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化学者のつぶやき

カーボンナノベルト合成初成功の舞台裏 (2)

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前回 カーボンナノベルト合成初成功の舞台裏 (1) の続きです。

“After 60 Years of Efforts: The Chemical Synthesis of a Carbon Nanobelt” というレビュー記事には、過去60年に亙るカーボンナノベルト合成の挑戦と失敗について詳細が綴られています。実際、伊丹グループでのカーボンナノベルト合成の旅路も、決して順風満帆なものではありませんでした。

伊丹グループがなぜカーボンナノベルトの合成を始めたのかは、前回の記事でも述べました。Cycloparaphenylene(CPP)やカーボンナノベルトは、どちらもカーボンナノチューブの最小構成の「積み木」となるからです。これらのような環状の分子で膜が作れるようになることは、カーボンナノチューブ合成への有望な選択肢なのです。

2013年、伊丹グループのOmachiらは、上記CVD法により、一定の直径であるCPPから、高効率でカーボンナノチューブの合成を達成しました(もちろん、収率は100%ではないので注意が必要です)。詳しくは、次の論文に載っています。“Initiation of carbon nanotube growth by well-defined carbon nanorings.”

このことは多くの注目を集め、CHEMISTRY WORLDにも取り上げられました。同じCPP合成の先駆者であるRamesh Jastiの言葉を引用すると “This is the promising result many of us have been waiting for…” 「これこそまさに我々が待ち望んでいた有望な結果だ…」とのことです。

然しながら、その文献の手法は限界があるということが後々わかることになります。

その方法ではある一定サイズのCPPを用いてカーボンナノチューブを作ろうと試みるわけですが、最終的に「直径とキラルが一定のカーボンナノチューブ」が合成されることはなく、「直径やキラルがバラバラのカーボンナノチューブの混合物」が合成されてしまったのです。

例えば上の図のように、[12]CPPを用いて合成を行おうとすると、下に並んだような直径が1.2nmから1.7nmに基づいたカーボン・ナノチューブが合成されてしまったのです。これはつまり、高温での反応中に、CPP分子のベンゼン環間の炭素炭素結合が壊れてしまったことに由ります。この副反応は、まるでプログラム内でコピーする際のエラーのようで、予測することもコントロールすることも難しい副産物を生み出してしまいます。故に、過酷な条件下でも耐えられるような、そのようなカーボンナノベルトを作ることが必要であると、我々は思い直すようになりました。

そのような中、伊丹グループはCPP合成を最適化する過程で、カーボンナノベルト合成において有望な、一連のCPP誘導体による方法を開発しました。例として、下の2つが挙げられます。

  1. ナフタレン系化合物を用いた合成により、カーボンナノベルトやカーボンナノチューブの前駆体として有望な[9]-CNを得る方法(下図)

2. Cl置換したCPPによるカップリング反応を用いてカーボンナノベルトを合成する方法(下図)

しかし残念ながら、これまでの所、上記2つの研究論文に続く進展は見られず、このCPP誘導体による目的達成は非常に困難となりました。[9]CNからであっても、CPP二量体からであっても、非常に高効率な脱水素カップリングによる合成を必要とし、分子内に形成される炭素炭素結合は環ひずみや立体障害に耐える必要があります。これらもまたCPP誘導体によるカーボンナノベルト合成におけるボトルネックとなっており、有効な解決方法は見つかりませんでした。

そんな時、彼らは新たな方法を思いつきます。Marcin Stępieńの2つの論文におけるYamamotoホモカップリングにより芳香環のリングを形成しましたが(注意:これは置換された原子を含むのでカーボンナノベルトではありません)、その手法から発想を得て、Guillaumeは再度、ブロモスチルベンによるYamamotoホモカップリングからカーボンナノベルトを合成することに成功するのです。(下図)この方法について、詳しく見ていきましょう。

この合成において必要な、全てシス型のブロモスチレンは、2002年にGilheanyらが報告したZ-選択的Wittig反応を用いて準備されました。(下図)この反応中、オルト位のアルデヒドやホスホラスイリドが反応剤となり、高効率でZ-選択的なジブロモスチルベン、(Z)-1,2-bis(2-bromolphenyl)etheneを得ることが出来ます。

この反応の高い選択性の理由は、ハロゲン元素が下図cis-OPA(a)やtrans-OPA(b)中間体に対して及ぼす安定性への影響から理解する事ができます。

もしベンズアルデヒドのオルト位にハロゲン元素が有る場合、ハロゲン元素XとPの弱い配位によりcis-OPAの安定性が増加します。もしベンジルホスホニウム塩のオルト位にハロゲン元素が有る場合、trans-OPA中間体のArとトリフェニルホスフィンのフェニル基との間での立体障害により、trans-OPAの安定性が低下します。結果的に、中間体としてcis-OPAが優勢となり、Z型の生成物が選択的に合成されることになります。(より詳しくは2002年のTetrahedron Letterを参照して下さい。

これらこそまさにカーボンナノベルト合成におけるキーとなる反応であり、ついにその合成に成功することになります。さてそれでは、Guillaume氏による、具体的な合成経路を見ていきましょう。

反応はパラキシレンから出発し、ハロゲン化反応により化合物S1をつくりました。ナトリウムメトキシドによる処理を用い、片側の2つのBr基をメトキシ基に置換しアセタール化合物S2を合成しました。その後、S2のもう片側のBrを1つ脱離させ化合物3を、S2を酸性条件下で脱保護しアルデヒド4を得ました。

3と4の間で、上述したZ-選択的Wittig反応を進行させ、Z/E = 20:1の高い割合でZ型のスチルベン5を得ました。そのまま分離精製を挟むことなく直接、上述の反応を2回行うことで化合物8へと導きました。その後、カリウムtert-ブトキシド存在下で、2つの化合物8の分子間Wittig反応を行い、化合物2(カーボンナノベルト前駆体)の合成に成功しました。

(注意深い読者の皆さんは已にお気づきかもしれませんが、全ての反応はとても短い時間で完了させるべきものであり、全てのステップでも10分程度から長くても3時間程度の時間を必要とする程度のものになります。この理由は、全てのZ型オレフィン中間体はどれも熱力学的に安定な化合物ではなく、特に光を避ける必要があり、決して長い間外界に晒してはいけないです。シストランス異性化が進めば進むほど、E型の副産物が増えてしまいます。できるだけ早く各ステップの反応を速め、可能な限り早く前駆物質に変換できるようにする必要があります。 )

(続く)

Chem Station 中国語版からの翻訳・加筆記事です。

原文: 首次合成碳纳米带–背后的故事(二) by JiaoJiao

 

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