[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

光で2-AGの量を制御する

[スポンサーリンク]

ケージド化合物を用いた2-AG量の操作法が初めて開発された。2-AG量を時空間的に操作することができる点から、細胞生物学での応用が期待できる。

 2-アラキドノイルグリセロール

内因性カンナビノイドである2-アラキドノイルグリセロール(2-AG, 1)は、Gタンパク質共役カンナビノイド受容体の一種であるCB1とCB2のリガンドである(図1A)。
下流のシグナル伝達系は我々の気分、食欲、痛覚またはインスリン分泌などを調節している。細胞内における2-AG量の調節には様々な試みがなされてきた。
2009年Liu教授らはリパーゼ阻害剤を用いて2-AG量の調節を試みたが、他のグリセロール量にも影響する手法であった(1)
一方、光で除去可能な保護基(PRPG)をもつケージド化合物は、生理活性分子の存在量を直接制御する目的でこれまで広く利用されてきた。ケージド化合物はUVを照射するだけで生理活性分子を放出できるため、目的の生理活性分子の作用するタイミングを制御することができる。これまでに著者らは、クマリン誘導体を連結したアラキドン酸(2)およびスフィンゴシン(3)がケージド化合物として利用できること明らかにした(図1B)(2)。しかし、ジオールをクマリン誘導体で保護する場合環状アセタールの環員数が光脱保護(アンケージング)に影響する。Lawrenceらの報告によれば、五員環アセタール(4, 5)のアンケージングは可能だが、六員環アセタール(6, 7)は光耐性を示す(図1C)(3)。そのため、クマリンを連結した1,3-ジオールをケージド化合物として利用した報告例はなかった。
今回、Schultzらは、「ケージド」2-アラキドノイルグリセロール(cg2-AG, 8)を合成し、光照射によって細胞内の2-AG量を制御する手法を開発した(図1D)。六員環アセタール上のエステルがアンケージング成功の鍵であった。また、PRPGとして蛍光分子であるクマリンを用いることで、蛍光を観察するだけで2-AGの放出を追跡することができる。

図1. A.2-AGの構造 B. 著者らが報告したケージド化合物の例C. ジオール類のケージド化合物D. cg2-AGのアンケージング

 

“Photorelease of 2Arachidonoylglycerol in Live Cells”
Laguerre, A.;Hauke, S.; Qiu, J.; Kelly, M.J.; Schultz, C.J. Am. Chem. Soc.2019,141,16544-16547.
DOI: 10.1021/jacs.9b05978

論文著者の紹介


研究者:Carsten Schultz
研究者の経歴:
1986-1989 Ph.D., Chemistry, Bremen University, Germany (Prof. Bernd Jastorff)
1990-1993 Postdoc, Pharmacology, University of California San Diego, USA (Prof. Roger Y. Tsien)
1993-1996 Habilitation Fellow, Bremen University, Germany (Prof. Bernd Jastorff)
1996-2000 Researcher, Bremen University, Germany (Prof. Bernd Jastorff)
2000-2001 Group leader, Max-Planck-Institute for Molecular Physiology in Dortmund, Germany 2001- Group Leader, European Molecular Biology Laboratory, Germany
2016- Professor, Oregon Health and Science University, USA
研究内容:シグナル伝達の理解に向けたツール開発

論文の概要

著者らはまずcg2-AGの合成を行った。出発物質である7-ジエチルアミノ-4-メチルクマリン(10)をDMAと反応させた後、NaIO4により酸化し12を得た。その後、12にグリセリンを作用させてアルコール13を合成した。最後にアラキドン酸との縮合によりcg2-AGを得た(図2A)。
次にアンケージングの条件検討を行い、8のアンケージングには水および375 nmの光照射が必要であることを確認した。また、9は殆ど蛍光を発しない。これらのことから、407 nmの光照射で蛍光の減少を観測することで2-AGの放出の追跡ができることを示した(図2B)。
続いて、CB1およびCB2を発現するマウスb細胞株MIN6を用いた実験を行った。cg2-AGで処理したMIN6に375 nmの光を当てると蛍光発光強度が著しく減少した。一方、アルコール13で処理したMIN6では変化がなかったため、cg2-AGのエステル部位がアンケージングの鍵となることがわかった。(図2C)。
内因性カンナビノイドはCB1を活性化し細胞内Ca2+濃度を上昇させる。そこで、著者らは光照射前後におけるCa2+濃度変化を調べた(図2D)。cg2-AGで処理したMIN6細胞のCa2+濃度は光を照射したのみ上昇した。CB1アンタゴニストであるリモナバンド存在下培養した細胞では、Ca2+濃度が確認できなかったことから、アンケージングされたcg2-AGはCB1を特異的に活性化することが示された。また、cg-2AGで処理したMIN6細胞の膜電位の変化から、2-AGがCB1の活性化を通じてGタンパク質活性化カリウムチャネル(GIRK)の開閉に関与することも示した(図2E)。

図2. A. cg2-AGの合成 B. cg2-AGとアルコール13のUV/visスペクトル C. cg2-AGまたはアルコール13で処理したMIN6の共焦点顕微鏡写真 D. cg2-AGのCa2+に対する影響E. カリウム移動により誘起された電流(一部論文より引用)

 

以上、光で除去可能な保護基をもつ「ケージド」2-アラキドノイルグリセロールによる2-AG量の調節法が開発された。2-AG量を時空間的に操作することができる点から、細胞生物学での応用が期待できる。

参考文献

  1. Pan, B.; Wang, W.; Long, J. Z.; Sun, D.; Hillard, C. J.; Cravatt, B. F.; Liu, Q.-S. Blockade of 2-Arachidonoylglycerol Hydrolysis by Selective Monoacylglycerol Lipase Inhibitor 4-Nitrophenyl 4-(Dibenzo- [d][1,3]dioxol-5-yl(hydroxy)methyl)piperidine-1-carboxylate (JZL184) Enhances Retrograde Endocannabinoid Signaling. J. Pharmacol. Exp. Ther. 2009,331,591-597. DOI: 10.1124/jpet.109.158162
  2. (a) Nadler, A.; Yushchenko, D. A.; Müller, R.; Stein, F.; Feng, S.; Mulle, C.; Carta, M.; Schultz, C. Exclusive Photorelease of Signalling Lipids at the Plasma Membrane. Nat. Commun. 2015,6,10056. DOI: 10.1038/ncomms10056 (b) Höglinger, D.; Haberkant, P.; Aguilera-Romero, A.; Riezman, H.; Porter, F. D.; Platt, F. M.; Galione, A.; Schultz, C. Intracellular Sphingosine Releases Calcium from Lysosomes.eLife 2015, 4,No. e10616. DOI: 10.7554/eLife.10616
  3. Lin, W.; Lawrence, D. S. A Strategy for the Construction of Caged Diols Using a Photolabile Protecting Group. J. Org. Chem.2002,67,2723-2726. DOI: 10.1021/jo0163851

 

Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 世界最高の耐久性を示すプロパン脱水素触媒
  2. 【ケムステSlackに訊いて見た④】化学系学生の意外な就職先?
  3. 令和4年度(2022年度)リンダウ・ノーベル賞受賞者会議派遣事業…
  4. 自己修復性高分子研究を異種架橋高分子の革新的接着に展開
  5. 科学カレンダー:学会情報に関するお役立ちサイト
  6. Grignard反応剤が一人二役!? 〜有機硫黄化合物を用いる<…
  7. アジサイの青色色素錯体をガク片の中に直接検出!
  8. (–)-Batrachotoxinin Aの短工程全合成

注目情報

ピックアップ記事

  1. Z選択的ホルナー-エモンズ試薬:Z-selective Horner-Emmons Reagents
  2. 第10回 ナノ構造/超分子を操る Jonathan Steed教授
  3. 粉いらずの指紋検出技術、米研究所が開発
  4. 三菱化学の4‐6月期営業利益は前年比+16.1%
  5. がん治療にカレー成分-東北大サイエンスカフェ
  6. ダイセルよりサステナブルな素材に関する開発成果と包括的連携が発表される
  7. 近況報告PartII
  8. Carl Boschの人生 その13
  9. ロジャーアダムス賞・受賞者一覧
  10. 高機能性金属錯体が拓く触媒科学:革新的分子変換反応の創出をめざして

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年12月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

第33回光学活性化合物シンポジウム

第33回光学活性化合物シンポジウムのご案内光学活性化合物の合成および機能創出に関する研究で顕著な…

Carl Boschの人生 その13

Tshozoです。 少し唐突ですが最初に大事なお知らせを。世界トップの化学会社BASFがCarl…

ラングミュアの吸着等温式 Langmuir equation

ラングミュアの吸着等温式 (Langmuir equation) は、等価な吸着サイトが独立に振舞い…

【化学・食品業界向け】 蒸留による分離・濃縮をシンプルで省エネに ~無機分離膜が起こすイノベーション~

■概要ものづくりにおいて重要な分離操作。有機溶剤の混合物の分離リサイクル。水の分離(脱水…

濃硫酸の1000倍強い超酸の中でも蛍光を保ち続ける”超酸耐性BODIPY”

第705回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院総合化学院(反応有機化学研究室)博士後期課程2…

安田修祥・裕美子 若手化学者留学支援事業

大学院生時代の経験として、海外留学は本当に素晴らしいものです。かくいう私も、1か…

有機合成化学協会誌2026年5月号:特集号 有機合成化学の力で切り拓く次世代モダリティの地平

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2026年5月号がオンラインで公開されています。…

チームディレクター募集(理化学研究所研究室主宰者、無期雇用職)

募集研究室理化学研究所 環境資源科学研究センター募集の概要国立研究開発法人理化学研究所で…

<製品サンプル進呈>細胞増殖/毒性測定 はじめてを応援キャンペーン【同仁化学研究所】

Cell Counting Kit-8(CCK-8)は同仁化学研究所で開発され、世界中で細胞増殖や細…

ポンコツ博士の国内奮闘録 ~博士、教員として過ごしてはや2年~

本稿は,少子化の影響が著しい地方私立大で学位を取得したとあるしがない博士(薬学)が、厳しい世の中を生…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP