[スポンサーリンク]

化学書籍レビュー

基礎講座 有機化学

[スポンサーリンク]

基礎講座 有機化学

基礎講座 有機化学

松島 芳隆, 渡邊 総一郎, 古荘 義雄
¥5,500(as of 12/15 20:53)
Amazon product information

東京農業大学の松島教授を中心に執筆された有機化学の基礎書です。松島教授は大変教育熱心で有名で、有機化学反応機構アプリも自身で開発し発売しています。

日本の有機化学の基礎書は、マクマリー、ボルハルトショアー、ブルース、ジョーンズ、ウォーレン(これは少し発展)など、基本的には海外発の訳書が多いです。もちろん日本発の基礎書もありますが、ボリュームでは前述した海外書籍に及びません。

満を持して2022年4月に発売された本書は、純国産。500ページ以上のボリュームをもち、5500円と海外の訳書よりも安い(海外版は2分冊が多いです)ことから、特に有機化学の講義時間をたくさんとれない大学では重宝される気がします。

では内容を見ていきましょう。

概要

初学者に最適の教育的配慮の行き届いた2~4コマ用オールカラー教科書。
● オールカラーで、見やすく、学びやすく、わかりやすい!
● 内容を基本事項に絞り、その分ページを割き、ていねいに説明!
● 当たり前に思えても学習者がつまづきがちなことをAssistでフォロー!
● 電子の動きや分子の形を視覚的に理解できるオリジナル動画あり!
● 医・薬・農・食などに結びつく興味深い話題を随所に紹介!

(引用:化学同人

対象者

大学(特に1-2年生)で有機化学を学び始めた学生

内容と感想

まず率直な感想から。めちゃくちゃ丁寧ですね。しっかり他の基礎書を読み込んだことは無いのですが、ブルースやジョーンズ、いやそれ以上に丁寧に記載されています。しかし、それらよりページ数が少ないので、内容は他の2冊組の基礎書に比べると少し易しめですね。とはいってもあんな分厚い本を2冊(マクマリーに至っては3冊)もっていてもしっかり読み込むのは院試前の有機化学系の学生ぐらいじゃないでしょうか。ましては、訳書でなく英語版を使っている大学もありますが(筆者の大学も然り)、なぜ日本語で講義をするのに英語版を使うのか全く理解ができません

そう、大半の学生にとって書籍は、分厚い本をもっててかっこいいという自己満足にさえも至らないただの重荷になりさがっているのです。それならば要点をしっかり教えて、それを補佐するぐらいの内容があれば十分ではないか。と思います。本書は、そういった意味ではかなり最適な書籍に思えます。

そうはいえど500ページあるので、あらゆるレベルのひとの興味を引くような話題がなければいけません。

まず、真面目な話から。反応機構がちゃんと載っていないものは大学の教科書じゃないですね。はいこの書籍は、しっかりと丁寧に記載されているので大丈夫です。

一方で、基礎書の中では易しめといえど、小さな文字で”難解な話”をつらつらと記載されているので、まあ普通にわからなくなるor飽きますね。そんなときにおすすめなのが、欄外にあるAssistとTopic、あとプチAdvancedです。Assistはその名の通り、要所にでてくる用語を理解を助けてくれる役割をしています。Topicは関連する小話、プチAdvancedはこの基礎書の範囲からは少しだけ逸脱しているけど面白い話ですね。

 

もちろん他の書籍の様にコラムも散りばめられており、有機化学を学ぶ意味や歴史などが記載されています。どちらかというと本文よりもこっちのほうが目がいってしまいます。そう、講義中の先生のくだらない雑談、よく覚えていませんか?そこまでくだらなくはないので印象はそれよりは薄いですが、独学するときに集中力を切らさない工夫がされています。コラムには化学がでてくるDr. Stoneの話もありました。

Dr.STONE 公式ファンブック 科学王国事典 (ジャンプコミックスDIGITAL)

Dr.STONE 公式ファンブック 科学王国事典 (ジャンプコミックスDIGITAL)

稲垣理一郎, Boichi
¥1,045(as of 12/15 20:53)
Release date: 2022/08/04
Amazon product information

さらによくあるかもしれませんが、各賞で分子モデルをみたほうが理解が深まるものは、しっかりと短い動画も準備されています。実はこの動画書籍をもっていなくてもみれるので、講義中にちらっとみせるのに使えるかもしれません。よりかっこよく秀逸な動画もYoutubeにはありますが、動画自体が長いんです。例えば、以下のシクロヘキサンの環反転。シンプルです、短いですが、これでわかりますよね。

最後に、前述しましたが500ページなので要所はおさえているくせに、軽いんですね。リアルな重量が。これなら持ち歩くだけ無駄な英語版よりは少なくとも学生はもちあるきよんでくれそうです。

あえて欠点をいうのならば、なぜもっとキャッチー(orわかりやすい)な名前にしなかったのか。普通すぎます。他の書籍と区別しづらいです。

ちなみに、筆者の大学ではマクマリー英語版を使っていますが、まじめに教科書の変更を検討しているので、あまり背伸びをしなければこれでありなんじゃないかと思いました。そもそも有機化学の基礎書にあてれる時間が全部で講義30回分しかなく、どうかんがえてもtoo muchなんですね。しかも筆者は丁寧にレジュメをつくっているので、教科書開いていない人もいるんじゃないかと。そういった状況を打破する書籍の第一候補として考えようと思いました。おすすめです。

関連書籍

ブルース有機化学 (第7版) 【上】

ブルース有機化学 (第7版) 【上】

P.Y. ブルース
¥6,935(as of 12/15 20:53)
Amazon product information
ブルース有機化学 【下】 (第7版)

ブルース有機化学 【下】 (第7版)

Paula Y Bruice
¥7,150(as of 12/15 20:53)
Amazon product information
Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 有機合成のナビゲーター
  2. 企業研究者たちの感動の瞬間: モノづくりに賭ける夢と情熱
  3. ハートウィグ有機遷移金属化学
  4. ステファン・カスケル Stefan Kaskel
  5. 透明金属が拓く驚異の世界 不可能に挑むナノテクノロジーの錬金術
  6. 元素のふるさと図鑑
  7. 天然物化学
  8. 次世代医薬とバイオ医療

注目情報

ピックアップ記事

  1. 有機合成化学協会誌2025年7月号:窒素ドープカーボン担持金属触媒・キュバン/クネアン・電解合成・オクタフルオロシクロペンテン・Mytilipin C
  2. CYP総合データベース: SuperCYP
  3. Scifinderが実験項情報閲覧可能に!
  4. クラウス・ミューレン Klaus Müllen
  5. CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」
  6. ディークマン縮合 Dieckmann Condensation
  7. 有機電解合成プラットフォーム「SynLectro」
  8. クリーンなラジカル反応で官能基化する
  9. 大学院生が博士候補生になるまでの道のり【アメリカで Ph.D. を取る –Qualification Exam の巻 前編】
  10. フラノクマリン -グレープフルーツジュースと薬の飲み合わせ-

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年8月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP