[スポンサーリンク]

一般的な話題

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

[スポンサーリンク]

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテクノロジーが一層注目されるようになっており、ケムステでも過去にたびたび紹介しています。

過去記事:「人工金属酵素によるSystems Catalysisと細胞内触媒反応」University of Basel, T. R. Ward研より

過去記事:酵素合成と人工合成の両輪で実現するサフラマイシン類の効率的全合成

過去記事:ケミカルバイオロジーとバイオケミストリー

さて、この度は2025年3月20日(木・祝)に横浜ランドマークタワー内の「みなとみらい BUKATSUDO」(横浜市西区)にて開催された「理研よこはまサイエンスカフェ 「計算科学とバイオ技術の融合で生まれる“未来のものづくり”」」に参加してきました。理研は、一般の方々に研究活動を紹介する場として定期的にサイエンスカフェを開いており、今回のご講演もそのような趣旨で開催されたものです。

今年のテーマは「計算科学とバイオ技術の融合で生まれる“未来のものづくり”」ということで、ケミカルバイオロジーやバイオケミストリーに関する理研の研究の最前線についてうかがうことができました。

この記事では会の模様を簡単に振り返ってみたいと思います。

演題と講師の先生は以下の通りです。

 

開催日 2025年3月20日(木・祝)

時間 13:30-15:20 (13:00受付開始)

講師

白井 智量 先生(理化学研究所 連携促進本部バトンゾーン研究推進プログラム 微生物ケミカル生産研究チーム 副チームリーダー)

鈴木 淳 先生(理化学研究所 連携促進本部 連携促進部)

対象 中学生 / 高校生 / 大学生/ 一般

会場 みなとみらい BUKATSUDO

(神奈川県横浜市西区みなとみらい2丁目2-1 ランドマークプラザ ドックヤードガーデン地下1階)

詳細 https://www.yokohama.riken.jp/sciencecafe/sciencecafe_250320.html

 

白井先生は代謝工学や合成生物学をご専門とされている新進気鋭の研究者で、第6回バイオインダストリー奨励賞をはじめ輝かしいご業績を残されています。

まず白井先生はご自身の研究のお話をされる前に、米国の政治学者、Donald Stokes氏の提唱したパスツールの四象限についてご紹介されました。これはx軸にその研究が実用化を目指しているか否か、y軸に原理の探求を意図しているか否かを示した座標系で、第一象限は生物学の発展やワクチンの開発に尽力したルイ・パスツールにちなんでパスツール象限、第二象限の純粋理学は原子の構造を探求したニールス・ボーアにちなんでボーア象限、純粋工学の第四象限は発明家トーマス・エジソンにちなんでエジソン象限と呼ばれています。そして、理研の目指すのは第一象限にあたるパスツール的研究であると力説されており、産業界の発展にも貢献してきた理研の足跡を説明されました。

次いで、現代の発酵工学の礎となった、有用微生物のスクリーニング研究のお話に言及されました。この分野は1990年代頃までいわば日本のお家芸であり、その背景には気候風土の多様性に富んだ国土、根性で地道に新種を見つけ出すのが得意な国民性などがあったとのことです。対する海外勢は代謝工学やゲノム編集など、微生物そのものを人間の役に立つよう改変し、有用性を最大化する技術を発展させ、現在ではこちらがこの分野を牽引しているとのお話でした。微生物は本来、みずからの増殖を最大化するために資源を利用していますが、これを有用化合物の生産にすべて振り向けさせるための培養条件の設定が必要です。この最大化問題はUC SandiegoのMolgan教授らにより、数学で言うところの線形計画法によって解析的に解くことができることが示されており、これら工学的手法の基礎理論となっているようです。

とはいえ、比較的単純な大腸菌においても1000以上の代謝反応を司る複雑な酵素群を保有しており、これを解くには計算科学の力が欠かせません。このような複雑な問題の解析に力を発揮すると期待されているのが量子コンピュータと人工知能の組み合わせですが、現時点では線形計画法を解く上で必要なプログラムの面に難点を抱えており、今後の発展が待たれるそうです。

白井先生は実際に、大腸菌のもつ酵素を改変することで代謝経路を変え、ジェット燃料としての応用が期待できるイソブタノールや、メバロン酸から合成ゴムの原料として重要なイソプレンを収率よく合成することに成功したそうです。ゆくゆくはより複雑な超分子化合物や、生分解性プラスチックなどの合成への応用も考えられるとのことで、今後の研究の進展に期待です。

最後に、これらの研究は科目で言うところの「生物」に相当するものの、実際には計算科学を理解するための数学・物理学や、合理的な反応経路を設定さるための有機化学の知識が何より重要であり、学問分野に垣根はないこと、現在のご研究を進める上では趣味を通じた仲間との出会いなど机上の勉強以外の要素も欠かせなかったことから、すべての人生経験が活きてくると締めくくられており、大変感銘を受けました。

春休み期間ということもあり、親子連れの方や学生さんをはじめ多くの方々で盛況で、抽選となるほどでした。一般向けということもあり、お茶とお菓子を片手にリラックスしてお話を聞けるよう非常に敷居は低くなっておりますので、みなさんもご興味があればぜひご参加されてみてはいかがでしょうか?

最後となりましたが、ご講演くださった先生方、講演会をセッティングしてくださったすべての方々に心よりお礼申し上げます。

gaming voltammetry

berg

投稿者の記事一覧

化学メーカー勤務。学生時代は有機をかじってました⌬
電気化学、表面処理、エレクトロニクスなど、勉強しながら執筆していく予定です

関連記事

  1. 手術中にガン組織を見分ける標識試薬
  2. 健康的なPC作業環境のすすめ
  3. 近況報告Part III
  4. ケイ素半導体加工に使えるイガイな接着剤
  5. Twitter発!「笑える(?)実験大失敗集」
  6. トンネル構造をもつマンガン酸化物超微粒子触媒を合成
  7. アメリカ企業研究員の生活②:1〜2年目の様子
  8. 有機合成化学協会誌2022年1月号:無保護ケチミン・高周期典型金…

注目情報

ピックアップ記事

  1. フッ素ドープ酸化スズ (FTO)
  2. 機能を持たせた紙製チップで化学テロに備える ―簡単な操作でサリンやVXを検知できる紙製デバイスの開発―
  3. 耐熱性生分解プラスチック開発 150度でも耐用 阪大
  4. Reaxys Prize 2013ファイナリスト45名発表!
  5. 癸巳の年、世紀の大発見
  6. 第92回―「金属錯体を結合形成触媒へ応用する」Rory Waterman教授
  7. 第27回 「有機化学と光化学で人工光合成に挑戦」今堀 博 教授
  8. 室温固相反応で青色発光物質Cs₃Cu₂I₅の良質薄膜が生成とその機構の研究から特異な結晶構造の起源を解明
  9. 第四回ケムステVシンポ「持続可能社会をつくるバイオプラスチック」開催報告
  10. 第16回 結晶から結晶への化学変換 – Miguel Garcia-Garibay

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2025年4月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

CIPイノベーション共創プログラム「有機電解合成の今:最新技術動向と化学品製造への応用の可能性」

日本化学会第106春季年会(2026)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「有機電解合…

CIPイノベーション共創プログラム「世界を変えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第106春季年会(2026)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「世界を変え…

年会特別企画「XAFSと化学:錯体, 触媒からリュウグウまで –放射光ことはじめ」

放射光施設を利用したX線吸収分光法(XAFS)は、物質の電子状態や局所構造を元素選択的に明らかにでき…

超公聴会 2026 で発表します!!【YouTube 配信】

超公聴会は、今年度博士号を取得する大学院生が公聴会の内容を持ち寄ってオンライン上で発表する会です。主…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part II

さて、Part Iに引き続きPart II!年会をさらに盛り上げる企画として、2011年より…

凍結乾燥の常識を覆す!マイクロ波導入による乾燥時間短縮と効率化

「凍結乾燥は時間がかかるもの」と諦めていませんか?医薬品や食品、新素材開発において、品質を維…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part I

まだ寒い日が続いておりますが、あっという間に3月になりました。今年も日本化学会春季年会の季節です。…

アムホテリシンBのはなし 70年前に開発された奇跡の抗真菌薬

Tshozoです。以前から自身の体調不良を記事にしているのですが、昨今流行りのAIには産み出せな…

反応操作をしなくても、化合物は変化する【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか温度を測ること…

ジチオカーバメートラジカル触媒のデザイン〜三重項ビラジカルの新たな触媒機能を発見〜

第698回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(大井研究室)博士後期課程1年の川口…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP