[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

有機触媒によるトリフルオロボレート塩の不斉共役付加

[スポンサーリンク]

Organocatalytic Vinyl and Friedel-Crafts Alkylations with Trifluoroborate Salts
Lee, S.; MacMillan, D. W. C. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 15438.  DOI: 10.1021/ja0767480

米プリンストン大学のMacMillanらによる報告です。

彼らによって開発された有機分子触媒、MacMillan触媒[1]は、エナール(α,β-不飽和アルデヒド)を基質とし、様々な不斉1,4-付加反応を進行させます。基質と反応して求電子性の高いイミニウム中間体を形成し、付加反応を促進させることを特徴としています(LUMO-activation)。複雑化合物の合成にも用いられるなど、大変実用性の高い触媒です(例:タミフルの合成)。

今回の論文では、有機トリフルオロボレート塩(RBF3K)[2]を求核剤として用いています。ボランの結合している炭素で選択的に反応が進行するという特徴があります。

同種の触媒を用いるFriedel-Crafts条件では、インドールの3位が選択的に反応しますが、今回の系はそれと相補的(2位選択的反応)に用いることができます(下図)。

MacMillan_BF3_3

 ボロン酸も求核剤として使えるようですが、反応点近傍に配位性官能基がないと進行しないそうです。このこともPetasis反応類似のボレート種付加機構を支持しているとのこと。

しかしながらPhBF3Kという最も単純な基質が適用外、ということも脚注に記されていました。反応表から予測されるよりも、基質一般性は思いのほか狭いのではないか?と感じました。

本反応系では、フッ化水素酸を添加することがカギになります。これによって基質のプロトン化を行うとともに、副生成物を不溶性のKBF4として沈殿させています。平衡を生成系に傾ける目的で、よく設計された系になっています。

(+)-Frondrosin B全合成への応用結果も近日報告予定、とのこと。この化合物は不斉点が一つだけとはいえ、既存法によっては制御が難しそうな位置にあります。巧く選択してくるものだなぁと思いました。(追伸:Chemical Science誌に報告されていました)

MacMillan_BF3_2

 反応の独自性に関するアピールの仕方が、とにかく巧みな論文です。レベルの高いジャーナルに通すためのお手本、ともいえる良い例ではないでしょうか。

 

関連文献

  1. Review: Lelais, G.; MacMillan, D. W. C. Aldrichimica Acta 200639, 79.
  2. Review: (a) Stefani, H. A. et al. Tetrahedron 2007, 63, 3623. (b) Molandar, G. A. et al. Aldrichimica Acta 2005, 38, 49.

関連書籍

[amazonjs asin=”4882319136″ locale=”JP” title=”有機分子触媒の新展開 (CMC Books)”][amazonjs asin=”3527305173″ locale=”JP” title=”Asymmetric Organocatalysis: From Biomimetic Concepts to Applications in Asymmetric Synthesis”][amazonjs asin=”3527332367″ locale=”JP” title=”Comprehensive Enantioselective Organocatalysis: Catalysts, Reactions, and Applications, 3 Volume Set”]

 

関連試薬

Aldrich

mfcd03426983.gifMacMillan触媒: (5S)-(?)-2,2,3-Trimethyl-5-benzyl-4-imidazolidinone monohydrochloride

分子量:254.76

CAS:278173-23-2

製品コード:569763

用途:不斉有機分子触媒

説明:2000年に報告された、触媒的不斉Diels-Alder反応を皮切りに、MacMillanらは、1,3- 双極子環化付加反応や、Friedel-Crafts アルキル化反応、α- 塩素化反応、α- フッ素化反応、分子内Michael 反応などを高いエナンチオ過剰率で進行させることが可能な触媒を見出した。このイミダゾリジノン触媒を基本骨格として、さらに様々な触媒的不斉合成反応を見出している。

文献:Jen, W. S.; Wiener, J. J. M.; MacMillan, D. W. C. J. Am. Chem. Soc2000, 122, 9874.

その他のMacMillan触媒に関する記述: 有機分子触媒(Aldrichオンラインカタログ, PDFファイル)

 

外部リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 化学者のためのエレクトロニクス入門④ ~プリント基板業界で活躍す…
  2. NaHの水素原子の酸化数は?
  3. 祝5周年!-Nature Chemistryの5年間-
  4. iPadで計算化学にチャレンジ:iSpartan
  5. 化学者のためのエレクトロニクス講座~化合物半導体編
  6. 【ケムステSlackに訊いてみた③】化学で美しいと思うことを教え…
  7. 2007年度ノーベル化学賞を予想!(5)
  8. スケールアップのためのインフォマティクス活用 -ラボスケールから…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 金属水素化物による還元 Reduction with Metal Hydride
  2. STAP細胞問題から見えた市民と科学者の乖離ー前編
  3. 核酸医薬の物語1「化学と生物学が交差するとき」
  4. ユニバーサル・フェーズセパレーター発売
  5. 第126回―「分子アセンブリによって複雑化合物へとアプローチする」Zachary Aron博士
  6. 技あり!マイルドにエーテルを切ってホウ素で結ぶ
  7. 科学とは「未知への挑戦」–2019年度ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞
  8. 二重マグネシウム化アルケンと二重アルミニウム化アルケンをアルキンから簡便に合成!
  9. (+)-11,11′-Dideoxyverticillin Aの全合成
  10. 第97回日本化学会春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part III

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2007年12月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

“とび跳ねる水滴”に潜む物理 〜接触時間とエネルギー源で読む撥水・防氷のテク〜

熱したフライパンに落ちた水滴が、玉になってコロコロと走り回り、冷えた面では、結露水が合体した瞬間に跳…

AI時代に研究者がすでに持っている力・これから伸ばしたい力

論文要約や文献検索など、研究現場でもAI活用が日常化する一方、「自分の仕事の先行き」に漠然とした不安…

miHub®を活用した探索的データ解析の実践

開催概要研究開発においてデータ活用が進む中、機械学習モデルの構築や予測解析に…

“ある特効薬”のはなし ~本田宗一郎氏の回想から

Tshozoです。最近実家に戻っては色々と廃棄するなどの店じまいを少しずつ進めているのですが、中…

高分子鎖を束ねた新しい共重合体「束状共重合体」が誕生

第715回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 工学系研究科(植村研究室)に所属されていた亀谷…

2026年「有機溶媒危機」へのアンサー。北大発・メカノクロスが挑む、溶媒に依存しない新たな合成法 = “メカノケミカル有機合成”の社会実装

株式会社メカノクロスは、メカノケミカル有機合成技術の社会実装に挑む北海道大学発の…

“壊れないよう” に作ってきた半導体ポリマーを、あえて “壊れるよう” に作る化学

半導体ポリマーは長いあいだ、「いかに壊れにくく、長持ちさせるか」といったような安定性を競って進歩して…

有機合成化学協会誌2026年7月号:固体高分子電解質・電子ドナー・アクセプター錯体・機械学習法・trichodermamide類・エナンチオ選択的スキップジエン合成法

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2026年7月号がオンラインで公開されています。…

第62回Vシンポ「見えない空気を科学する~センサによる室内環境・臭気の見える化と快適空間デザインの最前線~」を開催します!

こんにちは、Macyです。第62回Vシンポのご案内をさせていただきます。今回は、前回同様…

【協和ファーマケミカル】新卒採用情報(2028年卒)

協和ファーマケミカルが求めているのは、有機合成の知識や実験経験を身につけ、活かし…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP