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化学者のつぶやき

カスケードDA反応による(+)-Pedrolideの全合成ダダダダ!

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(+)-Pedrolideの初の全合成が報告されたシクロペンタジエン等価体となるノルボルナジエンのカスケードDA反応により、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン部位を構築したことが本合成の鍵である。

(+)-Pedrolideの全合成

(+)-Pedrolide(1)は2021年にトウダイグサ科Euphorbia pedroiから単離されたジテルペノイドである。細胞毒性を示さないP糖タンパク質阻害剤としてはたらくことが知られる[1]1は前例のないpedrolane(5–5–6–6–3縮環)骨格をもつジテルペノイドであり、その構造の複雑さから合成化学的に魅力的な合成標的である。とりわけ、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン部位の構築は難易度が高く、その構築法が全合成の鍵となる。

著者らが考案した1の逆合成解析を以下に示す(図1A)。まず、1Iのオレフィン部位の酸化とメチル基の導入により得られる。特徴的なビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格は、シクロペンタジエン(CPD)の分子内Diels–Alder反応(DA反応)により、IIから合成できると考えた。IIは三級アルコールIIIのラクトン化により合成し、IIIはケトンIVに対するCPDの1,2-付加反応により得られると考えた。

本合成戦略の軸であるCPDの分子内DA反応を利用した全合成は数少ない。その理由として、CPDの高い反応性から二量化[3]や[1,5]シグマトロピー転位による異性化[4]といった副反応が進行し、反応制御が困難であることが挙げられる。そこで著者らはDaştanが報告したノルボルナジエン(NBD)のCPD誘導体への変換法に着目した(図1B)[5]。NBDにテトラジン誘導体を作用させるとカスケードDA反応(DA→retro-DA(rDA)→rDA)が進行しCPDが得られる。CPDはアルキンとのDA反応によりビシクロ[2.2.1]ヘプタジエンを与える。この反応を応用し合成終盤で主骨格に導入したNBDをカスケードDA反応(DA→rDA→rDA)によりCPDへと変換する。これにより生じたCPDの分子内DA反応によりビシクロ[2.2.1]ヘプタン部位を構築できると考えた(図1C)。

図1. A) 1の逆合成解析 B) シクロペンタジエン合成法(Daştan) C) ビシクロ[2,2,1]ヘプタン部位の構築法(Carreira)

Enantioselective Total Synthesis of (+)-Pedrolide

Fadel, M.; Carreira, E. M. J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 8332−8337

DOI:10.1021/jacs.3c02113

論文著者の紹介

研究者 : Erick M. Carreira

研究者の経歴
1984 B.S., the University of Illinois at Urbana-Champaign, USA (Prof. Scott E. Denmark)
1990 Ph.D., Harvard University, USA (Prof. David A. Evans)
1990–1992 Postdoc, California Institute of Technology, USA (Prof. Peter Dervan)
1992–1996 Assistant Professor, California Institute of Technology, USA
1996–1997 Associate Professor, California Institute of Technology, USA
1997–1998 Professor, California Institute of Technology, USA
1998– Professor, ETH Zürich, Switzerland
研究内容 : 天然物合成、不斉触媒開発、ケミカルバイオロジー、医薬化学

論文の概要

まず、著者らは4-メトキシフェノール(2)から合成したジエノン3を、Feringaが報告した不斉マイケル付加反応[6]によりエノン4へと変換した(図2)。次に4から得た5をGrignard試薬の立体選択的1,2-付加、酸加水分解、ヒドロキシ基の保護により6へと変換した。続いて、鉄触媒を用いた金属ヒドリド水素原子移動(MHAT)によりシクロプロパン環を構築し、高度に官能基化されたカラン部位の迅速な合成に成功した。次に7から3工程でケトン8を合成し、9を作用させることで三級アルコール10を単一の異性体として得た。続くシリル基の選択的除去、TEMPO酸化によりラクトン11を合成した後、不飽和ラクトン12へと変換した。次にテトラジン13を作用させることでカスケードDA反応が進行し、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格を有する14を中程度の収率で得た。反応系中でNBDをCPDへと変換した後、速やかな分子内DA反応により二量化や異性化を抑え、目的の縮環構造を構築した。その後、5工程の官能基変換や酸化度の調節により1の全合成を達成した。

図2. 1の合成経路

以上、本論文著者であるCarreiraらはNBDをCPD等価体として利用する新たな合成戦略により新奇pedrolane骨格をもつ1を20工程で合成した。このカスケードDA反応を用いた鮮やかな縮環構造の構築法は注目を集めたはずダダダダ!

参考文献

  1. Ferreira, R. J.; Spengler, G.; Orthaber, A.; dos Santos, D. J. V. A.; Ferreira, M.-J. U. Pedrolane, a Polycyclic Diterpene Scaffold Containing a Bicyclo[2.2.1]heptane System, from Euphorbia pedroi. Org. Lett. 2020, 23, 274–278. DOI: 10.1021/acs.orglett.0c03647
  2. Vasas, A.; Rédei, D.; Csupor, D.; Molnár, J.; Hohmann, J. Diterpenes from European Euphorbia Species Serving as Prototypes for Natural-Product-Based Drug Discovery. J. Org. Chem. 2012, 5115–5130. DOI: 10.1002/ejoc.201200733
  3. Turnbull, A. G.; Hull, H. S. A Thermodynamic Study of the Dimerization of Cyclopentadiene. Aust J. Chem. 1968, 21, 1789−1797. DOI: 10.1071/CH9681789
  4. McLean, S.; Webster, C. J.; Rutherford, R. J. D. Kinetic Isotope Effect for the Thermally-induced Migration of Hydrogen in Cyclopentadienes. Can. J. Chem. 1969, 47, 1555−1559. DOI: 10.1139/v69-256
  5. Dalkılıç, E.; Daştan, A. Synthesis of Cyclopentadiene Derivatives by Retro-Diels–Alder Reaction of Norbornadiene Derivatives. Tetrahedron. 2015, 71, 1966–1970. DOI: 1016/j.tet.2015.02.023
  6. Imbos, R.; Brilman, M. H. G.; Pineschi, M.; Feringa, B. L. Highly Enantioselective Catalytic Conjugate Additions to Cyclohexadienones. Org. Lett. 1999, 1, 623–626. DOI:10.1021/ol990707u

山口 研究室

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