溶媒ごとの色の違いのメカニズムを明らかにしました。この特性は、OLEDといった電子デバイスや生物学におけるイメージングに役立つというコメントで論文は締められています。

イミド分子が溶液状態で多色蛍光を示す原理の模式図 (出典:東工大プレスリリース)

次に光を利用した「ロジウムアート錯体」の発生について紹介します。まず研究の背景として光励起された遷移金属の触媒反応は、系内で金属を含む中間体の酸化状態を調節できることから新しい合成戦略として登場してきました。近年その中で、協奏的メタル化─ 脱プロトン化によるオルトC-H機能化を示すIr(III)やRh(III)、Ru(II)のハーフサンドイッチ型錯体が光励起反応と組み合わせ、室温でC-C結合を形成することが見出されています。しかしながらC-H活性化されている中で高原子価カチオン性のハーフサンドイッチ型錯体が配位子交換や還元的脱離を示しても、低原子価アニオン性のハーフサンドイッチ型錯体がジボランのような電子不足のカップリング対と配位子交換することは見出されていませんでした。そこで本研究では、アニオン性のCpRh(II)を光励起によって発生させてオルトC-Hのホウ素化を行いました。

本研究とこれまでの研究の比較(出典:東工大プレスリリース

アニオン性のCpRh(II)は、Rh(III)から一電子還元で発生すると考えられますが、報告例はありません。そこで筆者らはRh(III)錯体が三重項状態に光励起されると一電子還元され、強い静電相互作用によってボロンのような電子不足の元素と配位子交換が起きると仮説を立てて時間依存密度汎関数を使用した理論計算を行いました。結果、アミド錯体のHOMO → LUMO 遷移が可視光吸収に対応することが判明し、また錯体の実測と計算の吸収スペクトルが良く一致することも確認しました。

A)光を利用したアート錯体を発生させるための「還元」手法 B)理論計算による中間体の吸収スペクトルの予測(出典:東工大プレスリリース

次に、配位子を変えてRh(III)ハーフサンドイッチ錯体のホウ素化反応における触媒活性を調べました。すると、一般的なCpや電子不足なCpでは目的の化合物は全く得られないか20%以下の収率だったのに対して、筆者らの先行研究で見いだされたCpA1からA4では、41から65%の収率が得られました。Cpの比較ではA3が活性が高く、電子リッチなN-phenylcarbamoylが収率を向上させているとしています。さらに、イリジウムの光触媒を添加すると最大81%まで収率が向上しました。一方RuやIrといった他のハーフサンドイッチ型錯体は活性を示さず、また光を照射しないと反応は全く進行せず、光励起された三重項状態がC-Hホウ素化を引き起こしていると本文中でコメントしています。

A)反応条件 B)異なるCp配位子 C)スクリーニングした基質(出典:東工大プレスリリース

さらに基質のスクリーニングを行いました。配向基は、ピラゾール、ピリジン、π拡張系でも反応し、アレンについては電子供与基、電子吸引基どちらが付加されたベンゼン環でも高い収率を示すことが分かりました。一方、中間体の推定で示されたように、窒素がRhに配位する中間体の形成が必須であるため、この構造が立体的に取りにくい基質は反応が進行しないことが確認されています。実用性を考えた検討として、合成されたホウ素化合物を単離せずに、酸化剤を作用させてフェノールを合成させたり、ワンポットで種々の官能基に変換する反応も成功させていて、医薬品や生理活性物質・機能性材料などのホウ素化反応とその先の官能基変換に応用できる可能性が見いだされました。

反応経路の解析では、実験と理論計算の両面から検証しており、塩基や光を実験条件から出し入れ、阻害剤の添加などにより触媒サイクルの推定がなされています。理論計算では、考えられる反応経路について中間体の構造推定と安定化エネルギーの計算を行いました。これにより2価のロジウムアート錯体が系内で発生して、配位子交換が起こる経路がエネルギー的に有利であることが立証されました。

理論計算によって得られた反応中間体・遷移状態の構造(出典:東工大プレスリリース

本研究では、光励起によって2価のロジウムアート錯体を発生させ、室温でのオルトC-Hのホウ素化に高い反応性と選択性をもって成功させました。今後の応用としては、ホウ素同様に電子不足のシリコンやスズなどへの対応、生物活性化合物や機能性化合物への応用が進行中と本文中で言及されています。

これらの研究成果、お互い全く異なる分野ですが、共通して理論計算を行いエネルギーダイアグラムでメカニズムの議論を行っています。素人コメントとなってしまいますが光が関連する現象を捉えるには、分子の電子状態を理解することが重要であることを認識させられました。今後も日本発の光化学の発展に期待します。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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