[スポンサーリンク]

odos 有機反応データベース

相間移動触媒 Phase-Transfer Catalyst (PTC)

[スポンサーリンク]

 

概要

SN2置換反応などにおいては、通常強塩基にて脱プロトン化を行い、アニオンを生成させたところに求電子剤との反応が行われる。いかし収率向上や溶解性などの問題から、DMFやDMSOなどの非プロトン性極性溶媒の使用が多く求められる。これらは高沸点ゆえに除去が難しく、また比較的高価なため大量合成時には不向きとなる。

水-非極性有機溶媒の2相系でイオン性の反応を行う目的で、相間移動触媒(Phase-Transfer Catalyst, PTC)が用いられる。これは2つの相を行き来できる両親媒性触媒のことであり、多くは長鎖アルキル鎖をもつ四級アンモニウム塩やクラウンエーテルがPTCとして働く。

安価で後処理容易な無機塩基の使用、有機溶媒の使用量低減、回収性の悪いDMFやDMSOなどの使用回避、実験操作の易化、反応性の向上、副反応の抑制などが期待でき、とくに大量スケール合成時に多くの利点をもたらす。グリーンケミストリーの観点からも注目されている触媒系である。

基本文献

  • Makosza, M.; Serafinowa, B. Rocz. Chem. 1965, 39, 1223.
  • Starks, C. M. J. Am. Chem. Soc. 1971, 93, 195. DOI: 10.1021/ja00730a033
  • Dolling, U.-H.; Davis P; Grabowski, E. J. J. Am. Chem. Soc. 1984, 106, 446. DOI: 10.1021/ja00314a045
  • Makosza, M. Pure Appl. Chem. 2000, 72, 1399. doi:10.1351/pac200072071399
  • O’Donnell, M. J. Acc. Chem. Res. 2004, 37, 506. DOI: 10.1021/ar0300625
  • Hashimoto, T.; Maruoka, K. Chem. Rev. 2007, 107, 5656. doi:10.1021/cr068368n
  • Ooi, T.; Maruoka, K. Aldrichimica Acta 2007, 40, 77. [PDF]

 

反応機構

無機塩基及び四級アンモニウム塩を相間移動触媒として用いる系では、大別して2通りの説が提唱されており、現在でも論争の的になっている。

 

ひとつはStarksらによって提唱されたExtraction MechanismJ. Am. Chem. Soc. 1971, 93, 195.)である。この説はPTC(Q+Xと表記)が有機相と水相を自由に行き来できるという仮説に依拠している。無機塩基(MOH)が水相でイオン交換を起こし、Q+OHの形になったものが有機相に抽出され、この分極度=塩基性の高い化学種が、有機物の脱プロトン化を行うという駆動原理を想定している。生成したアニオン種Q+Rは分極したイオン対となっており、求核置換反応などにより活性の高い化学種となっている。このような理屈にて反応性の向上が説明される。

PTC_3.gif他方はMakoszaらによって提唱されたInterfacial MechanismRocz. Chem. 1965, 39, 1223.)である。これは脱プロトン化によるアニオン種の生成が、有機相と水相の界面にて起きるという仮説に基づいている。この過程にはPTCは関与せず、抽出過程にだけ関与するというものである。とりわけ不斉相間移動触媒の場合はこの仮説に則っているのではと考えられている。脂溶性の高い置換基を豊富にもつものが多いため、水相へと自由移動できることが考えにくいからである。

PTC_4.gif

反応例

典型的な加速効果の例

PTC_2.gif

丸岡触媒を用いるGlycine Schiff Baseの不斉アルキル化[1]

PTC_1.gif

実験手順

 

実験のコツ・テクニック

 

参考文献

[1] Kitamura, M.; Shirakawa, S.; Maruoka, K. Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 1549. doi:10.1002/anie.200462257

 

関連書籍

[amazonjs asin=”0841234914″ locale=”JP” title=”Phase-Transfer Catalysis: Mechanisms and Syntheses (Acs Symposium Series)”][amazonjs asin=”9401042977″ locale=”JP” title=”Phase-Transfer Catalysis: Fundamentals, Applications, and Industrial Perspectives”][amazonjs asin=”012389171X” locale=”JP” title=”Quaternary Ammonium Salts: Their Use in Phase-Transfer Catalysis (Best Synthetic Methods)”][amazonjs asin=”6130914598″ locale=”JP” title=”Phase-Transfer Catalyst”]

 

外部リンク

 

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. サレット・コリンズ酸化 Sarett-Collins Oxida…
  2. コープ転位 Cope Rearrangement
  3. チロシン選択的タンパク質修飾反応 Tyr-Selective P…
  4. バルツ・シーマン反応 Balz-Schiemann Reacti…
  5. ベシャンプ還元 Bechamp Reduction
  6. パール・クノール チオフェン合成 Paal-Knorr Thio…
  7. ビニルシクロプロパン転位 Vinylcyclopropane R…
  8. ハネシアン・ヒュラー反応 Hanessian-Hullar Re…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 始めよう!3Dプリンターを使った実験器具DIY:3D CADを使った設計編その2
  2. Handbook of Reagents for Organic Synthesis: Reagents for Heteroarene Functionalization
  3. MOF の実用化のはなし【京大発のスタートアップ Atomis を訪問して】
  4. 博士課程の夢:また私はなぜ心配するのを止めて進学を選んだか
  5. カルロス・バーバス Carlos F. Barbas III
  6. クロタミトンのはなし 古くて新しいその機構
  7. エルマンイミン Ellman’s Imine
  8. おまえら英語よりもタイピングやろうぜ ~初級編~
  9. カルベンがアシストする芳香環の開環反応
  10. アイディア創出のインセンティブ~KAKENデータベースの利用法

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年7月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP