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スポットライトリサーチ

結晶が生まれる前の“気配”を、放射光で見る

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第712回のスポットライトリサーチは、東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター(西堀研究室)の二宮翔 助教にお願いしました。

今回ご紹介するのは、ゼオライトの結晶化「前」の挙動に関する研究です。

材料科学において、無秩序な前駆体から秩序ある結晶へどのように形成されるかを明らかにすることは大きな課題とされています。ゼオライトは産業的にも重要な多孔質材料ですが、結晶化の最初の段階については十分に確認されていませんでした。今回、X線発光分光(XES)による実験的観測と第一原理計算により、ゼオライトの結晶化「前」の挙動を報告されました。本成果は、J. Am. Chem. Soc. 誌 原著論文およびプレスリリースに公開されています。

Torsional Ordering as a Prerequisite for Zeolite Crystallization Revealed by X-ray Emission Spectroscopy
Ninomiya, K.; Ugalino, R.; Itamoto, K.; Yin, Z.; Kiuchi, H.; Harada, Y.; Magara, H.; Tsuda, K.; Terauchi, M.; Yokoi, T.; Nishibori, M., J. Am. Chem. Soc. 2026, 148, 21, 22036–22044. DOI: 10.1021/jacs.6c03877

研究室を主宰されている西堀麻衣子 教授から、二宮先生について以下のコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

当時から彼は、本筋のターゲットを追う一方で、他の人が「それは誤差では?」と見過ごしてしまいそうな小さな現象にも妙に引っかかる、少しマニアックな視点の持ち主でした(笑)。自分が気になった謎に対しては、納得いくまでなかなか動かないところもあり、良い意味でかなり頑固な学生だったと思います。

しかし東北大に移り、共に研究を進める今、その「斜めからの視点」と「泥臭い執念」は、彼の大きな強みとして見事に開花しました。今回の研究でも、行き詰まったときに全く別の原因へと発想を飛ばせたのは、彼ならではの柔軟性と粘り強さのおかげです。

今では、放射光X線分光の実験、第一原理計算、データ解析を自由に行き来しながら、独自の視点で隠れた原子の動きを読み解く“一流の探偵”です。たまにこちらの予想を超えた方向へ走り出すこともありますが(笑)、見えないものを見ようとする力は本当に頼もしく、非常にユニークで信頼できる研究者です。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

今回の研究では、ゼオライトという多孔質材料が結晶になる「前」に、原子の並び方にどんな変化が起きているのかを調べました。ゼオライトは触媒や分離材料として広く使われていますが、無秩序な原料からどのように規則正しい結晶へ変わるのかは、長い間よく見えていませんでした。

私たちが注目したのは、完成した結晶そのものではなく、結晶ができる直前の“気配”です。その気配を捉えるために用いたのが、「放射光X線発光分光」という手法です。材料にX線を当て、そこから出てくる光のエネルギー分布、つまりスペクトルを調べることで、材料の中の電子状態を読み解きます。

分光で構造を見る、というと少し不思議に聞こえるかもしれません。たとえるなら、原子構造が「身体」で、電子状態はその身体にまとわりつく「服」のようなものです。身体を伸ばせば服の張り方も変わり、身体をひねれば服のしわや向きも変わります。同じように、原子の距離や角度、ねじれが変わると、その周りの電子状態も変化します。X線発光分光では、この電子状態の変化をスペクトルとして敏感に観測します。

ただし、スペクトルだけを見ても、身体が伸びたのか、ねじれたのかはすぐにはわかりません。そこで私たちは、大型放射光施設「SPring-8」と「NanoTerasu(ナノテラス)」を用いた精密測定と、スーパーコンピュータなどを用いた計算機シミュレーションを徹底的に照らし合わせました。

その結果、今回のスペクトル変化は、原子ネットワークの「ねじれ」、つまりO–Si–O–Siのねじれ角(二面角)が整っていくことによって最もよく説明できるとわかりました。しかもこの変化は、X線回折で結晶としての構造が見えるよりも「前」に起きていたのです。

つまりゼオライトは、突然ぱっと結晶になるのではなく、その前に原子ネットワークがこっそりフォームを整えてから結晶へと成長していく、ということです。材料は一見黙っているように見えますが、実はスペクトルの中でかなり饒舌にしゃべっています。こちらが聞き方を工夫すれば、原子レベルの物語を読み出せる。そこが、放射光研究の大きな醍醐味です。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

思い入れがあるのは、この研究が「原子を相手にした探偵業」のようなプロセスを辿ったことです。

放射光で得られた実験スペクトルという「現場の証拠」は、ただ眺めているだけでは何も語ってくれません。そこで、計算機シミュレーションでさまざまな原子の動きのパターンを作成し、証拠と何度も突き合わせる泥臭い作業を行いました。

単なる山の形としてデータを処理するのではなく、スペクトルの奥にある「三次元的な原子の動き」と結びつけて読もうとこだわった点に、私なりの工夫があります。測定するだけでも、計算するだけでもなく、両方の世界を行き来して、見えない原因を少しずつ追い詰めていく感覚は、個人的にかなり楽しい時間でした。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

実を言うと、最初からこの「ねじれ」という結論を狙っていたわけではありません。

当初は、材料の中にある鉄(Fe)原子の位置を突き止めたくて、悪戦苦闘していました。しかし、一通り頑張ってもなかなか本命の姿は見えず、代わりに見えてきたのは「鉄と吸着水の相互作用」でした。「水を通して鉄の位置がわかるかもしれない」と期待し、さらに調べると、水が氷のような構造をとっている気配まで見えてきました。

ところが、X線発光分光のスペクトル変化は、それだけではどうしても説明できませんでした。完全に行き詰まったとき、以前に高分子膜中のCO₂分子を解析した経験がふと頭をよぎり、「水や鉄ではなく、ゼオライトの枠組みそのものの動きが見えているのではないか?」と視点を変えてみたのです。

実際に、枠組みの二面角、すなわち「ねじれ」を変えて計算してみると、実験で強くなっていった特徴的な山と見事に対応する変化が現れました。ターゲットを追っていたら、全く別の真実に行き着いたわけです。

研究とは、最初に立てた仮説をきれいに証明する作業ではなく、データに押されながら問いを作り直していく泥臭いプロセスなのだと痛感しました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

私は今後も、放射光を使って物質の「見えない構造変化」を見る研究を突き詰めていきたいと考えています。今回の対象はゼオライトでしたが、私が本当に面白いと思っているのは、特定の材料そのものだけではありません。材料ができる途中、壊れる途中、あるいは機能を発揮しているその一瞬に、原子や電子がどう変化しているのかを解き明かしたいのです。

化学は、新しい物質を「つくる」学問であると同時に、物質の「変化を理解する」学問でもあります。しかし、私たちが本当に知りたい変化の核心は、短い時間や小さな空間の奥に隠れてしまっています。放射光は、その隠れたドラマを取り出すための強力な道具です。

将来的には、放射光計測、理論計算、そしてデータ科学を融合させ、「材料がなぜその性質を示すのか」を解明するだけでなく、「どうすれば望む性質を持つ材料をつくれるのか」という設計図にまでつなげたいです。完成品を後から評価するだけでなく、材料が生まれる“気配”を見ながらデザインしていく、そんな新しい化学に関わっていきたいですね。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

放射光というと、大きな施設、難しい装置、専門的な解析、というイメージがあるかもしれません。実際、その通りです。否定はしません。装置はとてつもなく大きいですし、解析には骨が折れます。

でも、その苦労を補って余りあるほど、そこから見える世界は圧倒的に面白いのです。普通の実験室ではなかなか見えない電子の状態や、材料が変化する途中の一瞬を、スペクトルや画像として取り出すことができます。最初はただの無機質な「線や山のデータ」に見えても、きちんと向き合えば、彼らは材料の中で起きているドラマを雄弁に語り始めてくれます。

学生の皆さんには、「まだ世界中の誰も見ていないものを見る」ことに、ぜひ興味を持ってほしいと思います。化学や材料科学には、教科書に載っている完成された知識の先に、まだ誰も見たことがない現象が無数に転がっています。放射光は、その未知の世界をのぞき、原子の言葉を訳してくれる「翻訳機」のような存在です。

光を使って原子や電子の世界を読んでみたい、実験と計算を行き来しながら材料の謎を解き明かす「探偵」になってみたいと思ったら、ぜひこの分野に飛び込んできてください。スペクトルの山の向こう側は、想像以上に最高に景色がいいですよ!

研究者の略歴


名前:二宮 翔にのみや かける
所属:東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター
略歴:
2021年3月 九州大学大学院 総合理工学府 物質理工学専攻 修了、博士(工学)取得
2021年4月 東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター 学術研究員
2021年5月〜現在 東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター 助教

関連リンク

  1. NanoTerasu:https://nanoterasu.jp/
  2. SPring-8:http://www.spring8.or.jp/ja/

hoda

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大学院生です。ケモインフォマティクス→触媒

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