[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

“匂いのゴジラ”の無効化

[スポンサーリンク]

Multicomponent Reactions of Convertible Isonitriles
Pirrung, M. C.; Ghorai, S.; Ibarra-Rivera, T. R. J. Org. Chem. 2009, ASAP DOI: 10.1021/jo900414n

 

カリフォルニア大学リバーサイド校M. C. Pirrung教授らの報告です。2006年すでに速報をJ. Am. Chem. Soc. に報告していますが[1]、そのまとめとして今回の論文を報告しました。

内容は新規なイソシアニド(イソニトリル)の合成法。オキサゾールの2位を強塩基でリチオ化させ酸塩化物で処理すると、”臭くないイソシアニド”が容易に得られ、種々のUgi反応に適用しましたという事です。


イソシアニドは主にカルベンとしての求電子性とカルボアニオンの求核剤としての高い反応性を特徴とし、多成分反応であるUgi反応やPasserini反応の重要な分子群としてて知られています。その他にも故伊藤嘉彦京大名誉京大名誉教授らに代表される研究である遷移金属触媒の配位子、ラジカル反応への適用など多くの場面で活躍しています。その特異ですばらしい反応性にも関わらず、”メジャーな化合物”になれない大きな理由として、イソシアニドのあまりにも”攻撃的な悪臭”が原因であるといわれています。

論文にも取り上げられていますが、前述したUgi反応を開発したUgi教授の記述によると、イソニトリルの合成法を開発したHoffmannらは自らが合成したイソシアニド君に対して

‘highly specific, almost overpowering’, ‘horrible’, and ‘extremely distressing'”.
(めっちゃ特有の非常に強い、酷く不快で、すさまじく悲惨な)

と、すばらしい賛辞を捧げています(苦笑)。

また、匂いの帝王と呼ばれている科学者ルカ・トゥリンからは、

“isonitriles” are just the Godzilla of smells, you can’t believe how awful they smell, they make you vomit your guts out instantly.”
(イソニトリルは匂いのゴジラであり、その酷くあり得ない匂いは食べた物をすぐに吐き出させるであろう)

と、ある意味無敵の称号をいただいてしまいました。そんなイソニトリルの分野に果敢に挑んで、”あいつは臭い”とレッテルを貼られた過去の学生諸君の顔が思い浮かび
ます。そういう意味で非常に嫌われ者のイソシアニドですが、臭い物には蓋をしてもなんの解決にもなりません。

一方で、昔からオキサゾール誘導体に強塩基(BuLi)などを作用させると、2位がリチオ化され、開環した生成物と平衡である事が知られていました[2]。

isonitrile3isonitrileodor

そこで、Pirrung教授らは単純にリチオ化された部分をアシル化すれば、簡単にイソシアニドが合成できるのではないかと考えました。それまでのイソシアニドの合成法はHoffmannによって開発されたギ酸アミドの脱水反応に基づいていました。今回のようにオキサゾール誘導体から合成することで、非常に簡便にイソシアニドを得る事ができたわけです。しかも見ての通り分子量が大きい事からその”攻撃的な匂い”にも限りが見えました。

isonitrile4

例えば、麦(malt)やゴム(rubber)、タフィー(taffy)やクレオゾート(creosote)、木材(wood)や石油っぽい匂い(petroleum)であったと記載されています。さらに4-メトキシベンゾイル基が置換した物はなんとチェリー(cherry)のにおいであったそうですなんとなくアメリカのお菓子っぽい匂いを想像するので、いい匂いかどうかはわかりませんが、確実にその記述からゴジラの姿はみられないような、匂いになったそうです。それを用いてUgi反応に応用しています。

 

isonitrileodor

 

筆者も、以前、米国でキングオブゴジラ?であるメチルイソシアニドを合成したことがあります。分子量はアセトニトリルや二酸化炭素など大差ないため、ドラフトから出そうものならば完全に事件です。芳香環が結合したイソニトリルなんてトカゲぐらいにかわいく思えるほどの激烈な悪臭を放っていました。反応は非常にきれいに進行し、苦労した甲斐がありましたが、あの夢にまででてくるような強烈な匂いはいまでも忘れる事ができません。ついでにそのときにはほぼ同時期にチオカルボン酸に加えて、プロパンジチオールまで使っていたので、完全に「サムライ」もしくは「カミカゼ」と呼ばれていました。

皆さんもいろいろな悪臭物質に苦労されたことはあるでしょう。スルフィド、チオール系はもちろん、ホスファイト、アルデヒド、脂肪酸、有機錫化合物などなど多くの臭い物は多く見られます。それぞれ人によって好みも感じ方もは違うと思いますが、最後に気になる?匂いをあげておきましょう。いろいろ問題もあるので、控えめに匂いを体験してみてください。
isonitrile5

 

関連文献

  1.  Pirrung, M. C.; Ghorai, S. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 11772. DOI: 10.1021/ja0644374
  2.  Hodges, J. C.; Patt, W. C.; Connolly, C. J. J. Org. Chem. 1991, 56, 449. DOI: 10.1021/jo00001a087

 

外部リンク

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4309252192″ locale=”JP” title=”香りの愉しみ、匂いの秘密”][amazonjs asin=”456204232X” locale=”JP” title=”「匂いの帝王」が五つ星で評価する 世界香水ガイド☆1437″]
Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. SNSコンテスト企画『集まれ、みんなのラボのDIY!』
  2. 【悲報】HGS 分子構造模型 入手不能に
  3. キノコから見いだされた新規生物活性物質「ヒトヨポディンA」
  4. ルイス塩基触媒によるボロン酸の活性化:可視光レドックス触媒系への…
  5. 樹脂コンパウンド材料におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活…
  6. 【日本精化】新卒採用情報(2024卒)
  7. 第42回メディシナルケミストリーシンポジウム
  8. PACIFICHEM2010に参加してきました!①

注目情報

ピックアップ記事

  1. 電池材料粒子内部の高精細な可視化に成功~測定とデータ科学の連携~
  2. 洗浄ブラシを30種類試してみた
  3. 水素移動を制御する精密な分子設計によるNHC触媒の高活性化
  4. ハンチュ エステルを用いる水素移動還元 Transfer Hydrogenation with Hantzsch Ester
  5. キラルアミンを一度に判別!高分子認識能を有するPd錯体
  6. TED.comで世界最高の英語プレゼンを学ぶ
  7. 第134回―「脳神経系の理解を進める分析化学」Jonathan Sweeder教授
  8. 海洋エアロゾル成分の真の光吸収効率の決定
  9. 高校生・学部生必見?!大学学術ランキング!!
  10. OIST Science Challenge 2025 に参加しました

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年5月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

水分はどこにあるのか【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

「MI×データ科学」コース 〜LLM・自動実験・計算・画像とベイズ最適化ハンズオン〜

1 開講期間2026年5月26日(火)、29日(金) 計2日間2 コースのねらい、特色近…

材料の数理モデリング – マルチスケール材料シミュレーション –

材料の数理モデリング概要材料科学分野におけるシミュレーションを「マルチスケール」で理解するた…

第59回天然物化学談話会@宮崎(7/8~10)

ごあいさつ天然物化学談話会は、全国の天然物化学および有機合成化学を研究する大学生…

トッド・ハイスター Todd K. Hyster

トッド・カート・ハイスター(Todd Kurt Hyster、1985年10月10日–)はアメリカ出…

“最難関アリル化”を劇的に加速する固定化触媒の開発

第 703回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院 理工学府 博士課程前期で…

「ニューモダリティと有機合成化学」 第5回公開講演会

従来の低分子、抗体だけでなく、核酸、ペプチド、あるいはその複合体(例えばADC(抗体薬物複合体))、…

溶融する半導体配位高分子の開発に成功!~MOFの成形加工性の向上に期待~

第702回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理学部(田中研究室)にて助教をされていた秋吉亮平 …

ミン・ユー・ガイ Ming-Yu Ngai

魏明宇(Ming-Yu Ngai、1981年X月XX日–)は米国の有機化学者である。米国パデュー大学…

第55回複素環化学討論会

複素環化学討論会は、「複素環の合成、反応、構造および物性」をテーマとして、化学・薬学・農芸化学など幅…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP