[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

ペプチド触媒で不斉エポキシ化を実現

[スポンサーリンク]

Aspartate-Catalyzed Asymmetric Epoxidation Reactions.
Peris,G.; Jakobsche, C. E.; Miller, S. J. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 8710. DOI:10.1021/ja073055a

Yale大学のScott J. Millerらによる報告です。Miller教授はオリゴペプチド型有機分子触媒の開発研究で世界的に有名ですが、本報告はその展開の一つとして位置づけられます。

 有機分子触媒を用いた不斉エポキシ化は、Shiらによって開発された糖由来のケトンを用いるキラルジオキシラン法[1]が有名で、類似コンセプトで多くの改良法が報告されています。

 その一方で、本報告はそれとは全く異なるアプローチをとっています。すなわち、キラルカルボン酸触媒と過酸化水素から縮合剤(カルボジイミド)存在下に、キラルパーオキシド活性種を生成させるアプローチです(下図)。

キラルパーオキシドはmCPBA酸化と同様の機構にて、アルケンをエポキシドに変換します。類似の酸化法は過去に例が知られていたようですが、不斉触媒化に成功したのはどうやら本報告が初めてのようです。

 

miller_epoxy2.gif

 論文をざっと眺めてみた感じ、不斉を出すのに大変苦心しているようです。基質にカルバメート保護基が欠かせないなど、適用可能範囲はごくごく限られています。とはいえ、コンセプト面では着目に値する論文といえるでしょう。これから類似のコンセプトに基づいた改良型不斉エポキシ化が沢山発表されてくるのではないでしょうか?(ただ、何をやるにしても二番煎じはハードルが低いですし、評価も低くなってしかるべきですが。)

 

関連リンク

The Miller Group

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 親子で楽しめる化学映像集 その2
  2. 【化学情報協会】採用情報(経験者歓迎!)
  3. 光誘起電子移動に基づく直接的脱カルボキシル化反応
  4. 化学者の卵、就職活動に乗りだす
  5. 電気化学的一炭素挿入反応でピロールからピリジンを合成~電気化学的…
  6. 4種のエステルが密集したテルペノイド:ユーフォルビアロイドAの世…
  7. 有機強相関電子材料の可逆的な絶縁体-金属転移の誘起に成功
  8. 第13回ケムステVシンポジウム「創薬化学最前線」を開催します!

注目情報

ピックアップ記事

  1. 研究費総額100万円!2050年のミライをつくる若手研究者を募集します【academist】
  2. 光・電子機能性分子材料の自己組織化メカニズムと応用展開【終了】
  3. 井口 洋夫 Hiroo Inokuchi
  4. 堀場雅夫 Masao Horiba  
  5. アルツハイマー病患者の脳内から0価の鉄と銅が発見される
  6. 高峰譲吉の「アドレナリン」107年目”名誉回復”
  7. 飲む痔の薬のはなし1 ブロメラインとビタミンE
  8. 工程フローからみた「どんな会社が?」~タイヤ編 その3
  9. 日本化学界の英文誌 科学分野 ウェッブ公開の世界最速実現
  10. 求電子的インドール:極性転換を利用したインドールの新たな反応性!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2007年6月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP