
(図は下記論文より引用)
クリックケミストリーは、K. B. Shaeplessが提唱した、簡便に2つのパーツ同士をつなぎあわせる反応です[1]。特に、アルキンとアジドからトリアゾールが生じるHuisgen反応は、クリックケミストリーの代表的な反応とされています。高効率・精製が容易・副生成物が生じない、などの理由から有機合成から生物化学まで幅広い分野で利用されているのは、ご存じの通りです。
今回は、Huisgen反応を用いた重合の結果生じるトリアゾールを足場としてさらなるカップリング反応を行うことにより、高分子主鎖中に様々な官能基を導入している論文をご紹介します。
Schwartz, E.; Breitenkamp, K.; Fokin, V. V.* Macromolecules, 2011, 44, 4735–4741.
DOI: 10.1021/ma2005469
高分子化学の分野においても、クリックケミストリーは活用されています。高分子中に数十・数百か所存在する反応点で効率よく反応を進行させたり、逆に数百・数千・場合によっては数万原子からなる高分子中で1つしかない反応点で反応を進行させたりできるために、非常に有用なカップリング反応として利用されています。
今回の報告では、Fokinらはまず、アルキンにヨウ素を導入したモノマー(下図)を合成し、一価の銅を触媒として用いる一般的なHuisgen反応の条件で重合反応を行っています。逐次重合ですが、1時間で数平均分子量1万以上のポリマーが得られています(しかし、ヨウ素を有するモノマーは、水素を有するモノマーよりも反応性が低いようです)。得られたポリマーは、主鎖中に多数のヨードトリアゾール(5-iodo-1,2,3-triazole)、つまりアリールハライドを有するため、鈴木カップリングおよびHeck反応を行うことが可能となります。

そこで、パラジウム触媒とフェニルボロン酸を用いた鈴木カップリングによりフェニル基の導入を行ったところ、約94%もの反応の進行が確認されました(6%は副反応により、ヨウ素が水素に置換された)。続いて、アクリロニトリルまたはメチルエチルケトンとパラジウム触媒を用いたHeck反応により、シアノ基・アセチル基の定量的な導入がそれぞれ行われています。ただし、スチレンを用いたHeck反応では、ポリマーの溶解性が低いためか、60%程度しか反応が進行しませんでした。
先述のように、高分子上で反応を定量的に進行させるためには工夫を要することが多々あります。そのため、今回の手法ではSuzukiカップリングやHeck反応といった一般的手法で定量的な反応を行える点が魅力的です。また、ポリトリアゾールの溶解性の悪さから、定量的に反応を進行させるためには用いる試薬を選ぶ必要があったようですが、高分子合成でHuisgen反応が用いられている場面としては重合よりもブロックコポリマー合成や官能基の導入など、主鎖/側鎖の修飾のために用いられることが多いため、溶解性を気にせずこのようなpost-functionalization法が活用できるのではないかと思います。問題点としては、ヨウ素化アセチレンを合成しなくてはならないことと、クリック反応がどれだけの適用性を持っているか、といったところが挙げられるでしょうか。
これまで、シクロオクチン-アジド[2]、チオール-エン[3]などの効率的なクリック反応だけでなく、post-functionalizationを指向したニトリルオキシドを用いたクリック反応[4]も開発されてきました。最近では、この論文を報告したFokinらによるトリアゾールを利用したC-H結合への挿入反応[5]も報告されており、"click"の先にはまだまだ大きな可能性が秘められているようです。