[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第166回―「2次元量子材料の開発」Loh Kian Ping教授

[スポンサーリンク]

第166回の海外化学者インタビューは、ロー・キャン・ピン教授です。シンガポール国立大学化学科に所属し、先端技術への応用を目的とした機能性炭素材料の合成と改変に取り組んでいます。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

まず、化学という学問に興味を持ったのは、いろいろな局面で即効性があるからです。化学者が行うゲームには、直感的に理解しやすいルールがあるように思います。化学者は、宇宙がどのように動いているかを、実用的マインドに訴えかける言葉で説明します。人類の文明が仮に何らかの自然災害によって破壊され、再構築が必要となった場合、基本的なインフラを元に戻すために最も必要とされる集団が化学者だと考えています。だからこそ地球上で最初の科学者や魔術師は錬金術師だったのだと思います。

また、創造者としての化学者が有するポジティブイメージにも感銘を受けています。化学者は基本的に、クリエイターであり、料理人であり、アーティストであり、職人でもあります。彼らはシンプルな構成要素から新しい分子を作り出すことができ、その分子の中には痛みを減らしたり、命を救ったりするものもあれば、プラスチックや布のような有用品に変えることもできます。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

弁護士になるでしょう。プレゼン能力や間接的思考が必要という点では同じなので、説得力があると思います。弁護士になれば、今よりもっと稼げるようになるかもしれませんね。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

原子レベルの薄さの炭素シート上に、幾何学的に明確なナノ構造を作る方法を研究しています。グラフェンと呼ばれる原子レベルの薄さの炭素シートは、2次元の材料です。私のチームは、この材料にナノスケールの周期的波形をつくる方法を研究しています。これは、グラフェンのエネルギーギャップを変えたり、電荷収集プラットフォームとして使用する際に表面積を増やしたりすることにつながります。

Q.あなたがもし、歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

「化学の原理」を著し、周期表を発見したドミトリー・メンデレーエフと一緒に食事をしたいですね。 当時の限られた情報の中で、どのような思考プロセスを経て発見に至ったのか、興味があります。

[amazonjs asin=”0344888231″ locale=”JP” title=”The Principles of Chemistry”]

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

正直に言うと今の私は、コンピュータから反応を指示するラップトップ/PCケミストです。最後にラボで実験したのは、1年前、グラフェンの化学蒸着に必要な炉の整備をポスドクの仲間と一緒に行ったときでした。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

日記を持って行って、自分の考えを書き留めたり、無人島での夕食を記録したりします。音楽のアルバムは、カーペンターズのようなお気に入りの古典がいいですね。

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

クラウス・ミューレン教授を推薦したいと思います。彼は、デザイナーズ分子からグラフェンをボトムアップで合成するという素晴らしい研究を行っています。ボトムアップ戦略を用いれば、ほとんど何もかもを作ることができるので、化学者の創意工夫の好例だと思います。

 

原文:Reactions – Loh Kian Ping

※このインタビューは2011年7月26日に公開されました。

関連動画

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第40回「分子設計で実現する次世代バイオイメージング」山東信介教…
  2. 【第一回】シード/リード化合物の創出に向けて 2/2
  3. 第28回 錯体合成から人工イオンチャンネルへ – P…
  4. 第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 …
  5. 第116回―「新たな分子磁性材料の研究」Eugenio Coro…
  6. 第62回―「再生医療・ドラッグデリバリーを発展させる高分子化学」…
  7. 第153回―「ネットワーク無機材料の結晶学」Micheal O&…
  8. 第86回―「化学実験データのオープン化を目指す」Jean-Cla…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第58回「新しい分子が世界を変える力を信じて」山田容子 教授
  2. 相田卓三教授の最終講義をYouTube Live配信!
  3. 有機分子・バイオエレクトロニクス分科会(M&BE) 新分野開拓研究会2023 「電子とイオンの織りなすサイエンス: 材料・デバイス・センシング」
  4. 第七回ケムステVプレミアレクチャー「触媒との『掛け算』で研究者を育て、組織を面白く、強くする」
  5. 最長のヘリセンをつくった
  6. 第14回「らせん」分子の建築家ー八島栄次教授
  7. ヴィ·ドン Vy M. Dong
  8. 沈 建仁 Jian-Ren Shen
  9. The Journal of Unpublished Chemistry
  10. サントリー生命科学研究者支援プログラム SunRiSE

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年10月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP