[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第40回「分子エレクトロニクスの新たなプラットフォームを目指して」Paul Low教授

[スポンサーリンク]

第40回の海外化学者インタビューは、ポール・ロウ教授です。英国ダラム大学の化学科に所属(訳注:2007年当時。2019年時の所属はUniversity of Western Australia)しており、共役有機化合物および有機金属化合物の合成、ならびに酸化還元状態の機能および電子構造に興味を持っています。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

自分の嗅覚に従って化学者になってしまったのは、本当は少し悲しいです。私は学校で数学/物理/化学を専攻していたので、大学の学士号が当然のルートでした。1年次の後、私は特別な才能のある数学者ではないことに気付きました。そして、兄と父という二人の物理学者もいれば、選ぶべきは明確でした。化学者になるのが最善でした!3年次のとき、マイケル・ブルースの有機金属化学の授業にすっかりはまってしまい、それから進むべき道が設定されました。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

「出来たこと」がここでは大部分を占めます。私はクリケットのフィールドで四年生以上のスコアを出すことはめったにありませんでしたが、オーストラリアのテスト・クリケット選手の上位100人に、幸運にも選ばれました。その試合のテレビ解説者は僅差で次点だったかと。

Q. 概して化学者はどのように世界に貢献する事ができますか?

CO2の回収、貯留、活性化を短期的な目標とし、炭素のリサイクルにつなげることが大きな課題となっている中で、エネルギー・ゲームはキャッチオールであるべきだと思います。長期的には、ますます不安定になる世界的な政治・環境情勢の中で、私たちは皆、炭素貯蔵量の管理に目を向け始める方がよいでしょう。結局のところ、化石燃料は化学産業の原料でもあり、この有用な資源を一気に燃やして地球を汚染するのは恥ずべきことでしょう。残念ながら、太陽エネルギー変換をマスターできるまでは、大規模な原子力発電を行わないと、炭素代替エネルギー経済の見通しはほとんど立ちません。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

簡単なことではありませんが、他の何人かと同じように、レオナルド・ダ・ヴィンチに触れなければならないでしょう。たくさんのビアマットとペンが用意されたテーブルでの夕食を強く希望します…結局のところ、最高のアイデアは、ビアマット上で示される議論から生まれるのです!

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

学生に尋ねて見れば、「最後に実験を台無しにしたのはいつですか?」と言われるかもしれません。私は研究室で指を濡らしたくなるひどい癖があります。何かわくわくするようなことが起きているのを見たら、私をあまり遊ばせないよう、学生は注意しなければなりません。本当の意味で最新・最後の実験は、金曜日の午後にやったもので、trans-RuCl2(dppe)2-アセチリド複合体の合成でした。それ以外にも我々は、ドデカカルボニル錯体を合成しようとして行ったOsO4 50gのエタノール還元によって不意に生成したOsO2のバッチをなんとか回収しようとしていました。退屈なことは研究室ではめったにありません。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

CDは簡単で、ロード・ロックンロールの中盤を収録したものなら何でも構いません。本選びははるかに難しいですし、私がどれくらいの長期滞在を期待していたかにももちろん依るでしょう!とはいえ、フランス語を学ぼうとしたタイミングでもあるので、きちんとした語学教育の本は数時間を過ごすのに良いかもしれません。

 

原文:Reactions – Paul Low

※このインタビューは2007年11月23日に公開されました。

 

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第30回 弱い相互作用を活用した高分子材料創製―Marcus W…
  2. 第155回―「化学結合と反応性を理論化学で理解する」Sason …
  3. 第132回―「遷移金属触媒における超分子的アプローチ」Joost…
  4. 第16回 教科書が変わる心躍る研究を目指すー野崎京子教授
  5. 【第一回】シード/リード化合物の創出に向けて 2/2
  6. 第149回―「ガスの貯蔵・分離・触媒変換に役立つ金属-有機構造体…
  7. 第113回―「量子コンピューティング・人工知能・実験自動化で材料…
  8. 第176回―「物質表面における有機金属化学」Christophe…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. フルオロシランを用いたカップリング反応~ケイ素材料のリサイクルに向けて~
  2. 創薬開発で使用される偏った有機反応
  3. “つける“と“はがす“の新技術―分子接合と表面制御
  4. 複雑な試薬のChemDrawテンプレートを作ってみた
  5. リケジョ注目!ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞-2013
  6. 谷池俊明 Toshiaki Taniike
  7. 【書籍】セルプロセッシング工学 (増補) –抗体医薬から再生医療まで–
  8. ポンコツ博士の海外奮闘録⑨ 〜博士,Yosemiteに行く〜
  9. 2-トリメチルシリル-1,3-ジチアン:1,3-Dithian-2-yltrimethylsilane
  10. 「マイクロリアクター」装置化に成功

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年12月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

ブーゲ-ランベルト-ベールの法則(Bouguer-Lambert-Beer’s law)

概要分子が溶けた溶液に光を通したとき,そこから出てくる光の強さは,入る前の強さと比べて小さくなる…

活性酸素種はどれでしょう? 〜三重項酸素と一重項酸素、そのほか〜

第109回薬剤師国家試験 (2024年実施) にて、以下のような問題が出題されま…

産総研がすごい!〜修士卒研究職の新育成制度を開始〜

2023年より全研究領域で修士卒研究職の採用を開始した産業技術総合研究所(以下 産総研)ですが、20…

有機合成化学協会誌2024年4月号:ミロガバリン・クロロププケアナニン・メロテルペノイド・サリチル酸誘導体・光励起ホウ素アート錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年4月号がオンライン公開されています。…

日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました

3月28日から31日にかけて開催された,日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました.筆者自…

キシリトールのはなし

Tshozoです。 35年くらい前、ある食品メーカが「虫歯になりにくい糖分」を使ったお菓子を…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP