[スポンサーリンク]

一般的な話題

人生、宇宙、命名の答え

[スポンサーリンク]

 

 

子供が生まれたらなんて名前をつけようかな。だれしも一度はそんな空想をしたことがあるでしょう。幸運にも良縁に恵まれてすでにお子さんをお持ちの方は、子供に名前をつける際の様々なエピソードをお持ちのことでしょう。“命名”というイベントを通じて真の意味でこの世に新たな生命が誕生したとことになるのです。

 

先日のポストでいわゆる人名反応についてのthesisをご紹介しましたが、今回はNature Chemistry誌より、化学者がどのようにして、もしくはなぜ反応や化合物に名付けるのかについて議論したTulane大学のBruce C. Gibb教授によるthesisをご紹介します。今年も引き続きNature Chemistryのthesisシリーズを続けていきたいと思いますのでお付き合い下さい。前回はこちら

 

Life, the Universe and nomenclature

Gibb, B. C. Nature Chem. 5, 1-2 (2013). Doi: 10.1038/nchem.1530

 

「酸素原子に共有結合したケイ素に3つの炭素が結合していて、その炭素には水素原子2つと炭素原子1つが結合していて、その炭素原子には3つの水素原子が結合している置換基はヒドロキシ基の保護基としてよく用いられます。」

これじゃああまりに冗長すぎて紙面がいくらあっても足りませんよね。言い換えましょう

「トリエチルシリル基はヒドロキシ基の保護基としてよく用いられます。」

 

化学に携わっていると名付け親になるシチュエーションが度々巡ってきます。新しい化合物を合成したときや、新規のタンパク質を単離した際などはそれらの化合物に名前を付ける必要があります。名前の付け方としては、次の3つのアプローチがあります。すなわち、(1)開発者にちなんだ命名、(2)既にあるもので似たものがあればそれに準じて、(3)ある種のシステマティックな手法に従って、化合物やプロセスに命名するというものです。

繰り返し構造が無いもので現在知られている最大の化合物はマイトトキシン(分子式:C164H256O68S2Na2、分子量:3422)は、その物質が得られたもとのサザナミハギという魚のタヒチでの呼び名「maito」に毒を表す「toxin」を合わせて名付けられました。マイトトキシンに次ぐ大きさを誇る化合物も単離源であるイワスナギンチャクの学名、 Palythoa toxicaにちなんでパリトキシン(分子式:C129H223N3O54、分子量:2680)と名付けられました。もしこの化合物に有機化合物のシステマティックな命名法であるIUPAC名を付けるとしたら950字以上かかるそうですので現実的な名前ではありません。極端な例ではありますが化合物になんらかの「ニックネーム」を与えることは利便性の面から必然とも言えるでしょう。

 

palytoxin.gif

パリトキシンの構造

 

冒頭のトリエチルシリル基であっても、有機化学者はTES基(てすき)と略してしまいます。このようにTriEthylSilylといった頭文字をとって作られる言葉は頭字語(acronym)と呼ばれますが、何故このような名称や頭字語による命名が行われるのでしょうか?そのような名称が定着する過程では以下のような式が成り立つのではないかと主張しています。

s = hfac(ntime×nusers)  ・・・式1

ここでsは名前がkeepされる度合いとでも言いましょうか、stickabilityで、hfacはhuman factor、ntimeは単位時間あたりの略称によって節約できる時間、nusersはその語をよく用いる必要がある潜在的なユーザー数です。ここでhuman factorは二つから構成されていて、まず一つ目はエゴとは言いませんが人は誰しも死ぬ前に何か足跡を残したいと思う心を少なからず持っているということ、そしてもう一つはユーモアです。時に化学者はユニークな名前付けをしたりします。

godfather_1.jpg

図は文献より引用© ISTOCKPHOTO.COM/THINKSTOCK

写真は市販のT-シャツのようですが、ユニークな名前はインパクトありますよね。筆者もC60フラーレンの名前(Buckminsterfullerene)の由来を聞いた時は感動さえ覚えました。C60フラーレンのIUPAC名は(C60-Ih)[5,6]フラーレンですが、これでは味気ないですよね。恐らくほとんどの人は知らない、もしくは覚えていないと思います。

 

Made a new molecule? Isolated a novel protein? We’ll need a name for that!

 

生化学の世界はさらに混沌としていて、タンパク質の名前がSonicDesertIndian・・・これじゃ一見なんのことやらですね。遺伝子の名前もバラエティーに富んでいて、筆者は生化学や遺伝子が関連した学会などに顔を出す機会が多いのですが、正直そのような名称は覚えきれないですね。いわゆるバイオ系の方々はいかにユニークな名前を付けるかみたいなところがある気がします。最近ではどうなんだろうと疑問に思うような名前をDQNネーム(キラキラネーム)というそうですが、そんなタンパク質(遺伝子)の名前はキラキラネーム?

Gibb教授の専門は超分子化学です。超分子化学でも例えばcalixareneはcalixすなわち杯の形から名前がとられてますが生化学者ほど超分子化学者は凝った名前をつけないようです。

 

上記の式1におけるhuman factorは、分子などの形をどのように表現するか、何を面白いと思うのか、そして”名前”がどう移り変わっていくかなど、単純に定量出来るようには思えません。よって式1がGibbの式(いつか誰かがGibbsの式と混同するかも)として定着するにはちょっと難しいですかね。

学部生がIUPAC命名法などのシステマティックな命名法を覚えるのが大変だとのたまわったら、化合物の名前がいかにうんざりするほどあるのか、命名法に従った化合物名で済むならまだましなんだということを教えてあげましょう。

 

 

  • 関連書籍

 

 

 

 

 

Avatar photo

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. 2012年分子生物学会/生化学会 ケムステキャンペーン
  2. 光とともに変身する有機結晶?! ~紫外光照射で発光色変化しながら…
  3. 科学予算はイギリスでも「仕分け対象」
  4. 有機反応を俯瞰する ーヘテロ環合成: C—X 結合で切る
  5. 高分子鎖を簡単に垂直に立てる -表面偏析と自己組織化による高分子…
  6. Callipeltosideの全合成と構造訂正
  7. 海底にレアアース資源!ランタノイドは太平洋の夢を見るか
  8. 有機合成化学協会誌2023年10月号:典型元素・テトラシアノシク…

注目情報

ピックアップ記事

  1. Hantzschエステル:Hantzch Ester
  2. 自動車用燃料、「脱石油」競う 商社、天然ガス・バイオマス活用
  3. 元素のふしぎ展に行ってきました
  4. コケに注目!:薬や香料や食品としても
  5. 第157回―「メカノケミカル合成の方法論開発」Tomislav Friščić教授
  6. クロスカップリング反応 cross coupling reaction
  7. 第103回―「機能性分子をつくる有機金属合成化学」Nicholas Long教授
  8. ノルゾアンタミン /Norzoanthamine
  9. タングトリンの触媒的不斉全合成
  10. 化学コミュニケーション賞2023を受賞しました!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年1月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

“とび跳ねる水滴”に潜む物理 〜接触時間とエネルギー源で読む撥水・防氷のテク〜

熱したフライパンに落ちた水滴が、玉になってコロコロと走り回り、冷えた面では、結露水が合体した瞬間に跳…

AI時代に研究者がすでに持っている力・これから伸ばしたい力

論文要約や文献検索など、研究現場でもAI活用が日常化する一方、「自分の仕事の先行き」に漠然とした不安…

miHub®を活用した探索的データ解析の実践

開催概要研究開発においてデータ活用が進む中、機械学習モデルの構築や予測解析に…

“ある特効薬”のはなし ~本田宗一郎氏の回想から

Tshozoです。最近実家に戻っては色々と廃棄するなどの店じまいを少しずつ進めているのですが、中…

高分子鎖を束ねた新しい共重合体「束状共重合体」が誕生

第715回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 工学系研究科(植村研究室)に所属されていた亀谷…

2026年「有機溶媒危機」へのアンサー。北大発・メカノクロスが挑む、溶媒に依存しない新たな合成法 = “メカノケミカル有機合成”の社会実装

株式会社メカノクロスは、メカノケミカル有機合成技術の社会実装に挑む北海道大学発の…

“壊れないよう” に作ってきた半導体ポリマーを、あえて “壊れるよう” に作る化学

半導体ポリマーは長いあいだ、「いかに壊れにくく、長持ちさせるか」といったような安定性を競って進歩して…

有機合成化学協会誌2026年7月号:固体高分子電解質・電子ドナー・アクセプター錯体・機械学習法・trichodermamide類・エナンチオ選択的スキップジエン合成法

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2026年7月号がオンラインで公開されています。…

第62回Vシンポ「見えない空気を科学する~センサによる室内環境・臭気の見える化と快適空間デザインの最前線~」を開催します!

こんにちは、Macyです。第62回Vシンポのご案内をさせていただきます。今回は、前回同様…

【協和ファーマケミカル】新卒採用情報(2028年卒)

協和ファーマケミカルが求めているのは、有機合成の知識や実験経験を身につけ、活かし…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP