[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

ベンジル位アセタールを選択的に酸素酸化する不均一系触媒

[スポンサーリンク]

第65回のスポットライトリサーチは、岐阜薬科大学・博士前期課程2年の安川直樹さんにお願いしました。

安川さんの所属する佐治木研究室は、様々に活性を違えた不均一系パラジウム触媒の開発で著名な業績を挙げています。典型的な水素添加反応への応用のみならず、様々な反応形式にも展開を試みておられます。今回紹介する成果もその流れにある一つです。今回は先日開催されました第46回複素環化学討論会にて、安川さんが学生講演(Heterocycles)賞を受賞したことを契機に依頼させて頂きました。

今回は安川さんを直接指導されている二人の先生方から、ともにコメントをいただいています。

佐治木弘尚 教授よりコメント

安川直樹君は、研究における成功と挫折を繰り返しながら、力を蓄えつつある研究者の卵です。修士課程2年次の学生ですが、今回の研究成果も精力的にまとめ上げ、筆頭著者として論文投稿するなどアクティブに研究を楽しんでいます。後輩の面倒見も良く、誰からも好かれる、懐が深い人物です。来年度からは博士課程に進学しますが、さらにその先も含めて将来が楽しみです。

澤間善成 講師よりコメント

安川君は、何事にもスピーディーに対応してくれ、期待以上の成果をいつも提示してくれます。彼とのディスカッションは日常の楽しみであり、今後の更なる飛躍が期待される学生です。この受賞内容では、私が学生時代より夢見ていた反応性の一部が実現されており、今後の展開へと繋がる第一歩を進めてくれたことに感謝しています。

Q1. 今回の受賞対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

第46回複素環化学討論会では、『芳香族環状アセタールのベンジル位C-H結合を切断して、新しい結合を形成する反応』(図1)について発表させていただきました。

保護基の使用は、標的化合物を合成する上で必要不可欠ですが、保護・脱保護による工程数の増加や廃棄物の増大が課題です。私は、回収・再利用できる不均一系Pd触媒とクリーンな酸化剤である酸素(O2)を組み合わせて、環境に優しい方法で、アルデヒドの保護体である『アセタール』を直接酸化する方法を開発しました。この反応はこれまでに類を見ない官能基選択性を示し、ケタールや脂肪族アセタール共存下に、芳香族アセタールのみをヒドロキシアルキルエステル誘導体に変換できます。

sr_n_yasukawa_3

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

私は4年次に研究室に配属されて間もなく、最初のテーマとして本研究に取り組みました。データが一つ出るごとに喜びを感じ、胸を躍らせていたことを思い出します。1つの研究テーマに最初から最後まで携わったことで、知識や技術だけでなく、「研究の進め方や価値観」といった、参考書などでは決して学ぶことができない貴重な体験を積み上げることができました。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

アセタールからヒドロキシアルキルエステル体への変換反応は報告例が多く、テーマとして成立させるためには、独創性と新規性を持たせる必要がありました。まず、私が所属する佐治木研究室で継続的に取り組んでいる、不均一系遷移金属触媒を用いた環境調和型の反応開発に興味を持つとともに、直接指導を受けている澤間講師との綿密なディスカッションのもと、「アセタールとケタール間でのアセタール選択的変換法」に着目しました。この選択性を達成することができる反応は、化学当論量の2種類の試薬(ピリジン誘導体とシリルトリフラート)を用いる方法が一例報告されているのみです。[1]私は、「不均一系触媒反応」、更には「脂肪族と芳香族間での選択性」に焦点を当て、既存の反応とは異なる特徴を示す反応開発を目指しました。詳細な研究とディスカッションを繰り返すことで、着実に研究成果を出すことができ、Heterocycles賞の受賞や、投稿した論文[2]の受理通知をいただいた際には、今まで感じたことのない「達成感」と「安堵感」を味わい、モチベーションがますます向上しました。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

人類の発展と化学は切っても切り離せないものです。特に、医薬分野の進歩により、人類の望みである「健康で幸せに生活する」という思いを叶えることが可能となります。私は、これまでに培ってきた薬学と有機合成化学の経験を基盤として、今まで以上に医薬分野の発展と社会に貢献できる研究者になりたいと思います。加えて、化学と医薬を軸として「次世代の研究者の育成」に携わることも目標としています。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

私は研究室配属後「研究に没頭し」、「有機化学にはまり」、研究が大好きになりました。今では、早く結果が知りたくて夜通し研究室に籠ることも少なくありません。スタートしたばかりの学生さんで、研究が好きでないという方がおられたら、騙されたと思って実験にのめりこんでください。自分の手で困難に立ち向かい、ブレイクスルーを実現した時の快感は格別で、かけがえの無いものです。どんどん研究や有機化学が好きになっていくと思います。

 

関連文献

  1. (a) H. Fujioka, Y. Sawama, N. Murata, T. Okitsu, O. Kubo, S. Matsuda, and Y. Kita J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 11800–11801. DOI: 10.1021/ja046103p (b) H. Fujioka, T. Okitsu, Y. Sawama, N. Murata, R. Li, and Y. Kita J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 5930–5938. DOI: 10.1021/ja060328d
  2.  N. Yasukawa, S. Asai, M. Kato, Y. Monguchi, H. Sajiki, and Y. Sawama Org. Lett. 2016,DOI: 10.1021/acs.orglett.6b02833.

研究者の略歴

sr_n_yasukawa_2安川 直樹(やすかわ なおき)
所属:岐阜薬科大学 博士前期課程2年
研究テーマ:パラジウム炭素を触媒とした酸化反応とその応用
略歴:1993年愛知県あま市生まれ。岐阜薬科大学薬学部薬科学科卒業後、同大学院薬学研究科へ進学。2016年第46回複素環化学討論会 学生講演(Heterocycles)賞受賞。

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 狙いを定めて、炭素-フッ素結合の変換!~光触媒とスズの協働作用~…
  2. 「赤チン」~ある水銀化合物の歴史~
  3. 標的指向、多様性指向合成を目指した反応
  4. ポリエチレンテレフタレートの常温解重合法を開発
  5. 味の素グループの化学メーカー「味の素ファインテクノ社」を紹介しま…
  6. ACSの隠れた名論文誌たち
  7. 聖なる牛の尿から金を発見!(?)
  8. 化学者の卵に就職活動到来

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. スーパーなパーティクル ースーパーパーティクルー
  2. もし新元素に命名することになったら
  3. ダイアモンドの双子:「神話」上の物質を手のひらに
  4. 世界医薬大手の05年売上高、欧州勢伸び米苦戦・武田14位
  5. シランカップリング剤入門【終了】
  6. リアル「ブレイキング・バッド」!薬物製造元教授を逮捕 中国
  7. レドックスフロー電池 Redox-Flow Battery, RFB
  8. 有機合成化学協会誌2022年2月号:有機触媒・ルイス酸触媒・近赤外光応答性ポルフィリン類縁色素・アリルパラジウム中間体・スルホン・ポリオキソメタレート
  9. ダニエル レオノリ Daniele Leonori
  10. A値(A value)

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年11月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

書類選考は3分で決まる!面接に進める人、進めない人

人事担当者は面接に進む人、進まない人をどう判断しているのか?転職活動中の方から、…

期待度⭘!サンドイッチ化合物の新顔「シクロセン」

π共役系配位子と金属が交互に配位しながら環を形成したサンドイッチ化合物の合成が達成された。嵩高い置換…

塩基が肝!シクロヘキセンのcis-1,3-カルボホウ素化反応

ニッケル触媒を用いたシクロヘキセンの位置および立体選択的なカルボホウ素化反応が開発された。用いる塩基…

中国へ行ってきました 西安・上海・北京編①

2015年(もう8年前ですね)、中国に講演旅行に行った際に記事を書きました(実は途中で断念し最後まで…

アゾ重合開始剤の特徴と選び方

ラジカル重合はビニルモノマーなどの重合に用いられる方法で、開始反応、成長反応、停止反応を素反応とする…

先端事例から深掘りする、マテリアルズ・インフォマティクスと計算科学の融合

開催日:2023/12/20 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

最新の電子顕微鏡法によりポリエチレン分子鎖の向きを可視化することに成功

第583回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院 工学研究科 応用化学専攻 陣内研究室の狩野見 …

\脱炭素・サーキュラーエコノミーの実現/  マイクロ波を用いたケミカルリサイクル・金属製錬プロセスのご紹介

※本セミナーは、技術者および事業担当者向けです。脱炭素化と省エネに貢献するモノづくり技術の一つと…

【書籍】女性が科学の扉を開くとき:偏見と差別に対峙した六〇年 NSF(米国国立科学財団)長官を務めた科学者が語る

概要米国の女性科学者たちは科学界のジェンダーギャップにどのように向き合い,変えてきたのか ……

【太陽ホールディングス】新卒採用情報(2025卒)

■■求める人物像■■「大きな志と好奇心を持ちまだ見ぬ価値造像のために前進できる人…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP