[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

香りの化学1

[スポンサーリンク]

世の中にはたくさんの「香り」にあふれています。

花の香り、食べ物の香り、体臭などの天然のものや香水、合成香料などの人工的なにおいまでさまざまな香りがあります。

それでは、今回はまずこれらの「香り」というものは一体何なのか?答えを先に行ってしまうと分子(化合物)が香りの正体です。

本記事では香りの具体的な化学構造とその関係を説明し、続く「香りの化学2」で有機合成化学の分野である「合成香料」について合成法、利用などをあげてみよう。

香料とはなにか?

「香料」(Perfumery Materials)とは一言でいうと「におい」を与える物質です。

「におい」とは揮発性物質が鼻膣の中の嗅細胞を刺激したときに起こる感覚(嗅覚)であることは明らかではですが、じつはその機構はまだ完全には解明されていません。「香料」といえば快いにおいをあたえる物質だけでなく、不快なにおいを持つ物質に対しても、ある目的をもって使用しているものなら香料といえます。
香りに当たる外国語は、perfume(英)、parfum(仏)、das Parfum(独)、profumo(伊)などであるがいずれもラテン語のPer Fume (through smoke 煙によって)に由来しています。

理由は昔からにおいの良い香木や香脂を燃やして香るの良い煙を天に昇らせ、清浄な、神にささげるにふさわしい落ち着いた雰囲気を作ろうとするという試みが、洋の東西を問わず広く行われてきたことからであるといわれています。

においと化学構造

においを構成する有機化合物は、炭素と水素からだけではなく、酸素や窒素、硫黄なども含んでいます。 においがなぜ感じるかということや、化学構造との関係については昔から多くの説が出されているがいまだ定説はありません。ただし有機化合物の化学的性質と化学構造との間に関連があることは明らかであり、また多くの薬理作用や物理的性質も化学構造に関連しています。

しかし、においの問題となると多くの努力がなされてきたにかかわらず、現在のところ化学構造とにおいを単純に系統付けることはできていません。一方で、簡単な化合物については、ある程度系統づけることができます。そして、一般的に、においは官能基の種類、シスートランス異性体、官能基の位置、光学活性体によって異なります。

官能基とにおい

分子量の小さい化合物においてはそれぞれ官能基の種類によって、アルコール臭、エステル臭、アルデヒド臭という感じににおいが分類できます。
例えばエステル類は、そのほとんどが軽い果実のような匂いをもっています。そのほかにもα-ジケトン(ケトンを分子内に二つ持っている化合物は、カラメルよう香気といわれる、砂糖の焦がしたような甘い匂いをもっています。

シスートランス異性体とにおい

幾何異性体にもにおいが関連している。たとえばジャスミンの花から取れるジャスモン酸メチルという化合物にいえます。この化合物は二重結合の置換基の位置の違いで、cia-ジャスモン酸メチルとtrans-ジャスモン酸メチルの2つのシスートランス異性体が存在します。

この物質ではcis-ジャスモン酸メチルがtrans-ジャスモン酸に比べてはるかににおいが強くジャスミン香気があります。trans-ジャスモンの方はシス体に比べて脂肪臭があるので、香料としては、あまり利用価値がありません。ジャスミンの花から単離されたのもcis-ジャスモン酸メチルです
一般に、植物中から単離された化合物はトランス体は脂肪臭があるので比較的シス体の方が優れているといわれています。
ただし例外も多数あり、バラの花から単離されたゲラニオールは、トランス体であるし、すみれの花の香りのするイオノンも二重結合はトランス体です。

官能基の位置とにおい

官能基自身や、二重結合そのものがにおいに大きな影響を与えているわけですが、におい分子の中における官能基や、二重結合の位置がにおいに与える影響も興味深いものもあります。
例えばバラの花から取れる精油のなかで65~80%の成分比を占める、βフェニルエチルアルコールという化合物がありますが、このアルコールの位置が異なったα-フェニルエチルアルコールは、バラの花からは程遠いにおいがします。この2つの関係を化学では位置異性体といいます。

また、ラズベリーから取れる成分にラズベリーケトンと呼ばれる化合物がありますが、この化合物も、官能基の位置の異なった異性体化合物では、ラズベリーの味も香りもなくなってしまいます。

光学異性体とにおい

鏡の関係、光学異性体でもにおいは異なります。その有名な例としてメントールという化合物があります。メントールははっかの味と香りのする化合物です。メントールには3つの不斉炭素があるため、立体化学が異なる2=8個の光学異性体が存在する。8種類の異性体のうち、天然のハッカからとれるのは、l-メントールと呼ばれる立体化学をもつものだけであります。また、他の光学異性体に比べて、強い匂いと長時間持続する清涼感があります。

その他にも、グレープフルーツから単離され、非常に強いグレープフルーツの香りのする、ヌートカトンがありますが、これについてもメントールと同じく、分子内に3つの不斉炭素を持っているので、8種類の光学異性体があります。天然のグレープフルーツから単離された異性体以外(+)-ヌートカトン以外は、グレープフルーツの味と香りは劣りますし、まったくグレープフルーツの香りすらない異性体もあります。

まとめ

このように、単に香料やにおいといっても実際は深く、まだかなりブラックボックス的なものが多いことがおわかりいただけたでしょうか。
ここに紹介したものはほんの一例、まだまだ様々な性質、においをもったもの、つまり化合物はたくさんあります。興味を持った人は、参考文献やその他の本や論文で勉強してみましょう。
続いて、「香りの化学2」でこれらの香料の合成方法について考えてみよう!

関連リンク

関連書籍

[amazonjs asin=”4061543792″ locale=”JP” title=”香料の科学 (KS化学専門書)”]
Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり⑨:トラックボ…
  2. 美麗な分子モデルを描きたい!!
  3. 超塩基に匹敵する強塩基性をもつチタン酸バリウム酸窒化物の合成
  4. シリカゲルはメタノールに溶けるのか?
  5. アンモニアを室温以下で分解できる触媒について
  6. 電流励起による“選択的”三重項励起状態の生成!
  7. 第17回日本化学連合シンポジウム「防災と化学」
  8. 日本語で得る学術情報 -CiNiiのご紹介-

注目情報

ピックアップ記事

  1. FAMSO
  2. 穴の空いた液体
  3. 触媒的C-H活性化型ホウ素化反応
  4. 二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング
  5. C-H結合活性化を経るラクトンの不斉合成
  6. ブレデレック ピリミジン合成 Bredereck Pyrimidine Synthesis
  7. ReadCubeを使い倒す(3)~SmartCiteでラクラク引用~
  8. アルキルラジカルをトリフルオロメチル化する銅錯体
  9. 第6回ICReDD国際シンポジウム開催のお知らせ
  10. Aza-Cope転位 Aza-Cope Rearrangement

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2000年8月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

リサイクル・アップサイクルが可能な植物由来の可分解性高分子の開発

第694回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院理工学府(跡部・信田研究室)卒業生の瀬古達矢…

第24回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

粉末 X 線回折の基礎知識【実践·データ解釈編】

粉末 X 線回折 (powder x-ray diffraction; PXRD) は、固体粉末の試…

異方的成長による量子ニードルの合成を実現

第693回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科(佃研究室)の髙野慎二郎 助教にお願…

miHub®で叶える、研究開発現場でのデータ活用と人材育成のヒント

参加申し込みする開催概要多くの化学・素材メーカー様でMI導入が進む一…

医薬品容器・包装材市場について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、医…

X 線回折の基礎知識【原理 · 基礎知識編】

X 線回折 (X-ray diffraction) は、原子の配列に関する情報を得るために使われる分…

有機合成化学協会誌2026年1月号:エナミンの極性転換・2-メチル-6-ニトロ安息香酸無水物(MNBA)・細胞内有機化学反応・データ駆動型マルチパラメータスクリーニング・位置選択的重水素化法

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2026年1月号がオンラインで公開されています。…

偶然と観察と探求の成果:中毒解毒剤から窒素酸化物を窒素分子へ変換する分子へ!

第692回のスポットライトリサーチは、同志社大学大学院理工学研究科(小寺・北岸研究室)博士後期課程3…

嬉野温泉で論文執筆缶詰め旅行をしてみた【化学者が行く温泉巡りの旅】

論文を書かなきゃ!でもせっかくの休暇なのでお出かけしたい! そうだ!人里離れた温泉地で缶詰めして一気…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP