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スポットライトリサーチ

リン–リン単結合を有する化合物のアルケンに対する1,2-付加反応

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第81回のスポットライトリサーチは、大阪府立大学大学院工学研究科小川研究室博士1年の佐藤悠樹さんにお願いしました。

小川研究室のHPには「限りある資源から必要なものを無駄なくかつ安全に創る」というスローガンが綴られています。そのスローガンのもと、元素固有の特性を利用した高効率な有機合成法の開発が行われています。ここでスポットを当てる佐藤さんは、元素の中でもリン原子をもつ化合物の有効利用に従事されているようです。昨年12月に催された典型元素化学討論会において、「アルケン類の高位置選択的なホスフィニルホスフィノ化反応」の発表で優秀講演賞を受賞されたのを機に、インタビューをお願いしました。

佐藤さんについて、指導教官であられる小川昭弥教授ならび川口真一特任助教からコメントをいただくことができました。

 

佐藤君は化学が大好きで、いったん興味を持つと、とことん追求していき、ついには自分の納得できる解決法を必ず見つけ出してくる学生さんです。目下の関心あるケミストリーを話すときは、生き生きしていて、横で見ていてたいへん楽しそうです。昼夜を問わず実験し、フラスコで起こる現象をいつも深く洞察しています。しかしただ単に実験しているだけではなく、視野を広げるために文献をよく読み、計算化学についても勉強し、自分の研究に活かしています。研究室の他の学生たちとも、よくディスカッションし、最近は自分でどんどんテーマを考え出しては、佐藤君の顔の見える新しいユニークな反応を開発しています。益々の発展が大いに期待される学生さんです。

小川昭弥

佐藤君とは4年生で研究室に配属されたときから一緒に仕事をしてきました。研究室配属までは、應援團團長として、体育会のメンバーに勇気を与えてきました。應援團引退後は、そのエネルギーを研究に注ぎ、有機化学にのめり込んでいきました。彼は應援團で鍛えた並外れた集中力・体力を持ち合わせています。また、まわりのトレンドに惑わされない意志の強さも持ち合わせています。これらは、今後も化学の道をつき詰めるのに大いに役立つだろうと思います。今後のさらなる成長が楽しみです。

川口真一 (佐賀大学農学部附属アグリ創生教育研究センター天然資源化学分野特任助教)

優秀講演賞の受賞おめでとうございます!それでは、リンたっぷりのインタビューをお楽しみください。

Q1. 今回の受賞対象となったのはどんな研究ですか?

『リン–リン単結合を有する化合物のアルケンに対する1,2-付加反応の開発』です。

近年、同一分子内に強い供与基 (P)と弱い供与基 (P(O))を有するビスホスフィンモノオキシド (BPMO)が、金属中心に空配位座を形成可能な配位子として注目され始めています。[1] 本研究では、新たなBPMO合成法として、P(O)–P単結合を有する“ジホスフィンモノオキシド”のアルケンへの1,2-付加反応の開発に成功しました。[2]

類似の構造のP–P単結合を有する“ジホスフィン”ではアルケンに対して付加が全く進行しないことから、ジホスフィンモノオキシド (P(O)–P)の二種類のリン官能基 (P(O)およびP)の性質が付加反応に大きく寄与していると考えています。

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

『ジホスフィン (P–P)では困難なアルケンへの付加をジホスフィンモノオキシド (P(O)–P)で達成した』ことです。

P–Pがアルケンに付加するためには、P–Pが開裂して生成するPラジカルがアルケンに付加し、生成した炭素ラジカルをP–Pが捕捉する全2過程を単一のリン原子が行う必要があります。そこで私はP–Pを非対称化し、この2過程をそれぞれに有利なリン原子が行うことで反応が効率化されると考えました。その最もシンプルかつ効果的な分子変換としてP(O)–Pに着目しました。その結果、リン–リン単結合はP(O)–Pの方がP–Pよりも強く開裂しにくいにも関わらず、P(O)–Pが見事アルケンに付加することを見出しました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

P(O)–Pがアルケンに1,2-付加することに気付く』ことでした。

当研究室ではP–Pのアルキンに対する1,2-付加反応[3]を報告してから約10年間、アルケンへの付加反応の開発に取り組んできました。P–Pは空気中で速やかに酸化されてP(O)–Pになります。不活性雰囲気下での操作技術が未熟だった当時では、P–PおよびP(O)–Pがほぼ等量の混合物を用いてアルケンへの付加を検討していました。この混合物でアルケンへの付加が進行しないため、P–PのみでなくP(O)–Pもアルケンに付加しないと思い込まれていました。

10年の時を経て気づいた事実ですが、反応系中に5%程度のP–Pが存在するとP(O)–Pの付加は全く進行しません。思い込みにとらわれず、Q2で回答した仮説を信じて高純度のP(O)–Pを合成したことが、本研究達成の鍵だったのかもしれません。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

まだ定まっていませんが、可能な限り自由に、かつ自分らしい研究で化学の発展に貢献したいです。

小川研究室は自由に研究に取り組める風潮があります。私は幸運にもこの研究室で自由に反応を開発する楽しみに巡り合うことができました。

現在私は誰も想像もしない反応を創るために、目前の楽しい研究を自由にさせて頂いています。将来的には10年20年後の化学を変えるような反応や材料を開発できる研究者を目指して、今は自分に足りない知識および経験をひとつひとつ習得していきたいと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。本研究に辿り着くまでには、『P(O)–Pは付加しない』という思い込みの壁がありました。このような壁を打ち破るためには、知識のみでなく研究者ひとりひとりの自由な発想が必要だと思います。自由な発想は、実験、ディスカッション、または飲み会、スポーツなど、様々な楽しいところから生まれるものだと考えます。つまり、自分にとって最高に楽しい研究生活を送り、世界一面白いと思える研究を一緒にしましょう!

最後になりましたが、ご指導して頂いた小川昭弥教授、川口真一特任助教に、この場を借りて心より感謝申し上げます。

参考文献

  1. Grushin, V. V. Chem. Rev. 2004, 104, 1629. DOI: 10.1021/cr030026j
  2. Sato, Y.; Kawaguchi, S-i.; Nomoto, A.; Ogawa, A. Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 9700. DOI: 10.1002/anie.201603860
  3. Kawaguchi, S-i.; Nagata, S.; Shirai, T.; Tsuchii, K.; Nomoto, A.; Ogawa, A. Tetrahedron Lett. 2006, 47, 3919.10.1016/j.tetlet.2006.03.165

研究者の略歴

佐藤 悠樹 (さとう ゆうき)

所属:大阪府立大学大学院 工学研究科 小川研究室 博士後期課程1年
研究テーマ:リンラジカルを用いた機能性リン配位子の合成法の開発
略歴:2014年3月 大阪府立大学 工学部 応用化学科 卒業
2016年3月 大阪府立大学大学院 工学研究科 物質・化学系専攻 修士課程修了
2016年4月~ 博士課程進学

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めぐ

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博士(理学)。大学教員。娘の育児に奮闘しつつも、分子の世界に思いを馳せる日々。

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