[スポンサーリンク]

一般的な話題

天秤で量れるのは何mgまで?

[スポンサーリンク]

どんな測定にも測定限界がありますが、一番身近な測定装置である電子天秤の測定限界はご存知でしょうか?
恐らく多くの人が、微量の触媒や生成物、あるいは測定試料を秤量していて正確性に不安を覚えたことがあると思います。これまでケムステにも、どうすれば秤量誤差を少なくできるかについていくつか記事がありました(これとかこれ)。では、最小でどれくらい量れるかというと……どうでしょうか?

「d = 0.01 mg」は「最小0.01 mgが秤量できる」ではない

これ、誤解している人が多いのではないでしょうか。精密電子天秤の本体のどこかに書いてある「d = 0.01 mg」などは、最小で0.01 mgのサンプルが正確に秤量できるという意味ではありません。

「d = 0.01 mg」は、ただの「最小表示」です。
例えばメトラーの天秤XSR205DUVは、こちらのHPにあるように、最小計量値は20 mgです。

えっ、めちゃ大きくない? と思われたかもしれませんが、これも私たちが知りたい値とは少し違います。「最小計量値」というのは、繰り返し測定したときの誤差(標準偏差)の2倍が、95.4%の確率で測定量の0.1%以内に収まる、と期待される最小の重さです。

……何言ってるかわからないですね。
この場合、20 mgのサンプルを繰り返し量ると19.98~20.02 mgの間に収まる確率が95.4%、という意味になります。大体の場合で、「d =」で書いてある量が標準偏差と同じようです。つまり標準偏差0.01 mgの2倍 = 0.02 mgが測定量の0.1%、ということは測定量はその1000倍 = 20 mg = 最小計量値、という理屈です。
とにかく、かなりの精度が担保される数値だということが分かります。じゃあ結局最小で何mg量れるの?

小スケールの際は直線性をチェックすべし

ややこしいことに電子天秤の標準偏差は、通常 10 gの分銅を使って決定されています。実際に最小計量値の重さの分銅を使って調べたわけではなく、上記の20mgは単に標準偏差の2000倍で得られた値です。つまり、実際に調べられた結果としては、10 gの分銅を10回量って得られた値が9.98~10.02 gの間に…ということです。

何が問題かというと、10 gの分銅と20 mgのサンプルでは、誤差が線形ではない、ということです。ここでいう「線形でない」というのは、少量になればなるほど誤差が大きくなる、と受け取っても差し支えありません。
つまり、実際に上で言ったように20 mgのサンプルを繰り返し量っても、19.98~20.02 mgの間には収まりません。このずれを「直線性」というらしく、XSR205DUVでは

繰り返し性(代表値) 0.01 mg
直線性 ±0.2 mg

とあります。これは、(環境による誤差要因を最小にしたとしても)最悪で±0.22 mgの誤差が生じうるという意味のようです。

まとめ

要するに、重いサンプルを量るときには標準偏差(繰り返し性)が、軽いサンプルを量るときには直線性が大きく影響する、ということのようです。
メトラーのXSR205DUVで実測が1 mgだった場合の真の値は、0.78~1.22 mgの間ということですね。
例えば触媒量5 mol%の触媒を1 mg秤量したとすると、実際の触媒量は3.9~6.1 mol%ということになります。0.5 mgを秤量した場合では、2.8~7.2 mol%です。ちょっと大きすぎる気がしますね。

大事な点は、「最小でこの量までは正確に量れます」という数値があるのではなく、常に誤差がついてくるということですね。また、直線性は装置に由来する誤差なので、環境由来の誤差を少なくする工夫も重要です。そちらについてはケムステの過去記事をご覧ください。

直線性は装置本体には書いていないことも多いです。新年の初めにまず、手元の天秤の直線性を取説やHPでチェックしてみてはいかがでしょうか?

関連記事

関連リンク

arrow

arrow

投稿者の記事一覧

大学で有機金属触媒について研究している学生→発光材料や分子性電子素子を研究している大学教員になりました。 好きなものはバスケとお酒、よくしゃべりよく聞きよく笑うこと。 日々の研究生活で見、聞き、感じ、考えたことを発信していきます。

関連記事

  1. 不溶性アリールハライドの固体クロスカップリング反応
  2. 今冬注目の有機化学書籍3本!
  3. 原子一個の電気陰性度を測った! ―化学結合の本質に迫る―
  4. 環状ビナフチルオリゴマーの大きさが円偏光の向きを変える
  5. 近況報告PartII
  6. ノーコードでM5Stack室内環境モニターを作ろう
  7. 穴の空いた液体
  8. 近況報告Part III

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. アステラス病態代謝研究会 2019年度助成募集
  2. 豚骨が高性能な有害金属吸着剤に
  3. 有機合成に活躍する器具5選|第1回「有機合成実験テクニック」(リケラボコラボレーション)
  4. サレン-Mn錯体
  5. 第10回次世代を担う有機化学シンポジウムに参加してきました
  6. 大量合成も可能なシビれる1,2-ジアミン合成法
  7. アントニオ・M・エチャヴァレン Antonio M. Echavarren
  8. 化学療法と抗がん剤の併用で進行期非扁平非小細胞肺癌の生存期間延長
  9. 企業の研究開発のつらさ
  10. 化学・バイオつくば財団賞:2研究が受賞 /茨城

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年1月
« 12月   2月 »
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

注目情報

最新記事

PEG化合物を簡単に精製したい?それなら塩化マグネシウム!

ケミカルバイオロジー・生体関連化学用途の分子構造において、とにかくよく見かけるポリエチレングリコール…

バリー・ハリウェル Barry Halliwell

バリー・ハリウェル (Barry Halliwell、1949年10月18日-)は、イギリスの生化学…

湾曲したパラフェニレンで繋がれたジラジカルの挙動  〜湾曲効果による電子スピン状態の変化と特異性〜

第342回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院 先進理工系科学研究科・宮澤友樹 さんにお願いし…

第165回―「光電変換へ応用可能な金属錯体の開発」Ed Constable教授

第165回の海外化学者インタビューは、エドウィン(エド)・コンステイブル教授です。バーゼル大学化学科…

MEDCHEM NEWSと提携しました

「くすり」に関係する研究者や技術者が約1万7専任が所属する日本薬学会。そ…

抗体を液滴に濃縮し細胞内へ高速輸送:液-液相分離を活用した抗体の新規細胞内輸送法の開発

第341回のスポットライトリサーチは、京都大学 薬学研究科(二木研究室)博士後期課程1年の岩田恭宗さ…

革新的なオンライン会場!「第53回若手ペプチド夏の勉強会」参加体験記

夏休みも去って新学期も始まり、研究者としては科研費申請に忙しい時期ですね。学会シーズン到来の足音も聞…

実験手袋をいろいろ試してみたーつかいすてから高級手袋までー

前回は番外編でしたが、試してみたシリーズ本編に戻ります。引き続き実験関係の消耗品…

第164回―「光・熱エネルギーを変換するスマート材料の開発」Panče Naumov教授

第164回の海外化学者インタビューは、パンチェ・ナウモフ教授です。大阪大学大学院工学研究科 生命先端…

SNS予想で盛り上がれ!2021年ノーベル化学賞は誰の手に?

今年もノーベル賞シーズンの到来です!化学賞は日本時間 10月6日(水) 18時45分に発表です。昨年…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP