概要
アビディ アルキン合成(Abidi Alkyne Synthesis)は、米国魚類野生生物局・国立水産研究所の分析化学者 S. L. Abidiが1985年に偶発的発見として最初に報告した。[1][2]
1,1-ジメチル-2-アルキル置換アルケン(=末端にイソプロピリデン基 (CH₃)₂C=CHR をもつオレフィン)を、亜硝酸ナトリウム(NaNO₂)/酢酸・水の条件で処理すると、メチル基1個と水素原子1個(=メタン CH₄ 相当)が正味で脱離し、メチル基でキャップされた内部アルキン CH₃-C≡C-R が得られる。[1][2]
形式上「脱メタン化(demethanation)」と表現される、きわめて異例な変換である。
イソプロピリデン基はテルペン類(ゲラニオール等)に普遍的に存在する末端構造であり、カルボニルやハロゲンをあらかじめ導入することなくアルキンを構築できる点が特徴的である。
一方で、後述のとおり反応機構は大枠しか解明されておらず[4][5][6]、適用範囲も限定的である。
反応機構
機構は現時点で大枠しか判明していない。E. J. Corey らのグループ[4]および Samir Zard らのグループ[5][6]によって機構研究が行われ、 一般に次のように考えられているが、後半段階の詳細は未確立である。
- NaNO₂/酢酸から系中で発生した亜硝酸(HNO₂)が基質のオレフィンをニトロソ化/ニトロ化する。 鍵中間体はアリル位ニトロ化合物と考えられている。[5][6]
- 続くニトロソ化と分子内環化を経る。
- これらの過程で、脱離するメチル基は最終的に二酸化炭素(CO₂)として失われる。
反応例
全合成への応用
- (+)-ミントラクトン (mintlactone) の全合成[7]
- (+)-Niduenes A および B の全合成(2026)[8]
- グアイアン型セスキテルペン (−)-イソグアイエンの合成[9]
- 環状ムスク類の合成[10]
参考文献
- Abidi, S. L. J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1985, 1222–1223. DOI: 10.1039/C39850001222
- Abidi, S. L. Tetrahedron Lett. 1986, 27, 267–270. DOI: 10.1016/S0040-4039(00)83993-3
- Abidi, S. L. J. Org. Chem. 1986, 51, 2687–2694. DOI: 10.1021/jo00364a013
- Corey, E. J.; Seibel, W. L.; Kappos, J. C. Tetrahedron Lett. 1987, 28, 4921–4924. DOI: 10.1016/S0040-4039(00)96659-0
- Boivin, J.; Pillot, E.; Williams, A.; Roger, W.; Zard, S. Z. Tetrahedron Lett. 1995, 36, 3333–3336. DOI: 10.1016/0040-4039(95)00522-E
- Zard, S. Z. Helv. Chim. Acta 2012, 95, 1730–1757. DOI: 10.1002/hlca.201200324
- Gao, P.; Xu, P.-F.; Zhai, H. J. Org. Chem. 2009, 74, 2592–2593. DOI: 10.1021/jo900045k
- Tan, C.; Lin, H.; Wang, Y.; Jia, Y. J. Am. Chem. Soc. 2026, 148, 27054–27059. DOI: 10.1021/jacs.6c08709
- Wang, Y.; Darweesh, A. F.; Zimdars, P.; Metz, P. Beilstein J. Org. Chem. 2019, 15, 858–862. DOI: 10.3762/bjoc.15.83
- Kraft, P.; Berthold, C. Synthesis 2008, 543–550. DOI: 10.1055/s-2008-1032135






























