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日本人化学者インタビュー

第29回「安全・簡便・短工程を実現する」眞鍋敬教授

今回の研究者へのインタビューは静岡県立大学薬学部から。薬化学教室を主宰している眞鍋敬先生にお願い致しました。ケムステスタッフからの推薦です。研究のターゲットは有機反応を促進する「触媒」。実現困難な分子変換を起こさせる触媒の開発を目指しています。それだけではなく、タイトルにあるように安全・簡便・短工程を実現する触媒反応開発を行なっており、特に最近いくつか開発したものが試薬として販売されるに至っています。では、眞鍋教授はどうして化学の道を志したのでしょうか?そこから聞いてみたいと思います。

 

Q. あなたが化学者になった理由は?

不謹慎な言い方ですが、大学に入るまで、化学を面白いと思ったことはありませんでした。高校の化学がつまらなかったのだと思います。特に有機化学の部分は全く記憶に残っていません。

ところが、大学の教養学部生だったときに、農学部から教えに来られていた森謙治先生の有機化学を履修したことで、考えが大きく変わりました。その授業で、シクロヘキサンいす形配座の立体的な書き方を教えておられた森先生は、「これは化学でなく、製図だ」とおっしゃいました。どの結合同士が平行になっているか注意すれば上手く書ける、というコツを先生は伝えたかったのだと思います。

シクロヘキサン

シクロヘキサン

 

しかし、なんということもないこの一言が、私にとっては単なるコツ以上のインパクトとなりました。初めて有機化学に論理性を感じ、「理解できた」という感覚を得たような気がしました。「有機化学は面白い!」と初めて思い、それがきっかけで化学者を選んで来たと思っています。

 

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

能力が無いのは百も承知で言えば、マンガ家か小説家でしょうか。

作品をつくり出す、というのが好きなんだと思います。小学校低学年のころはマンガ家になりたかったようで、家でよくマンガを描いていました。このまえ実家に帰ったら、昔描いたマンガがまだ残っていることがわかりました。タイトルは「刑事ゴロンボウ」。完全に刑事コロンボのパクリです。いま見ると、すごく下手です。

中学生くらいになると、小説家になりたくなりました。確か、筒井康隆さんが、流行作家になる方法のような文を書いていて、それを友達と読んで刺激を受けていました。当時、星新一さんのショートショートが流行っていて、このくらい短いものなら書けそうだと思ったのですが、全然ダメでした。

 

Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?

「安全・簡便・短工程」をキーワードに、触媒を使った有機合成反応の開発研究をしています。中心となる研究テーマは以下の2つです。

 

(1)一酸化炭素の代替化合物を用いる触媒反応の開発

一酸化炭素(CO)は有用なC1源ですが、毒性が高いガスであるため、その取り扱いには特別な注意が必要です。そこで、取り扱いが容易で、かつ反応系内でCOを生成する「CO代替化合物」が注目されています。この分野では種々の先駆的研究があります(T. Morimoto and K. Kakiuchi, Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 5580. DOI: 10.1002/anie.200301736 他)。私も、静岡県立大学に赴任してきてからこの研究分野に参入しました。

いろいろ検討していると、ある種のギ酸誘導体が、弱塩基存在下でCOを容易に放出することがわかりました。そこで、これらのギ酸誘導体をCO代替化合物として用い、安全・簡便な触媒的カルボニル化反応を実現することができました。

現在、これらのギ酸誘導体(ギ酸フェニル、ギ酸トリクロロフェニルホルミルサッカリン)は市販されています。今後、ますます多くの方に使っていただけるような反応にしたいと思い、改
良を続けています。更に最近、CO代替化合物だけでなく、その他の毒性ガスの代替化合物を用いる触媒反応の研究も始めました。「安全・簡便な触媒反応」という分野の発展に多少でも貢献したいと思い、スタッフ・学生ともども研究にいそしんでいます。

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(2)位置選択的反応を実現する触媒の開発

位置選択的な遷移金属触媒反応は、入手容易な原料から短工程で化合物を合成できる有用な手法となりえます。

この研究の過程で、新しいホスフィン配位子であるDHTPを開発しました。DHTPとパラジウムとを組み合わせた触媒を用いると、ジハロゲン化物の位置選択的クロスカップリングが可能になることを見つけました。また、この触媒反応を応用して、ワンポットでの置換ベンゾフランや置換インドールの合成法を開発できました。DHTP由来の触媒は、基質活性化部位と基質捕捉部位をあわせもつbifunctional catalystとして機能していると考えています。

最近、DHTPは市販化されました。今後は、更にDHTPの応用範囲を広げるとともに、ここでの触媒設計を活かして、短工程有機合成を実現する新規触媒を開発していきたいと思っています。

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Q. あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

歴史上というほど昔の人物ではありませんが、私の指導教員だった古賀憲司先生には、再びお会いしたいです。「孝行のしたい時分に親はなし」のとおりで、学問上の父親である古賀先生には、生前は失礼な事ばかりしていたように思います。いま自分のところの学生があんな感じだったら、相当腹が立つと思うのです。会って、お詫びしたいし、ご指導いただいたお礼もきちんと言っておきたいです。

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古賀憲司先生

 

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

実験ノートを見ると、2012年10月16日とあります。その頃までは細々と実験していました。最後の実験は、研究テーマの芽を見つけようとやったのですが、反応はグジャグジャで、たぶんTLCを見ただけで捨てたと思います。

 

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

カミュの「シーシュポスの神話」でしょうか。この本の最終章は本当に感動的です。ギリシア神話の登場人物であるシーシュポスは、大きな岩を山麓から山頂まで押し上げる重労働を、未来永劫やり続けるという罰を受けました。それでもなお生きる意味を見出し、さらには幸せだと感じることができるんだ、とこの本は教えてくれます。砂漠の島に取り残されるくらい、なんということはない、と感じさせてくれる気がします。

 

Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。

たくさんいますが、京都大学の川端猛夫先生を推薦します。化学者としても大変尊敬していますし、大好きな先生です。

 

 

関連リンク

 

眞鍋敬教授の経歴

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1965年生まれ。1988年東京大学薬学部卒業、その後同大学院薬学研究科理学研究科博士課程に進学1988年博士課程終修了、博士(薬学)。同年東京大学薬学部助手、2000年講師、助教授を経て、2005年理化学研究所主幹研究員となる。その間1993年コロンビア大学化学科博士研究員。2009年より静岡県立大学教授となり現在に至る。専門は有機化学、主要な研究は新規化学合成法の開発・触媒反応・機能性物質合成。受賞歴は1998年有機合成化学協会研究企画賞、2001年日本薬学会奨励賞など。

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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