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化学者のつぶやき

分子の聖杯カリックスアレーンが生命へとつながる

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分子の聖杯のふたつ名にふさわしい化学構造を持ったカリックスアレーン。新たに開発されたカリックスアレーンは、タンパク質を構成する20種類のアミノ酸のうち、表面にあるリジンだけを認識できるとのこと。

生命現象の舞台裏で活躍するタンパク質の立体構造をエックス線で解き明かすには、今まで結晶化の条件検討が最も困難な過程のひとつでした。今回のカリックスアレーンには、タンパク質分子の極性を相殺して、結晶化をうながす可能性も指摘されており、高い注目が集まりました。

立体構造情報はPDB(Protein Data Bank)より

人間の手で初めてカリックスアレーンが合成されたのは1978年のこと。条件を上手く選べばフェノールとホルムアルデヒドから合成できると判明したのでした。

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命名の由来となったカリックス(calix)とは、ラテン語で聖杯のことであり、英語ではカリス(chalice)にあたります。アレーンはもちろん芳香族炭化水素のことです。

合成が可能になって以来、カリックスアレーンと言えば、超分子化学の分野では、クラウンエーテルやシクロデキストリンと並ぶホスト分子の花形として、注目を集めてきました。変形しにくいベンゼン環がちょうつがいとなるメチレン単位で結ばれており、適度なかたさを保ちながらもいろいろな大きさのゲスト分子に対応できる柔軟さが、カリックスアレーンの特色です。

実際、メチレンで結ばれたベンゼン環8つのユニットを含むカリックス[8]アレーンの誘導体は、フラーレン(C60)だけをゲスト分子として捕まえることができます(1)。また、6つのユニットを含むカリックス[6]アレーンの誘導体は、平面正六角形方向に結合がのびるウラニルイオン(UO22+)だけをゲスト分子として捕まえることができます(2)。他にも、カリックスアレーンの分子認識能力の高さを示す具体例は枚挙にいとまがありません。

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カリックス[4]アレーンの一般式



カリックスアレーンを基盤としてホスト分子とゲスト分子の間で成り立つ超分子化学は、このように今まで盛んに研究されてきました。しかし、カリックスアレーンとタンパク質の相互作用については大きな関心があるにも関わらず、利用可能な情報は限られていました。

 

  • タンパク質の表面にあるリジン側鎖だけを認識

タンパク質の表面を認識する小分子は、タンパク質の相互作用特性を調整する道具として重要です。しかし、カリックスアレーンのような小分子でタンパク質の特定の構造を正確に認識することは、ほとんど成功例がありませんでした。

新たに発見(3)されたところによると、スルホン酸カリックス[4]アレーンは、タンパク質表面のリジン残基を認識します。エックス線結晶構造解析により立体構造情報が示され、核磁気共鳴により溶液状態でも相互作用が確認されました。

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研究チーム(3)は、今後このようなカリックスアレーンがタンパク質間相互作用を仲介し、結晶化を促進する用途に使える可能性を指摘しています。タンパク質の立体構造を解き明かしたい場合、最も悩ましい実験操作は結晶化の条件検討です。分子の聖杯、カリックスアレーンが、生命現象を統べるタンパク質を調べる道具として、活躍する日もいつかはあるのかもしれません。

カリックスアレーンでタンパク質とコネクト、結晶ごしにのぞいたら世界はきっと変わって見えるでしょう。

 

  • 参考論文

(1) “Molecular design of calixarene-based uranophiles which exhibit remarkably high stability and selectivity.” Seiji Shinkai et al. J. Am. Chem. Soc. 1987 DOI: 10.1021/ja00255a023

(2) “Purification of C60 and C70 by selective complexation with calixarenes.” Jerry L Atwood et al. Nature 1994 DOI: 10.1038/368229a0

(3) “Protein camou?age in cytochrome c–calixarene complexes” Roise E. McGovern et al. Nature Chemistry 2012 DOI: 10.1038/nchem.1342

 

  • 関連書籍

 

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静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

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