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化学書籍レビュー

【書籍】Pythonで動かして始める量子化学計算

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概要

PythonとPsi4を用いて量子化学計算の基本を学べる,初学者向けの入門書。(引用:コロナ社

対象者

高校生以上(高校化学に触れたことがある人)。量子化学計算に興味がある人。

章立て

  • 第1章 プログラミング言語Python
  • 第2章 コンピューターと化学
  • 第3章 Pythonで量子化学計算を始めよう
  • 第4章 分子をコンピューターで扱う方法について知ろう
  • 第5章 量子化学計算の基礎について理解を深めよう
  • 第6章 分子の構造を最適化してみよう
  • 第7章 振動数計算をしてみよう
  • 第8章 分子軌道を見てみよう
  • 第9章 分子の性質を計算してみよう
  • 第10章 遷移状態を計算してみよう
  • 第11章 分子どうしの相互作用を計算してみよう
  • 第12章 励起状態の性質を計算してみよう
  • 第13章 おわりに

解説

章立ての通り、量子化学計算を始めてみるのに最適の内容です。主に無償のソフトウェアや環境を利用して、化学研究で量子化学計算を活用する基本的な場面に対応した技術がまとめられています。環境構築さえできれば本文中の例をなぞっていくことで、ほとんど初期投資することなく実際の量子化学計算をなぞっていくことができます。著者の野田先生が実験化学者ということもあって、実験化学者にとってもとっつきやすい書き口となっています。

Python と量子化学計算の両方にハードルを感じている方も多いかもしれませんが、本書では両方を基礎から簡単に紹介しつつ「習うより慣れろ」のスタイルで進めています。本書である程度計算を回した後から量子化学の教科書や授業で補う形の方がとっつきやすいと思います。また、Gaussian などの有償ソフトウェアをすでに使ったり、量子化学を履修済みの方にとっては環境が Python に変わっているだけですので、こちらも本書を片手に実践と応用あるのみ、という感じだと思います。簡単な構造最適化から反応経路の導出、分子間相互作用、TD-DFT計算など、実験をサポートするときによく使う量子化学計算を中心に取り上げて、短くまとめられています(下の目次をご覧ください。目次はたくさんですが、各項目は少なく索引あわせて213ページしかありません)。Ref もしっかり振ってあり、この後に読む本、もしっかり提示されています。このスタイルの入門書としては無駄のない、とても実践的な本です。

たまに SSH などで高校生を短期で大学に受け入れたとき「量子化学計算をやってみたい(やっています)!」というすごい生徒をしばしば見かけるのですが、なかなか環境が揃わないために実践的な計算には届かないことがありました。本書の環境であれば大学などの研究者のみならず、中高生や社会人の趣味としてもタダで量子化学計算が回せるわけ(Colabの時間制限はありますが)で、少し今の若い方々が羨ましくなりました。

著者紹介

著者:野田 秀俊 (Hidetoshi Noda) D.Sc. 公益財団法人微生物化学研究所 主席研究員 。有機化学者。2015年 ETH Zürich で学位取得(Jeffery Bode 教授)後、 公益財団法人微生物化学研究所にて JSPS 特別研究員、2017年研究員(柴崎正勝 研究所長)などを経て2023年より現職。有機合成科学協会研究企画賞(ADEKA, 2016), 日本薬学会奨励賞(2021)、Chemist Award BCA 2022, Thieme Chemistry Journal Award 2023 などを受賞。

目次

第1章 プログラミング言語Python
1.1 プログラミング言語Pythonとはなんだろう
1.1.1 プログラミング言語Python
1.1.2 Pythonの歴史
1.2 科学技術計算で大活躍するPython
1.3 第1章のまとめ
引用・参考文献

第2章 コンピューターと化学
2.1 化学とコンピューターのいろいろな関係
2.1.1 計算化学
2.1.2 ケモインフォマティクス
2.2 量子化学計算とはなんだろう
2.2.1 量子化学計算の種類について知ろう
2.2.2 量子化学計算用ソフトウェアについて知ろう
2.2.3 量子化学計算でできること
2.3 第2章のまとめ
引用・参考文献

第3章 Pythonで量子化学計算を始めよう
3.1 Pythonの実行環境を構築しよう
3.1.1 condaとはなんだろう
3.1.2 Jupyterノートブックとはなんだろう
3.2 Psi4のセットアップをしてみよう
3.3 水分子のエネルギー計算をしてみよう
3.3.1 Psithon形式で計算を実行してみよう
3.3.2 PsiAPI形式で計算を実行してみよう
3.4 第3章のまとめ
引用・参考文献

第4章 分子をコンピューターで扱う方法について知ろう
4.1 分子を視覚的に表現する方法について知ろう
4.1.1 針金モデル
4.1.2 棒モデル
4.1.3 球棒モデル
4.1.4 空間充填モデル
4.2 分子を文字列として表現する方法について知ろう
4.2.1 XYZ形式
4.2.2 MOLファイルとSDF
4.2.3 Z-マトリックス
4.2.4 SMILES形式
4.3 分子を扱うのに便利なソフトウェアについて知ろう
4.3.1 Avogadro
4.3.2 Open Babel
4.3.3 py3Dmol
4.3.4 RDKit
4.4 Psi4の分子を使いこなそう
4.4.1 量子化学計算に必要な分子の情報を知ろう
4.4.2 Psi4のMoleculeオブジェクトについて知ろう
4.4.3 py3Dmolで分子を描画しよう
4.5 第4章のまとめ
引用・参考文献

第5章 量子化学計算の基礎について理解を深めよう
5.1 量子化学計算の流れについて知ろう
5.1.1 計算対象の分子を作成しよう
5.1.2 どの種類の計算を行うか決めよう
5.1.3 どの計算レベルで実行するか決めよう
5.2 いろいろな計算レベルについて知ろう
5.2.1 シュレーディンガー方程式とはなんだろう
5.2.2 ハートリー・フォック法とはなんだろう
5.2.3 電子相関理論とはなんだろう
5.2.4 密度汎関数法とはなんだろう
5.2.5 基底関数系とはなんだろう
5.3 Psi4のログファイルを見てみよう
5.3.1 計算手法の異なるエネルギー計算のログファイルを見てみよう
5.3.2 異なる基底関数系を用いたログファイルを見てみよう
5.4 適切な計算レベルを選択することの大切さを知ろう
5.4.1 塩化ナトリウムの計算
5.4.2 アルゴン二量体の計算
5.5 第5章のまとめ
引用・参考文献

第6章 分子の構造を最適化してみよう
6.1 分子の構造を最適化するとはどういうことだろうか
6.1.1 構造最適化のアルゴリズムについて知ろう
6.1.2 Psi4を用いて構造最適化をしてみよう
6.2 局所最適解と全体最適解の違いを知ろう
6.2.1 1,2-ジクロロエタンの安定構造を計算しよう
6.2.2 N-メチルアセトアミドの安定構造を計算しよう
6.3 構造最適化のコツについて知ろう
6.3.1 初期構造をできるだけ精密に作成しよう
6.3.2 エラーに対処しよう
6.4 第6章のまとめ
引用・参考文献

第7章 振動数計算をしてみよう
7.1 振動数計算とはなんだろう
7.1.1 振動数計算について知ろう
7.1.2 Psi4で振動数計算をしてみよう
7.2 計算した振動数を可視化してみよう
7.2.1 水分子の振動モードを可視化してみよう
7.2.2 炭素-炭素結合の伸縮振動を比較してみよう
7.3 分子のIRスペクトルを求めてみよう
7.3.1 調和振動子近似による誤差について知ろう
7.3.2 スケール因子を使って実験値を予測してみよう
7.4 熱力学的パラメータを求めてみよう
7.4.1 反応エンタルピーを計算してみよう
7.4.2 反応の自由エネルギー変化を計算してみよう
7.4.3 より高精度な計算をしてみよう
7.5 第7章のまとめ
引用・参考文献

第8章 分子軌道を見てみよう
8.1 量子化学計算における分子軌道とはなんだろう
8.2 分子軌道の描画に必要なものを知ろう
8.2.1 fchkファイルとはなんだろう
8.2.2 cubeファイルとはなんだろう
8.2.3 Psi4を用いてfchkファイルおよびcubeファイルを作成しよう
8.3 分子軌道を可視化してみよう
8.3.1 fchkファイルを用いて分子軌道を可視化しよう
8.3.2 cubeファイルを用いて分子軌道を可視化しよう
8.4 フロンティア軌道から分子の反応性を予測してみよう
8.4.1 基底関数系を変えて分子軌道を見てみよう
8.4.2 軌道エネルギーから反応性を予測してみよう
8.5 第8章のまとめ
引用・参考文献

第9章 分子の性質を計算してみよう
9.1 Psi4のWavefunctionオブジェクトについて知ろう
9.2 Psi4における波動関数の解析法について知ろう
9.3 電子密度解析をしてみよう
9.3.1 Mulliken電荷を計算してみよう
9.3.2 電子密度解析の基底関数系への依存性を知ろう
9.4 双極子モーメントを計算してみよう
9.4.1 ベンゼンの双極子モーメントを計算してみよう
9.4.2 ピリジンの双極子モーメントを計算してみよう
9.5 分子の静電ポテンシャルを可視化してみよう
9.5.1 Avogadroを用いてESPを可視化してみよう
9.5.2 py3Dmolを用いてESPを可視化してみよう
9.6 原子間の結合次数を求めてみよう
9.6.1 アミドの二重結合性を評価してみよう
9.6.2 二重結合と芳香族結合の違いを計算してみよう
9.7 第9章のまとめ
引用・参考文献

第10章 遷移状態を計算してみよう
10.1 遷移状態とはなんだろうか
10.2 遷移状態を求めてみよう
10.3 遷移状態の初期構造作成について学ぼう
10.3.1 反応座標軸に沿った構造のスキャン
10.3.2 簡単な遷移状態から始める
10.4 IRC計算で反応経路を求めてみよう
10.5 第10章のまとめ
引用・参考文献

第11章 分子どうしの相互作用を計算してみよう
11.1 相互作用エネルギーとはなんだろう
11.2 基底関数重なり誤差について知ろう
11.2.1 基底関数重なり誤差とはなんだろう
11.2.2 CP法とはなんだろう
11.2.3 Psi4を用いたBSSEの補正法について知ろう
11.2.4 基底関数系の大きさとBSSEの関係を知ろう
11.3 歪曲・相互作用モデルについて知ろう
11.4 SAPT計算で相互作用の内訳を調べてみよう
11.4.1 分子間相互作用を形成する分子間力について知ろう
11.4.2 SAPT計算とはなんだろう
11.4.3 分子間相互作用をSAPT計算で調べてみよう
11.5 第11章のまとめ
引用・参考文献

第12章 励起状態の性質を計算してみよう
12.1 励起状態とはなんだろう
12.1.1 励起状態の基本的な考え方を知ろう
12.1.2 TD-DFT法で励起状態を計算する際の注意点を知ろう
12.2 Psi4で励起状態の計算をしてみよう
12.2.1 Psi4でTD-DFT計算をしてみよう
12.2.2 1電子吸収スペクトルの計算をしてみよう
12.2.3 電子円二色性スペクトルの計算をしてみよう
12.3 第12章のまとめ
引用・参考文献

第13章 おわりに
13.1 本書で扱わなかったトピック
13.1.1 開殻分子のSCF計算
13.1.2 有効内殻ポテンシャル
13.1.3 溶媒モデル
13.2 今後の学習に向けて
13.2.1 量子化学計算の専門書で学ぶ
13.2.2 量子化学計算以外の分野を学ぶ
引用・参考文献

索引

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