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ニトリル手袋は有機溶媒に弱い?

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化学実験の際に一般的に着用されるニトリル製手袋は、有機溶媒を貫通させます。そのため、手袋を着用した手に有機溶媒がかかったときは、ただちに手袋を外して手を洗浄し、新しい手袋を着用することが望ましいです。

はじめに

みなさん、実験する際の保護手袋は何を使用していますか。多くの化学系の実験室では、使い捨てのニトリル製手袋が利用されていると思います。では、そのニトリル製手袋の耐薬品性はご存知でしょうか。この記事では、実験手袋の対薬品性についてお話ししようと思います。

実験手袋の分解性と透過性

以下の表は、 VWR 社が、自社の保護手袋の耐薬品性を調査した結果を一部抜粋したものです (リンク: Hand Protection Chemical Resistance Guide)。

保護手袋の対薬品性の比較. バイトンは, 芳香族やハロゲン系溶媒耐性に優れるとされています. ブチルゴムは, グローブボックスの手袋に利用される素材で, ガスや蒸気に対しても高い対浸透性を示します.
分解は手袋の強度の低下や膨潤のような変化を指します. ここで, 二重丸は, 溶媒によって手袋がほとんど変化しない, あるいは全く変化せず, 長時間手袋を溶媒に晒しても問題ないことを意味します. 一重丸は, わずかに変質するものの, 短時間ならばほとんど変化がないことを意味します. 三角は, 手袋が中程度に変質することを指します. 短時間の接触ならば手袋を使用し続けることができますが, 長時間の接触には注意が必要になります. バツは, 短時間の接触であっても, 手袋を破壊しうることを意味します. 

貫通時間は, 手袋がはじめに液体に接触してから, 液体の透過速度が 0.1 mg/m2 に達するまでの時間を指します.
I/D はデータが十分にないこと (insufficient data) を意味します.

VWR は、上述のデータをもとに、それぞれの溶媒に対する手袋の適性を三種に分類しています。緑色は、手袋を完全に溶媒に浸しても問題ないとされる組み合わせです。黄色は、事故によって短時間溶媒が手袋にかかった場合や短時間の接触の場合に、手袋が手を保護できるとされています。赤色は、短時間の接触でも手袋が変質するため、注意深く使用する必要があると提案しています。塗りつぶされていない箇所は、安全性を見積もるために十分なデータがないことを意味します。

ニトリル製手袋は有機溶媒に弱い!

上のデータを見ると、ニトリル製手袋は、酸性や塩基性の水溶液に対しては手を保護しますが、有機溶媒に対してはのきなみ耐性が低いことがわかります。例えば、アセトンは 5 分程度で手袋を貫通してしまい、さらに手袋を変質させます。一方で、THF では、貫通時間が 0 分と報告されており、ニトリル製手袋はほぼノーガードであると言えるでしょう。

無害な有機溶媒が手にかかっても無害?

ところで、アセトンなどの溶媒は、毒性がそれほど高くない溶媒として知られています3。それらの溶媒が保護手袋を貫通して手に接触しても問題ないと言えるでしょうか? 答えは No です。なぜなら、その溶媒が溶かしている化合物も、手袋を一緒に貫通するからです。したがって、もし毒性化合物を扱っていて、その溶液が手袋にかかったならば、ただちに実験手袋を外して手を洗浄することが推奨されます。

化学薬品の毒性は実験前に調べましょう

下の表は、さまざまな有機溶媒や金属塩の LD50 (マウス, 経口, mg/kg)をまとめたチャートで、時計の12時から反時計回りに毒性が高い化合物が列挙されています。この表を見ると、例えばアセトニトリルは、いくつかのスズ化合物と同程度に毒性が高いことなどがわかります。

LD50 は, 化合物を投与した際に被験体の 50% が死亡する量で、値が小さいほど毒性が高いです. 注意: LD50 の値は, 投与する方法によっても代わるため, 経口投与での毒性と, 皮膚からの浸透による毒性を直接関連づけることはできません. また、LD50 は死んだ個体数のみに注目しています。LD50 には死亡以外の異常が評価されていないため、LD50 が高いからと言って, 必ずしも無害とは限りません. そのため LD50 は「毒性のおおよその目安程度」として認識するのがよいと思われます. (上図は文献 2 から抜粋, 下表は文献 2 をもとに作成)

上の図には、私たちが想像する “毒性の一般的な知識” に反する事実をいくつか示しています。例えば「スズは毒性が高い」というイメージを持っている方が多いかもしれませんが、実際には、スズ化合物であっても「わずかに有毒」に留まるものもあります。そして、スズ以外の金属についても視点を移すと、塩化ニッケルや塩化亜鉛が「適度に高い毒性」を持つことが示されています。他に「適度に高い毒性」に含まれる物質には、重金属である塩化カドミウムや塩化パラジウムがあります。すなわち、第一遷移金属であっても重金属と同程度の毒性を示すものもあるのです。化合物の毒性について、「重金属は毒性が高い、第一遷移金属は毒性がやや低い」といった印象を持っている人が多いかもしれませんが、実際には化合物の毒性について一般化することは難しく、扱っている化合物について個々に毒性を調べることが理想です。同じ金属であっても、酸化状態や配位子の種類によって毒性が異なることがあります2。

このような金属の毒性は、有機溶媒に溶ける有機金属錯体を扱う合成化学者は特に気に留めておくべきことでしょう。

薬品耐性が低いニトリル製手袋はそもそも無意味?

有機溶媒が実験手袋を貫通してしまうのならば、有機化学実験において実験手袋をつけることはそもそも無意味なのでしょうか?その答えは No です。溶媒が手袋を貫通してしまうと言っても、貫通するまでにはいくらかの猶予があります。薬品がかかってから直ちに手袋を外せば、皮膚に直接薬品が接触するよりも被害を防ぐことができます。実験手袋はつけましょう。

おわりに

筆者自身、手袋の対薬品性について知ったのはつい最近のことでした。恥ずかしながら、それまでは節約のために、使用済みの手袋を何度か着用して実験をすることもありました。しかし、実験手袋の対薬品性について学んだ今では、実験手袋の扱いについて改めようと思いました。

化学者にとって毒性の化合物を扱うことは避けることができない場合もあります。重要なのは、むやみやたらに毒性化合物を避けることではなく、毒性について正しい知識を身につけた上で、安全に毒性化合物を扱うことです。これを機にみなさんも自分の扱う化合物の毒性や安全性についてもう一度見直してみてはいかがでしょうか。

参考文献

  1. VWR Hand Protection Chemical Resistance Guide
  2. Egorova, K. S.; Ananikov, V. P. Toxicity of Metal Compounds: Knowledge and Myths. Organometallics 2017, 36, 4071–4090. DOI: 10.1021/acs.organomet.7b00605.
  3. Solvent exposure chart, https://chemtips.wordpress.com/2013/03/07/solvent-exposure-chart/

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ポスドク。学部レベルの基礎知識の解説から、最先端の論文の解説まで幅広く頑張ります。高専出身。

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