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有馬温泉でラドン泉の放射線量を計算してみた【化学者が行く温泉巡りの旅】

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有馬温泉は、日本の温泉で最も高い塩分濃度を持ち黄褐色を呈する金泉と二酸化炭素と放射性のラドンを含んだ無色透明の銀泉の2種類の温泉を楽しめる温泉街です。この記事では、有馬温泉の銀泉について化学者の目線でレビューします。

有馬温泉の概要

有馬温泉は、岐阜県下呂温泉そして群馬県草津温泉とともに日本三名泉に数えられており、日本で古くから親しまれている温泉です。

有馬温泉へのアクセス

有馬温泉は兵庫県神戸市に位置します。具体的には、関西の阪神地域の人々のランドマークである六甲山の北側のふもとにあります。新幹線で行くならば新神戸駅で下車後に神戸市営地下鉄でおよそ 30 分ほどで行くことができます。大阪周辺からならば各種鉄道で神戸三宮へ向かい、そこから神戸市地下鉄で30分ほどになります。

一方、有馬温泉のすぐ近くの六甲山が登山初心者にも人気な登山スポットであることから、六甲山から下山後に有馬温泉に向かって、そのままの足で温泉で汗を流すというルートにより、六甲山登山と有馬温泉を一度に楽しめる定番コースも存在します (外部リンク:【王道ルート!】阪急芦屋川→六甲山最高峰→有馬温泉 登山ルートガイド (YamaPub))

兵庫県西部の放射光施設 SPring-8 で実験し終えて兵庫県に短期的に滞在していた私は、その定番コースに従って、阪急芦屋川駅から六甲最高峰を目指して登山を楽しんだ後に、有馬温泉まで下山するルートを取り、有馬温泉を楽しむ日帰り旅行を敢行しました。正直にいうと兵庫県出身の私にとって有馬温泉は子どものころから複数回以上足を運んでいるため、今回はおそらく 4 回目か 5 回目くらいだと思います。しかし、温泉の泉質を化学的に考察するようになったのはごく最近になってからなので、新鮮な気持ちでまた有馬温泉に行ってみようと思ったところです。

有馬温泉前に敢行した六甲山登山の様子.阪急芦屋川駅から始めに市街地を 30 分ほど歩いた後に, 入山します. はじめはごつごつとした岩肌の場所を手も使いながらよじ登っていくようなルートで, 簡易なロッククライミングをしているようで面白いです. その後は森林浴をしながら登っていきます. 六甲登山は登山の初心者向けのルートではありますが, しっかりとした登山の装備で行く必要があります. 市街地から始まるコースだと思って, なめていくと大変です. スタート地点から最高峰までは体力のある人であればおよそ 3 時間程度, その後目的の有馬温泉までの下山は 2 時間弱くらいかかります. ちなみに筆者が行ったのは 7 月頃です.

登山パートは一般的な登山ブログを参照していただくとして、本記事では化学者による温泉の化学的な深堀りをしていきます。

有馬温泉の泉質

記事の冒頭でもお話した通り、有馬温泉には2種類の温泉が楽しめます。1つは塩分および鉄分を多く含んで黄褐色をしており金泉、もう一つは無色透明無色で銀泉と呼ばれています。それぞれの具体的な泉質や温泉としての入り語心地については、記事中で記していこうと思います。以降は、旅の記録と考察です。

二酸化炭素泉と放射能線を含む銀泉

はじめに考察するのは銀泉です。銀泉は、二酸化炭素を多く含んだ源泉、放射性ラドンを含んだ源泉、あるいはそれらを混合したものです。すなわち銀泉は二酸化炭素泉であり放射性泉です。それぞれの成分について考察してみましょう。

まずは二酸化炭素泉について。遊離の二酸化炭素が 1000 ppm 以上含まれる温泉のことを二酸化炭素泉と言います。ここで「遊離の」というのは 「CO2 分子として」という意味であり、例えば「炭酸水素イオン HCO3」などは別に考えます。炭酸水素イオンが解けているような温泉は炭酸水素塩泉と区別されます。炭酸水素泉は弱アルカリ性になりますが、炭酸泉は弱酸性です。

二酸化炭素が溶け込んだ水といえば炭酸ですね。水溶液としては炭酸は身の回りにありふれたものでしょう。実は温泉としては、炭酸泉は日本では比較的珍しい泉質になります。炭酸泉の性質は炭酸を想像してもらえるとわかる通りです。具体的には弱酸性であるためどどちらかというとヒリヒリした肌触り (少なくともアルカリ性温泉に見られるようなヌルヌル感はない)で、二酸化炭素の濃度が高い場合には入浴すると気泡が肌に付着する場合もあるそうです。また飲用するとシュワシュワしたのど越しが楽しめます。

上の写真は有馬温泉の炭酸泉源公園で見られる二酸化炭素泉の泉源です。ネットの情報によると、泉源を間近で覗いたり湧き出てくる水を蛇口から飲めたりしたそうですが、私が訪れたときには泉源に近寄ることはできず蛇口も止められていました。残念。どうやらこの一昔前はこの炭酸水に砂糖を加えてサイダーとして飲用していたようです。現在でもその名残として、有馬サイダーなるジュースが販売されており共同温泉施設などで購入することができます。時間は前後しますが、温泉後に有馬サイダーを飲んでみました。味つけは砂糖だけですがきつめの炭酸がのど越しにガツンと刺さる、炭酸という素材の味を楽しめるサイダーでした。

公園に来て何も収穫がないのは渋かったので、成分分析表でも眺めて考察してみることとします。以下の成分分析表でまず注目したのは泉温が 18.3 °C と低めであること。あんまり温度が高いと二酸化炭素が抜けてしまって二酸化炭素泉にはなりえないので、この低い泉温は納得です。成分分析を眺めてみると、遊離の二酸化炭素は 1010 mg/kg (= 22 mmol/L) となっています。これは二酸化炭素泉の基準値 1000 ppm に達しています。pH にも注目すると、pH 4.3 と炭酸による弱酸性になっていることがわかります。

一方、塩や遊離成分の濃度は比較的低いです。例えば比較的濃度が高い陽イオンとして Ca2+ が 31 mg/kg とわかります。これは、硬水の飲用ミネラルウォーターよりも低い値で、硬度の分類に従うと中軟水に分類されます。 (例えば evian が 80 mg Ca/kg)。 温泉としては、溶存ガスを除いた溶質の総濃度が 1000 ppm 以下の場合に塩濃度が低い単純温泉と呼ばれるのですが、銀泉の総濃度は 400 ppm 程度と半分以下です。そんなこんなで非ガス性成分の総濃度は低いのですが、1つ気になる成分は鉄です。鉄の濃度は 40 ppm。この鉄濃度は含鉄泉の基準 20 ppmを超えています。この炭酸泉源公園での二酸化炭素泉は、銀泉には珍しく含鉄温泉でもあるようです。「①性状」のところを見ると炭酸味鉄味無臭とありますね。ただし、鉄による温泉の影響は次の記事で述べようと思います。

有馬温泉の銀泉のもう一つの泉質である放射能泉の泉源です。放射能泉は炭酸泉源公園のように観光客も訪問できるようになっている泉源はありませんでした。しかし共同浴場の「銀の湯」では放射性泉と二酸化炭素泉をブレンドしたお風呂が楽しめるということで、まずは銀の湯へ行ってきました。この「銀の湯」は、金泉が楽しめる別の共同浴場「金の湯」と対をなす施設で、金の湯と銀の湯をセットで楽しめる入場券がお買い得になっています。

この共同浴場の銀泉では放射能泉と二酸化炭素のブレンドになっているので、二種類の温泉分析書が張り出されていました。一方は、二酸化炭素泉によるもので、これは上述の二酸化炭素泉源公園とみたものとほぼ同じでした。もう一方は、放射能泉よるものです。下の写真が放射能泉の温泉分析書です。湧出地における調査のところの「(チ) ランド (Rn)」というところに注目してみます。これは「ランド」というのは「ラドン」の誤植でしょう。具体的な値は1060 Bq/kg となっています。うーん、化学者でもよっぽど放射線を扱っている人でないと、この値がどの程度のものかパッとイメージしにくいですね。この放射能については後でじっくり考えてみることにしましょう。

銀泉に入ってみた

銀泉は無色透明で、匂いも特にありません。これは次回の記事で紹介する黄褐色の金泉とは対照的です。肌触りは、弱酸性に由来する少しパリッとした感じがあるかもしれないけれど、特にクセはありません。肌に炭酸の気泡が付く…ということも期待していたのですがそれも特に顕著には見られませんでした。

うーん、登山帰りの疲れた体を癒すお風呂としては最高でしたが、無機水溶液に人体を浸す実験として見たときにはあんまり面白みがありませんでした笑。それでもクセがなく、ゆっくりと浸かれる温泉でした。

いや、もしかしたらラドン由来の放射線が認知できないところで人体に作用しているかもしれません。いや、そもそも放射性泉はどれくらい安全なのでしょうか。「有馬温泉の銀泉に1時間浸かるとレントゲン撮影 n 回分程度の被曝がある」というわかりやすい指標を知れると、SPring-8 での実験を終えたあとの放射線業務従事者的には安心です。温泉分析書で見た1060 Bq/kg という値についてじっくり考察してみましょう。

放射線に関する基礎知識

まずは放射線に関する基礎知識を学びましょう。Bq (ベクレル) は、放射能 (すなわち放射線を出す能力) の単位で、1 Bq/kg なら 1 kg で 1 秒あたりに 1 つの放射性元素が崩壊して 1 つの放射線を出すということになります。ここでいう放射線とは、α線 (He 核), β線 (電子線), γ線 (X 線よりも高エネルギーの電磁波) などの高エネルギー粒子です。通常 1023 程度の桁であるモルという単位に比べると「1 つの放射線原子の崩壊」というのはとても小さい数に思えます。

Bq は放射能の SI 単位ですが、慣用的な単位として Ci (キュリー) もあります。Ci は 3.7 x 1010 Bq で、およそ 1 g のラジウムの放射能に相当します (1 g のラジウムが 1 秒あたりに 3.7 x 1010 程度の崩壊を起こす)。

温泉分析書には 1060 Bq/kg の横に 286 x 10−10 Ci/kg とあり、1090/(3.7x 1010) = 286 x 10−10という簡単な関係で結ばれています。うーん、でもこの温泉に入るとどれくらいの被曝があるのかはわかりません。

放射能や被曝量に関する単位のまとめ.

被爆量に使われるのは Gy(グレイ)Sv (シーベルト) があります。Gy は被爆の絶対量で、単位質量あたりに被爆によって蓄積されたエネルギーを指します。上で、放射線にはα線 (He 核), β線 (電子線), γ線 (高エネルギーの電磁波)と述べましたが、その種類によってエネルギーだけでなく物質への透過のしやすさやなどが変わるため、「放射性原子の崩壊の数 (= Bq, Ci)」だけを知ったとしても、どれほどのエネルギーを被曝するのかが曖昧です。Gy (グレイ) は放射線の種類によるエネルギーの強さの比較を公平にするための単位です。

一方、同じエネルギーの放射線を被曝しても、どのように放射性物質と接触したのか (経口摂取、物理的接触、接近など)、そして接触や接近をしたならば体のどの部位に近づいたかによっても健康への影響は異なります。そこで、健康への影響に関する指標として考案された単位が Sv (シーベルト) になります。言い換えると Sv (シーベルト) は絶対被曝量だけでなく被曝のタイプや被曝した部位を考慮することで見積もられた指標です。

ラドン泉で発生する放射線は?

では放射性温泉に入浴したとき、人体はどのように放射線を浴びるのでしょうか? これを考えるには、放射性温泉における放射線物質と放射線の種類を知る必要があります。

上述の温泉分析書のところで簡単に触れたように、放射性温泉の放射性物質はラドン Rnと関係があります。具体的には222Rn で、これはウラン系列と呼ばれる一連の放射線壊変の系列のなかの途中に位置します (Rn の左上の数は、原子核中の陽子と中性子の合計) 。どういうことかというと、放射性原子核は基本的に徐々に壊変して放射線の発生を伴って新たな核種を生じます。このとき新たに生じた核種もたいていの場合が放射性元素であり、さらに放射線を発生してさらに次の放射性の核種を生むということです。

ウラン系列では、最終的に安定でこれ以上核壊変しない206Pb (鉛)に至るまでに 14 回の核壊変が起こります。そして 222Rn はその途中にいます。それぞれの放射性原子核には、あるときの数を基準にしたときにその数から半分になるまでにかかる時間 (半減期) があります。なので、その系列の中でも、比較的寿命が短くてすぐに次の核種へ行くものもあれば、半減期が親よりも長いために蓄積する各種もあります。

上に示すのはウラン壊変系列です。まずは半減期に関して考えてみましょう。222Rn の半減期は 3.83 日と比較的短いです。一方、親である 226Ra (ラジウム) は半減期が 1600 年と長く、さらにその親の 230Th (トリウム) に至っては 7.54 x 104 年と人類の文明の歴史よりも長い半減期です。ラドンの半減期はその親の核種よりも相当短いとわかります。したがってラドン 222Rn の濃度が高い温泉では、原理的に 226Ra の濃度も高いと考えられ、寿命が長い226Ra が (我々の時間スケールでは) ほぼ一定の速度で短寿命の 222Rn を生み出し続けては 222Rn がさらに壊変するという定常状態を作っているものと考えられます。そして 222Rn は分や秒といった時間スケールで壊変し続け、最終的には206Pb (鉛)で安定化します。

α 線は透過性が低い

放射線源となる核種についてわかってので、次にその放射線の種類に注目し、そのエネルギーや透過性について考えてみましょう。222Rn から218Po (ポロニウム) に至る核化学反応ではα線、すなわちヘリウムの原子核を放射します。α線は放射線のなかでは粒子として最も大きく、透過性が低いです。具体的には何らかの固体たとえば紙切れ一枚あればα線を防げます6。空気であったとしても 3.7 cm 程度、水であっても 45 μm あればα線を止めることができます6。このことから、例え 222Rn や 226Ra を含んだ温泉に浸かっていたとしても、皮膚にごく近いお湯の成分から発生されるα線が皮膚には当たるものの皮膚の表面のみで止められてしまい、皮膚の内部まで放射線が行き渡ることはありません。

α線の透過性のイメージ図.

おや、これでは放射性泉の効能は疑似科学ということになってしまうのでしょうか? 実は、ラドン泉の効能の秘密は、ラドンが気体であることに隠されています。温泉の成分から揮発したラドンを呼吸や皮膚を通して体内に取り込めるのです。またラドンは気体の中でも貴ガスなので、体内に入った後も反応せずに血液循環を介して体全体をめぐり体内で発せられたα線が体内組織を刺激してなんらかの効能を与えるものと考えられています。ちなみにラドンは排出も早く、吸入から40 分程度で体内のラドンの濃度は半減すると言われています2。その排出による半減の速度は、核壊変の半減期は 3.83 日よりも十分短く、基本的に吸収したラドンが体内で発する放射線は割合は少ないと考え得られます。

放射能泉で受ける放射線量は?

さて、ここで放射性泉の基礎について解説したので、元の疑問に戻ってきましょう。元々の疑問は、「有馬温泉の銀泉に1時間浸かるとレントゲン撮影 n 回分程度の被曝があるの?」ということです。上のような事情から、これを計算するには様々なパラメータが必要になります。まず、温泉中からどのくらいの速度でラドンが揮発するのか。吸入したラドンが体内に血液循環したときの体内の影響は、Sv (シーベルト)に換算したときにどの程度なのか、などなど 。放射能の単位には、核壊変の回数 Bq や健康被害の影響 Sv など様々あったことを思い出しましょう。放射線による身体への影響を計算するのは複雑で、Dr. Stone の千空のように知っている物理量や経験的なおおよその値だけを使って概算するのは難しそうです。と、途方に暮れていると、日本温泉気候物理医学会の学術誌 (!?) から温泉からの被曝量を簡単に見積もる計算式を報告する論文が見つかりました1

Da [mSv] = P × K × T × F × Q

Da : 温泉から揮発したラドンの吸入による被曝量
P : 温泉から空気中へのラドンの揮発速度 (10−4)
K: Bq と mSv の換算係数 (9 × 10−6 mSv/(Bqh/m3))
T: 入浴時間 (hour; h)
F: 平衡の因子 (室内では 0.4, 屋外では 0.5)
Q: 温泉中のラドン濃度 (Bq/m3)

この計算式の中で変数は入浴時間 T とラドン濃度 Q だけなので、ラドン濃度 Q は温泉分析書から手に入ります。例えば下に示す有馬温泉の銀泉の温泉分析書によるとラドン濃度は 1060 Bq/kg となっています。銀の湯は混合湯なので、源泉の混合比も本当は考慮すべきですが、混合比は分からなかったので源泉に浸かっているとして上振れした値を計算してみることとします。上の計算式ではラドン濃度 Q は Bq/m3 を使えと言っているので、単位の換算が必要ですね。温泉分析書に温泉の比重が 0.9987 と載っていたので、それを使って計算してもよいですが、概算なので温泉の濃度は 1 g/cm3 としましょう。とすると 1 kg の温泉は 1000 cm3 = 1000 × 10−6 m3 = 10−3 m3 であり、ラドン濃度は

1060 Bq/kg ≈ 1060 Bq/(10−3 m3) = 1060 × 103 Bq/m3 と変換されます。もし 1 時間入浴したら、これによる被曝はこのように計算されます。

Da [mSv] = P × K × T × F × Q
= 10−4 × (9 × 10−6 [mSv/(Bqh/m3)]) × 1 [h] × 0.4 × 1060× 103 [Bq/m3] = 3816 × 10−7 [mSv] ≈ 4 × 10−4 [mSv]

となります。この値を、様々な被曝線量とその健康リスクに比較してみましょう。

調べてみると、身近なところでも我々は微量な放射線をあらゆる場面で受けているようです。例えば 40K カリウムは長寿命で自然に存在する放射性元素であり、ほとんどの食事に微量に含まれています。また土壌にわずかに含まれる226Ra などによっても放射線が身の回りには存在しており、日本での年間の平均自然被曝量は 2.1 mSv 程度と見積もられています。

これと比べると、上の計算で得た放射性温泉の入浴による被曝 4 × 10−4 [mSv] はごく微量であるとわかります。実際に健康へ悪影響を与える基準値には遠く及びません。医療用の胸部 X 線での被曝量と比べてみても、温泉に150時間近く入浴してようやく胸部X線1 回分と同程度の被曝になるそうです。温泉に 1 年間ぶっ通しで入り続けたとしても、その量は単純計算で 4 × 10−4 × 24 × 365 = 4 meV/year 程度となりました。

自然被曝量には食べ物由来 (40K カリウム) や土地由来のものが含まれており、空気中のラドンや土壌のラジウムなどの土壌由来の自然被曝量は日本国内で 0.1–0.9 mSv 程度と言われています。したがって、放射性泉は自然由来の被曝量としては大きいと言えるでしょう。

以上の検討をしてみて安心したと同時に「放射能線って本当に効果あるのか?」とも思ってしまいます。逆に言えば完全に無害で安心とも言えます。ちなみに上述の通り、ラドンは体内に吸入されると血液循環を介して体を巡りながらα線を発します。発せられたα線は数十マイクロメートル程度しか進めませんが、α線が発せられた局所的な周辺の組織には比較的大きなエネルギーを与えることができ、複雑な刺激作用を起こすと考えれています2。しかし、放射能線のような極低量の線量がどのように健康的な作用を引き起こすかについては、まだ研究段階だそうです。そもそも温泉に入ることによるリラックス効果や温泉の他の成分による効能もあるので、放射能線による効能は議論がなされているところだそうです。

次回予告

というわけで、今回は有馬温泉の銀泉と放射線に関する雑学 (基礎知識?) についてお話しました。温泉分析書に見られた誤植もしかり、世の中の一般向け温泉サイトの放射線に関する記述の誤植や科学的な誤りが多かったので、長々とお話してしまいました。次回は有馬温泉のもう一つのお湯である鉄分を多く含んだ塩化物泉の「金泉」についてお話しようと思います。乞うご期待?

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参考文献

  1. 森 康則, 出口 晃, 美和 千尋, 岩崎 靖, 鈴村 恵理, 前田 一範, 森 恵子, 浜口 均, 島崎 博也, 水谷 真康, 川村 陽一 “放射能泉利用施設における空気中ラドン存在実態と実効線量評価—三重県菰野町におけるケーススタディ—” 日本温泉気候物理医学会雑誌 201477, 324–332. DOI: 10.11390/onki.77.324
  2. 森永寛 “放射能線の医学” 温泉科学 197425, 45–54.
  3. 銀泉源, 有馬温泉
  4. 放射能線 (温泉検索どっとこむ) 
  5. 二酸化炭素泉 (温泉検索どっとこむ)
  6. α, β, γ Penetration and Shielding (Harvard Natural Sciences Lecture Demonstrations)
  7. 環境省: 放射線による健康影響などに関するポータルサイト
  8. United States Environmental Protection Agency (EPA): Radiation Health Effects
  9. 【王道ルート!】阪急芦屋川→六甲山最高峰→有馬温泉 登山ルートガイド (YamaPub)

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PhD候補生として固体材料を研究しています。学部レベルの基礎知識の解説から、最先端の論文の解説まで幅広く頑張ります。高専出身。

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