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一般的な話題

ヘリウムガスのはなし

【7/21 筆者注 方々よりご指摘頂き、導入部を訂正しました 不勉強をお詫びいたします】

Tshozoです。 先日ペリプラノン氏よりこちらのニュースがあったため、どのくらいのインパクトなのかな、世界の供給体制とかメーカとかどうなってんのかな、と思ってザッと調べてみることにしました。お付き合いください。

ヘリウム(以下He)とは

基本的な性質はこちらをみていただければわかると思いますが、元素表の一番右上、この世で水素の次に軽い、不活性ガスの親玉とも言うべき成分です。筆者がHeに実際触れたのは某研究室に参加させて頂いたときの飲み会、Heが添加されたガス風船で声を変えた状態でも*のけ姫のテーマを歌ったのが最後で結局それ以降触っておらず、用途として使用したのは最近骨粗鬆症で骨折した時にMRIを喰らった時くらいなので、希少なガスということは感じて頂けると思います。

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He原子 イメージ

ただ用途として皆様が関連する最も身近なものはMRI以外は上記のような極端な例ではなく、NMRの冷却媒体でしょう。分析化学系ではガスクロのキャリアガス(高価なのでだいたい筆者周辺ではArで代用して無理矢理データ出してますが)、MALDIや一部の表面分析装置でのビーム用粒子として使われたりします。あと有機合成で使うような不活性ガスはAr、またはN2がほとんどで、大量に直接消費されるような用途は化学分野では少ない気がします。ごく一部ではHe化合物を合成しようという興味深い試みもなされているようですが、こりゃさすがに特殊すぎる研究例かと。

そのほか、応用物理(超極低温とかの現象解析)で用いられるのに加え、プラズマ関係の発光インジケータとして微量に混ぜる(発光パターンからプラズマの状態が推定出来る場合がある)例があるほか、筆者の好きなMOCVD関係ですと表面への吸着現象が生じにくいことを利用してキャリアガスに用いられるケースや、使用量は少ないですがレーザの光源ガスとしても幅広く使用されています。

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2013年時点でのHeの世界総生産量と用途比率 文献①データを微修正して引用(こちら
収集~精製プロセスは文献② こちらのリンク(The Chemical Engineer, 米国版化学日報工業)資料に詳しい

その他上記の”The Chemical Engineer”の資料が示すように、最も安全かつ透過しやすいことから精密リーク検知用ガスに、また軽くて熱伝導性がよく、吸着性が極めて低いことから精密部品・半導体の冷却ガスに、また軽くて安全なことからバルーン上昇ガスに、その他様々な使われ方をしています。一部の用途はArでもよさそうな気もするのですが原子量が大きいと色々と問題が有り、結局Heを使わざるを得ないケースもあるということを初めて知ったのですが、ここらへんは調べてみるものだなという気がします。

どこで採れるのか

残念ながらHe”だけ”が産出するような奇跡の場所は無くたいがい、天然ガスに交じって採れますです。基本的には地殻内に含まれるヘリウムが地中にモリモリ拡散されていく結果、透過しにくい高密度の地殻変動が少ない部分の岩盤(シール層)に「たまたま」貯留されるような構造が必要と考えられています。

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貯留の形態イメージ

ということはHeが含まれる天然ガス田というのは必然的に地層の活動が活発でない大陸の内陸部に存在する可能性が高いわけで。結局アメリカ、ロシア、カナダ、カタール、アルジェリア、ポーランドを中心とした国々が下記のようなシェアで牛耳ってきたのです(アルジェリア・カタールは内陸じゃないですがいずれも天然ガス産出量が多いため生産可能なのだと推定してます)。今回の発見はアフリカ大陸の内陸部にある大地溝帯近くから見つかったことを考えると妥当な候補地だったのかもしれません。

hegas_01

アメリカ無双の生産量変遷(縦軸はキロトンであるのに注意) 文献③より引用
あくまで生産量で、販売地域とは異なるのに注意
ちなみに賦存量もだいたいこのシェアの通り(2015年末時点)

蛇足ですが天然ガスには土地によって含まれる元素が違うのがよくあるケースで、硫黄が少ないもの、なぜかヨウ素が大量に含まれるものと様々です。一度ご当地元素名産マップとか作ってみても面白いかも。千葉の某ガス田ではヨウ素が多量に含まれた潅水が出てくることで有名で、伊勢化学工業殿が主に精製・市販化しています( 詳細はこちらに詳しい)。

供給状況、供給メーカと今回の発見の位置付け

Heの供給・コスト状況をちょっと前から調べてみると、最大の供給国のアメリカが貯留していたバッファ分を取り崩していたという現実がありました。これは本ケムステでも以前採り上げられていたトピックであり、なかなか深刻な問題だったようで。その深刻さは値段に現れ、こういう感じでHeの市場卸売価格がガンガン上がっていたわけです。

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市場に任した価格だとだいたい4倍近い価格になってる
(BLMからの高純度He供給ルートもあり、そちらもオークションに比しかなり低めに抑えられている)

Heと言えども商品ですから、概ねは需要と供給のバランスで価格が成り立つのでそこに良心とかの介在する余地はありません。特に新興国での需要は2014年時点で0.6億立米/年と全体の1/3を超える勢い。需要が上がる一方なのに供給は(国家戦略上も)絞ったまま、というかあまり急に生産量が上げられるようなもんではないので値段は上がるしかありません。しょうがないね。

その胴元であるアメリカでの実際の供給はBLM(アメリカ土地管理局)が牛耳って管理しているガス田のほか、エクソンモービルの持つ田んぼからも取れるもよう。これらが結局元売りで、これを買い取って精製・サプライチェーンを通じ我々使用者に供給する供給者が皆様がよくご存知の下記メーカになるのですが、Air Liquide社、Air Products社は日本でも有名ですね。

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He主要サプライヤー 海外4社+日本2社(2006年からMatheson社は大陽日酸傘下)
日本の主な供給者である岩谷産業殿、大陽日酸殿はカタール等の元売りからも購入している
ロゴは各社のHPより引用

なお一般的にHeはガス中に平均数vol%、高くても5vol%程度にしか含まれないため、あたりまえですが冷却しまくって抽出した後PSA(圧力スイング吸着法)などでガンガンに濃縮していかないと使用に足りません。その技術レベルや製造コストが各社の命運を分けるわけで、低温技術に優れた素養が会社に無ければならないのは自明でしょう。

で、そうした中で今回のはなし。色々と文書を見てみると、元売りとなる採掘会社はRenergenという、南アフリカを本拠地とする資源採掘会社。そして探索はノルウェーのHelium-Oneと英国Oxford大学、Durham大学のチーム。さらにHe精製プラントのEPCに加えて運営・供給まで行うのはAfroxという会社、これは我らがLinde社のアフリカ支社とも言うべき会社で、今回の発表は低温技術に強みを持つLinde社がHe市場に本格進出するという重要な意味合いを持つことになります(2018年から生産開始予定・文献④)。

Clausius_05

化学エンジニアリング会社Linde創業者 Carl von Linde
クラウジウスの回より再掲

アフリカ大陸であるがゆえにインフラの問題や技術者レベルなどが非常に気になるところではありますが、そこはこの強力チームが上手くやっていくことでしょう。何せ、今回見つかった田んぼはHe濃度がこれまでの最高値の2倍以上の10vol%を超える勢い。多少工程コストが上がっても取れ高が平均の少なくとも3倍以上になるわけですからこりゃえらいことです。更に推定埋蔵量が今回見つかった場所だけで15億立米と、10年程度はこの田んぼだけで済むレベルの量。こりゃえらいことですね。

Lindeはもともとはプラント施工系が主流だったはずですが、最近ではLinde Gasとして水素を中心に産業ガスを「商品として」扱うようになっており、今回の殴り込み参入は更にHeの需要が増大することを見越しての判断なのでしょう。

最後に

ということでヘリウムの資源状況などをザッと見てきましたが、結局これまでの指摘のとおり、今回のHeガス田の発見は下記の点で興味深い田んぼであることがわかります。

1.アメリカが牛耳っていた独占していた主要プレイヤーであったHe市場に、新たな供給者が誕生したことで
需給バランスが改善される可能性がある
2.これまであまり手が付けられていなかったアフリカに、高品質のHeガス田が他にも見つかるかもしれない
3.今回の探索技術が他のガス田に応用される見込みもある

ただ原油・天然ガス含む資源業界では当然ながら、見込み埋蔵量がすっげぇ多いと吹聴されながら結局可採掘量が見込みのン十分の1になったとか、不純物が多すぎて分離コストがかかってコスト競争力が無くなって倒れたとか、「蓋を開けてみないとわからない」不確定要素が必ず存在します。今回のもこちらのページに書いてあるように火山が近いので火山性ガスが混じってしまう恐れがある等の懸念があるようですので上記の1~3が順当に実現するかはバクチの要素を含むと言ってよいでしょう。

あと、He供給能が上がったからと言ってムダヅカイしていいわけがありません。使用量を減らすような構成の実現は当然ですが、加えてそもそもHeを不要とするような超伝導磁石システムや、Heのボイルオフを徹底的に削減できるアドオン装置などが既に上市されていますね(下図)。

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世界初のN2・He追加不要NMR装置(JEOL RESONANCE社・左図) 機器の開発詳細リンクはこちら
 及びアドオン可能なHeボイルオフ削減装置(日本カンタムデザイン社・右図) 同じくリンクこちら

このように資源供給能を持たない国はそうした技術を切り拓き積み重ねるという意味では「ナンボでもやることがある」と言えると思います。色々閉塞感が漂う中、今回のガス田の発見に左右されることなくこうした商品を開発される技術者の方々の活躍を心から祈り、今回の結びといたします。

【参考文献】

①”2013 Minerals Yearbook, Helium” アメリカ地質調査所(USGS)資料 リンクこちら

②The Chemical Engineer, “Endangered helium: bursting the myth ”  リンクこちら

③”Helium Production and Possible Projection”, Steve Mohr, and James Ward, Minerals 2014, 4, 130-144;  論文リンクこちら

④Press Release, 2016, 04, May. Linde Gas Corporation リンクこちら

 

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Tshozo

Tshozo

メーカ開発経験者(電気)。54歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

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