[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

テトラセノマイシン類の全合成

[スポンサーリンク]

第118回のスポットライトリサーチは、東京工業大学 理学院 化学系 博士後期課程3年の佐藤 翔吾さんにお願いしました。

佐藤さんの所属する鈴木・大森研究室は、複雑天然物の全合成、とりわけ生合成的に出自の異なるハイブリッド型天然物に注目した取り組みを長年にわたって続けられています。今回、佐藤さんはテトラセノマイシンC、Xという未踏化合物2つの全合成ルートを開拓し、その成果をACIE誌に報告しました。随所に巧みな工夫が見られる、見所満載の仕事となっています。

“First Total Syntheses of Tetracenomycins C and X”
Sato, S.; Sakata, K.; Hashimoto, Y.; Takikawa, H.; Suzuki, K. Angew. Chem. Int. Ed. 2017, DOI: 10.1002/anie.201707099

今回は現場で直接指導された鈴木啓介先生瀧川紘先生のお二方より、佐藤さんについてコメントを頂いております。

佐藤君は、2013年に修士課程の学生として研究室に加入してからのおよそ4年間、一緒に研究を進めてきました。橋本善光博士とともに、当初から黙々とこの研究テーマに取り組み、めきめきと頭角を現しました。最後は後輩の阪田慶一郎君とともに細かいところまで丁寧に検討を重ね、全合成を成し遂げました。

普段はもの静かな彼ですが、その分、目の前の化合物と対話しているのか(?)、じっくり考えてから捻り出すアイデアには隙がありません。今回の論文では、多置換フランの合成に始まり、鍵反応の最適化や巧妙な保護基のデザインなど、彼の独特な感性とセンスとが随所に表れた合成に仕上がりました。人にも化学にも誠実な彼の今後の活躍を信じてやみません。(瀧川)

沈思黙考、頼りになる人物です。数々の壁を、思いもよらぬ形で打開してくれました。(鈴木)

それでは今回もご覧ください!

Q1. 今回スポットライトリサーチの対象となった研究を簡単にご説明ください。

「テトラセノマイシンC、Xの初の全合成」を達成しました。

テトラセノマイシンC、Xは、放線菌から単離された芳香族ポリケチドであり、L1210白血病細胞に対する強力な増殖阻害活性を有します。構造的特徴として、(1)高度に酸化された直線型の4環性骨格、および(2)核間位のcis-ジオール、があります。古くから合成的にも生物学的にも注目されてきた化合物ですが、その複雑な構造ゆえ、全合成はこれまで未報告でした。今回私達は、”イソオキサゾールを基盤とした骨格構築法”など、独自の合成戦略を用いて全合成に挑みました。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

工夫したところは、鍵中間体であるナフトニトリルオキシドの合成です。このものは、ナフタレン環上に異なる6つの官能基を有する複雑な化合物であることから、合成には数多くの試行錯誤がありました。最終的には、独自に開発した2つの反応、すなわち(1)1,4-ベンズジイン等価体による連続的な環化付加反応、および(2)シクロブテノンオキシムの酸化的な開環反応によって、この鍵中間体の迅速な合成に成功しました。

このナフトニトリルオキシド合成の達成をきっかけに、全合成研究が一気に進展したことからも、思い入れの強いところです。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

ずばり、保護基の選択です。詳細は省きますが、全合成を達成する上で、基質のC4位には”環状”かつ”酸化条件で除去可能”なアセタール系保護基が必須でした。そのような保護基を見つけるべく、「グリーンの保護基」を隅から隅まで読んだりもしたのですが、結局、理想的なものはありませんでした。そこで、今回の全合成では、2,3-dimethylnaphthalene-α,α’-diyl (DMN)アセタールという保護基を新たに設計し、合成終盤でDDQ酸化による脱保護を行いました。さらに、核間位の水酸基には”重ベンジル基”というものを導入しました。これは、通常のベンジル基に対して、重水素による速度論的同位体効果を与えた、いわば”強化版ベンジル基”です。実際、この保護基は、上述のDDQによる強い酸化条件にも耐え、収率の大幅な向上に寄与してくれました。振り返ってみれば、昼も夜も保護基のことばかり考えていたのですが、それを問題解決につなげることができました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

これまでの研究を通して、とりわけ、きれいな合成経路や合成手法に対してこだわりを持つようになりました。「美しい!」と、人に感じてもらえる合成を考案できる存在になりたいと思っています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

本研究では、これまでの鈴木研で培われてきた合成手法が数多く登場しています(スペースの都合上、省略しております)。機会があれば、この論文を通して、過去から積み重ねてきた研究についても知っていただけると幸いです。

最後になりますが、鈴木啓介教授、瀧川 紘博士(現・京都大学講師)、橋本善光博士(現・昭和薬科大学助教)、阪田 慶一郎君(現・旭化成株式会社)をはじめとする、研究室の皆様に厚く御礼申し上げます。

研究者の略歴

佐藤翔吾(さとう しょうご)

所属:東京工業大学 理学院 化学系 博士課程3年(鈴木・大森研究室)

研究テーマ:天然物の全合成研究

略歴:
1990年 神奈川県横浜市生まれ
2013年3月 青山学院大学 理工学部 化学・生命科学科 卒業(杉村秀幸教授)
2015年3月 東京工業大学 理工学研究科 化学専攻 修士課程 修了
2015年4月〜現在 東京工業大学 理学院 化学系 博士課程

受賞:
有機合成シンポジウム ポスター発表優秀賞
有機合成セミナー 優秀ポスター賞
日本化学会 第96春季年会 学生講演賞

関連リンク

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. #おうち時間を充実させるオンライン講義紹介 ーナノテクー
  2. シクロカサオドリン:鳥取の新しい名物が有機合成された?
  3. 第3回慶應有機合成化学若手シンポジウム
  4. DNAを切らずにゲノム編集-一塩基変換法の開発
  5. 【速報】2017年のノーベル生理学・医学賞は「概日リズムを制御す…
  6. 化学反応を自動サンプリング! EasySampler 1210
  7. ホウ素は求電子剤?求核剤?
  8. ヒドリド転位型C(sp3)-H結合官能基化を駆使する炭素中員環合…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III):Tris(2,4-pentanedionato)iron(III)
  2. 基礎講座 有機化学
  3. 天然のナノチューブ「微小管」の中にタンパク質を入れると何が起こる?
  4. ホウ素と窒素固定のおはなし
  5. ケムステイブニングミキサー2015を終えて
  6. ベンゼン環が壊れた?!ー小分子を活性化するー
  7. パラジウム錯体の酸化還元反応を利用した分子モーター
  8. ダニエル レオノリ Daniele Leonori
  9. 進化する電子顕微鏡(TEM)
  10. 海外の教授にメールを送る-使える英語表現と文例

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年9月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

注目情報

最新記事

化学産業のサプライチェーンをサポートする新しい動き

長瀬産業株式会社、ナガセ情報開発株式会社は、2023年2月1日より、化学品ドキュメントの配付管理ツー…

シクロデキストリンの「穴の中」で光るセンサー

第468回のスポットライトリサーチは、上智大学理工学部 物質生命理工学科 分析化学研究グループ(早下…

Excelでできる材料開発のためのデータ解析[超入門]-統計の基礎や機械学習との違いを解説-

 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影響を受け、従来の経験と勘によ…

超原子価ヨウ素反応剤を用いたジアミド類の4-イミダゾリジノン誘導化

第468回のスポットライトリサーチは、岐阜薬科大学  合成薬品製造学研究室(伊藤研究室)に所属されて…

研究室でDIY!ELSD検出器を複数のLCシステムで使えるようにした話

先日のBiotage Selekt + ELSDの記事でちらっと紹介した、ELS…

第37回ケムステVシンポ「抗体修飾法の最前線 〜ADC製造の基盤技術〜」を開催します!

修論・卒論・博士論文で大忙しの2,3月ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。まとめ作業とデスク…

有機合成化学協会誌2023年1月号:[1,3]-アルコキシ転位・クロロシラン・インシリコ技術・マイトトキシン・MOF

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年1月号がオンライン公開されました。す…

飲む痔の薬のはなし1 ブロメラインとビタミンE

Tshozoです。あれ(発端記事・その後の記事)からいろいろありました。一進一退とはいえ、咀…

深紫外光源の効率を高める新たな透明電極材料

第467回のスポットライトリサーチは、東京都立大学大学院 理学研究科 廣瀬研究室の長島 陽(ながしま…

化学メーカー発の半導体技術が受賞

積水化学工業株式会社の高機能プラスチックスカンパニー開発研究所エレクトロニクス材料開発センターが開発…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP