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海外化学者インタビュー

第23回 医療、工業、軍事、広がるスマートマテリアル活躍の場ーPavel Anzenbacher教授

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またもや前回から日が開いてしまいました、訳者のサボりです、すみませんm(_ _)m。第23回は米オハイオ州、ボーリング・グリーン州立大学化学科のパヴェル・アンゼンバッカ-教授です。アンゼンバッカー教授は有機LED(OLED)や光センサーといったフォト二ック材料のデザインと合成、励起状態からのエネルギー転位および光エネルギープロセスの分析に基づいた光科学の研究を行っています。とりわけ10ppbレベルのTNT(トリニトロトルエン、爆薬)を検知できるセンサー(アンゼンバッカー研ホームページ内)によって地雷撤去の効率化とその作業の安全性向上を目指すという軍事的応用色の強いプロジェクトは、アカデミックの研究の場では(特に日本では)ほとんど他に類を見ないものではないでしょうか。今回のアンゼンバッカー教授や、数々の「研究者へのインタビュー」での先生方の回答からも読み取れるように、一歩下がって世の中を広く分け隔てなく認知し、ポジティブに干渉し続ける姿勢、化学者である前に科学者かつ周囲の模範たる良き人であろうとし続ける努力は、最も自然な「結果的に社会に貢献してしまう方法」かもしれませんね。ちょっとお茶目、というのも重要です?さて訳者の前置きが長くなりましたが、インタビューをどうぞ。

 

Q. あなたが化学者になった理由は?

両親の影響です。私は父が学部3年、母が学部2年生の時の子供でして、両親いわく曰く私が幼少の頃は化学のテキストを枕や玩具代わりに、時に食べ物としても扱っていたようです…消化はできませんでしたが。そういう(一般的な玩具やお菓子を与えられない状況が)とてもフラストレーションの溜まる幼少期を過ごしたお陰で、私はストレス耐性の高い大人になりました。特に有機化学やなんかに対しては。
Modern Chemistry

 

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

彫刻家になりたかったのです。本当にそうなりたいという気持ちはどんどん膨れ上がる一方でした。私にしてみれば、有機化学者も彫刻家も特に相違無いのですよ。有機化学者は炭素、窒素、酸素などの元素から作り出したいモノを「彫り出す」仕事が本分でしょう?例えばX線回折(XRD)という技術には本当に感謝しなくてはなりません、そうでなければ、本当に(彫刻家と)全く同じです。

Q.概して化学者はどのように世界に貢献する事ができますか?

この質問が匂わせる解答は、化学者の彼/彼女なりのプロフェッショナルとしての仕事の中で、世界に最もインパクトを与えられるモノは何ですか、ということでしょう。一般的に化学者の何が最もインパクトを与えるかなんて、さっぱりわかりませんね。私個人であれば、それは常に望みを持ち考え続ける姿勢、といったところでしょうか。ペニシリンの開発に貢献したことのないほとんどの化学者は、良き人としてあろう、と振る舞うことで貢献できるんじゃないでしょうか。周囲の模範となり、世界の抱える問題(環境、地球温暖化、エネルギー問題)を考慮してみたり。なぜなら化学者は、世界の平均的市民よりもこれらの事柄を幾らかより良く理解できるのですから。そしてもちろん、次世代のサイエンティストを育て、新たなペニシリンを発見してくれるようなインスピレーションを与える教育を行うことも素晴らしい!…なんだかこの質問の解答を酷く間違えているように思うのは気のせいですか?

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

カール・ヴィルヘルム・シェーレ(Carl Wilhelm Scheele)、彼は酸素、窒素、マンガン、モリブデン、タングステン、塩素、その他多くの化合物を発見しました(おそらくSir Davyよりも以前に)。驚くべきは、彼はほとんど専門的な訓練を受けることなくこれらの発見をしたということです。小さな町の薬剤師としてね。この才能、直感は間違いなく天才的ですよ。彼との晩餐はとても楽しいに違いない!ここに、彼が彼自身へ向けた詩があります;“Oh, how happy I am! No care for eating or drinking or dwelling, no care for my pharmaceutical business, for this is mere play to me. But to watch new phenomena this is all my care, and how glad is the enquirer when discovery rewards his diligence; then his heart rejoices.”(訳:私は本当に幸せだ!衣食住、そんなの関係無い。薬局屋ビジネスだってどうでもいい、ビジネスなんか単なる遊びさ。実験観察これが全て。日々精進することに発見というご褒美で答えてくれる、まさに心踊る。) (訳者注:酸素の発見に関して、ジョゼフ・プリーストリー。)

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

昨夏、ジクロロテトラジンをグアニジンとヒドラジンから合成しました。なぜ私自身が行ったか、という説明は不要ですね。(訳者注:危険な実験はPI自らが行う、ということですね(笑)。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

少なくともこの既知の世の中では一番重要な書物、それはくまのプーさん(Winnie the Pooh)!!間違いないですよ!音楽CDはピンクフロイドのDark Side of the Moon。あとはCDプレイヤーと太陽電池もお願いします!

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原文:Reactions – Pavel Anzenbacher
※このインタビューは2007年7月27日に公開されたものです。

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せきとも

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他人のお金で海外旅行もとい留学を重ね、現在カナダの某五大湖畔で院生。かつては専ら有機化学がテーマであったが、現在は有機無機ハイブリッドのシリカ材料を扱いつつ、高分子化学に

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