[スポンサーリンク]

一般的な話題

冬虫夏草由来の画期的新薬がこん平さんを救う?ーFTY720

FTY1.gif 多発性硬化症(以下MS)という病気をご存知でしょうか?MSは中枢・視神経系の脱髄から様々な神経症状がおこる原因不明の難病で、自己免疫疾患の一つと考えられています。もう少し簡単に説明すると、本来外敵を攻撃するために備わっている免疫細胞が、自身の神経細胞の一部(正確にはミエリンと呼ばれる軸索に存在する絶縁性のリン脂質の層→詳しくはこちら)を攻撃してしまうことで、様々な神経症状を引き起こす病気です。なぜ自己の免疫細胞が自己を攻撃してしまうのかがわかっていない原因不明の部分であります。

日本国内における罹患率は約1万人に一人。国内患者数は約1万4千人。笑点の林家こん平さんがMSを発症し、現在笑点を降板していることでも有名です。

この病気に対する注目の低分子薬(経口薬)が発売されたのでちょっと専門的になりますが少し説明したいと思います。

MSの治療にはこれまで(今も)インターフェロンベータ製剤と呼ばれる注射剤が使われてきました。ただ、この薬がなぜMSに効くのかよくわかっていません。医者も研究者も「免疫のバランスを調整する」と声を濁すだけで真のメカニズムはわかっていないのです。だけど効くから長い間第一選択薬として使われてきました。しかし、この薬だけでは症状を安定させることのできない患者も多く、新たな治療選択肢が求められてきました。一方で、MSは患者数が少なく、臨床試験は症状の観察に長期間(一回の試験で1~2年)を要する、MRI診断が必要、莫大な開発費が必要・・・など、医療ニーズは高いもののなかなか開発が進まない疾患でした。

そんな中、画期的な新薬FTY720が開発され欧米そして日本で販売を開始しました。商品名はイムセラカプセルまたはジレニアカプセル。業界ではFTY720として有名です。この薬の起源は日本です。京都大学の藤田哲郎名誉教授(F)、台糖(T)、吉富製薬(Y)の共同開発から生まれたのでFTYという名前が付けられています。FTY720冬虫夏草と総称される、昆虫に寄生し繁殖する菌(きのこ)の一種から単離されたミリオシンと呼ばれる低分子化合物の構造を元に化学合成されました。

 

FTYmy.gif

冬虫夏草・・・にはの姿をしているが、になると虫の体内からきのこが出てきて(植物)になるという意味のチベット語が語源らしい(怖っ)。

なぜこれが薬になったのか知ってほしいのでもう少し読んでください。語源の通り、この菌は生きた昆虫にに感染・寄生します。そしてその昆虫を殺した後にその体を栄養源としてきのこを伸ばすのです。生きた昆虫に寄生する、ってところがポイントです。人に免疫機能があるように昆虫にだって細菌感染から体を守る免疫機能があります。それをかいくぐってこの菌は感染・寄生してその個体を死に至らしめるわけです。ってことは、

「昆虫の免疫機能を妨げる何らかの化学物質(免疫抑制物質)をこの菌が産生しているのではないか?」

と研究者は考えるわけです。それがミリオシンだったわけです。これが人間にも効いちゃったのはまさに奇跡ですが、とにかくFTY720は免疫抑制剤なんです。リンパ球のリンパ節へのホーミング(留まらせること)がざっくりしたメカニズムです。神経細胞を攻撃しちゃうリンパ球をリンパ節に閉じ込める→リンパ球が血中に流れない→神経細胞が攻撃を受けない→病気が発症しない、という流れです。これまでのインターフェロン治療に比べ統計学的に優位な治療効果を示すことが何年にも及んだ臨床試験で証明されました。そこまで免疫抑制して他の感染症にはかからないの?という疑問がありますが、重篤な感染症は稀だそうです。それもまた謎な気がしますが・・・。MSに対する初めての飲み薬です。FTY720がこれからのMS治療のスタンダードになる日も遠くないでしょう。また、免疫抑制剤として他の自己免疫疾患への適用拡大が進められており、ブロックバスター(年売上1000億円以上)になる日もまた遠くないでしょう。

2011年11月末の薬価収載でこの薬0.5mgカプセル一つで8172円という高値が付きました。一日一錠なので一年では8172円×365日=298万円です。合成を知ってる人がこの構造を見ちゃうと・・・不斉点ないし、学生実験でも作れるな・・・2週間あれば自分一人で100gは作れる!などなどいろんなぼやきが聞こえそうですが、どんなに簡単な低分子でも画期的な薬になれば非常に高い評価が受けられるということです。ちなみにですが、MSは国の特定疾患に指定されているので確定診断を受ければこれらの治療・薬は公費(無料)で受けることができます。そういう制度があることも皆さん知っておきましょう。

訂正2011/12/12

× インターフェロンガンマ製剤 → 〇 インターフェロンベータ製剤

及びミエリンの解説に関するに部分を訂正しました。

 

 

  • 関連書籍

 

 

 

 

 

The following two tabs change content below.
matsumoto

matsumoto

修士(工学)。学生時代は有機合成・天然物合成に従事し、現在は某製 薬メーカー合成研究員。

関連記事

  1. ChemDrawの使い方【作図編①:反応スキーム】
  2. 人が集まるポスター発表を考える
  3. 化学の力で複雑なタンパク質メチル化反応を制御する
  4. 「大津会議」参加体験レポート
  5. SlideShareで見る美麗な化学プレゼンテーション
  6. 文献検索サイトをもっと便利に:X-MOLをレビュー
  7. 触媒表面の化学反応をナノレベルでマッピング
  8. 大学の講義を無料聴講! Academic Earth & You…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 高分子のらせん構造を自在にあやつる -溶媒が支配する右巻き/左巻き構造形成の仕組みを解明-
  2. 世界を股にかける「国際学会/交流会 体験記」
  3. フルオラス向山試薬 (Fluorous Mukaiyama reagent)
  4. 福山インドール合成 Fukuyama Indole Synthesis
  5. Aza-Cope転位 Aza-Cope Rearrangement
  6. 化学にインスパイアされたジュエリー
  7. Chemistry on Thanksgiving Day
  8. メールのスマートな送り方
  9. サレット・コリンズ酸化 Sarett-Collins Oxidation
  10. 四酸化ルテニウム Ruthenium Tetroxide (RuO4)

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

速報・常温常圧反応によるアンモニア合成の実現について

Tshozoです。先日発表になりましたタイトルの件、今まで本ケムステで書かれてきた記事(こちら・こち…

室温で緑色発光するp型/n型新半導体を独自の化学設計指針をもとにペロブスカイト型硫化物で実現

第195回のスポットライトリサーチは、東京工業大学 科学技術創成研究院(平松研究室) 半沢幸太さんに…

化合物の秤量

数mgを量り取るといったことは多くの化学系の研究者の皆様が日常的にされていることかと思います。しかし…

小スケールの反応で気をつけるべきこと

前回はスケールアップについて書いたので、今回は小スケールの反応での注意すべきことについてつらつらと書…

尿から薬?! ~意外な由来の医薬品~ その1

Tshozoです。今まで尿に焦点をあてた記事を数回書いてきたのですが、それを調べるうちに「1…

OPRD誌を日本プロセス化学会がジャック?

OPRD(Organic Process Research & Development)はJ…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP