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【ケムステSlackに訊いて見た④】化学系学生の意外な就職先?

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日本初のオープン化学コミュニティ・ケムステSlackの質問チャンネルに流れてきたQ&Aの紹介シリーズです。

第4段は学生であれば誰しも気になる話、「化学を学んだ人はどこに就職できるの?」です。ただし今回は毛色が変わっており、普通は考えない、意外な就職先についての話題が飛び交っていましたので紹介します。筆者の知る限り、ユニークなお仕事をされている方々もついでに紹介したいと思います。

Q. 化学系学生の意外な就職先があれば教えて下さい。製薬企業や化学メーカーなどはよくある就職先だと思うのですが、他にどんな道があるのか知りたいです。

さてさてどんな進路が飛び出てくるのでしょうか???

A1.  Webエンジニア。僕の周りに化学系修士卒でWebエンジニアとして新卒で入った方がいましたので。ちなみに僕は、回り道して(ポスドク1年→化学メーカー研究職10年→)Web制作会社でwebエンジニアやってますです。

化学の外に出る選択肢としては、今の時代なら十分考えられて良い職種に思います。プログラミングに強い方は、化学畑にも多くいらっしゃいます。特に計算化学やドッキングスタディなどを手がけておられた方で、AIを扱う会社・部門に入っていくなどのケースを耳にしたこともあります。「ニコニコ動画」「N高」などを手がけたドワンゴ社を創業した川上量生氏も、実は化学を専門とされていました(参考:ケムステでの書籍紹介)。

A2. 佐藤健太郎さんは言うまでもありませんが、サイエンスグラフィックス社の辻野さんとかユニークですよね。たまに論文の表紙画像を依頼しています。

皆さんご存じ、「有機化学美術館」の館長でもある佐藤健太郎さんは、製薬会社の研究員として勤務された後、サイエンスライターに転身されました。化学のみならず折り紙や国道知識などにも造形が深く、多方面でご活躍されています。魅力的な化学書籍を数多く発刊されており、どの本も大変面白いので、化学好きなら読破マストです!

サイエンスグラフィックス社は、論文カバーアートを作る際、皆さん度々お世話になっているCG会社の一つです。代表の辻野貴志さんは京大・北川進研のご出身で、化学をバックグラウンドとされています。価格もリーズナブルで納品も早く、〆切まで間がないときに大変助かっています。ちなみに筆者もこちらの論文絡みで表紙絵を作成頂きました。こういうテイストが好みであれば、是非依頼されてみてはいかがでしょう。

A3-1. 電機メーカーや自動車メーカーで活躍している化学系の方もいます。ケミカルは作らないけど製品に含まれている場合には、化学的な観点で評価が必要だからだと思います。
A3-2. 当方もかなり工業に寄った製造メーカーですが、今後の新製品の開発や品質向上のために化学的アプローチで研究を行っています。化学系の方は物質そのものについて議論出来るので、各企業で出来ることは多いと思います。

自動車はEVシフト潮流もあり、半導体や電池などの分野で化学的知識が求められています。各種素材に関しては言わずもがな。実はケムステスタッフの中にも、自動車業界の方はいらっしゃいます。これからの時代、「この学部ならばこの業界」と簡単に括れる感じではなくなっていきそうですね。

A4. 修士卒で自分で会社起こして、コンサル社長やってる知り合い。

化学系ベンチャーの起業案件も、最近徐々に増えてきた印象があります。ただどうしても先行で設備投資が必要になるため、誰でも気軽に起業と言うわけにはいかず、大御所ラボ発のケースがやはり多い印象です。一方で頭脳職であるコンサルタントは、身一つで出来る仕事だとも言えますね。化学系でも博士号取得後に、ベンチャー企業やベンチャーキャピタルに就職する人材は、昔よりかなり増えてきたという肌感覚があります。

A5. 確かこのワークグループの自己紹介欄にも市役所職員やってらっしゃる人がいた気がします。知り合いで博士卒で国試受けて厚労省もいましたね。

筆者のいる環境だと、官僚になる人は珍しくありません。いろいろブラック労働が取り沙汰される職になってしまいましたが、やはり国を支えたい・制度とシステムのレベルから国を良くしたいという使命感を果たしうる職種たることも間違いありません。化学(薬学)の学位を取った後で文科省・経産省・厚労省・特許庁に行った学生、区役所・都庁に就職した学生などは、実際に身近にいます。

A6-1. 就職した同期の1人は新聞社に行きました。
A6-2. 雑誌の編集者になった方もいます。出版関係に増えてくれると個人的にありがたいのですが……(化学系の出版企画は通りづらいので)。

文系職である大手新聞社に行かれる方はあまり多くないと思いますが、科学面の記事作成などは、もちろん理系的視点がないと難しいでしょう。日経産業新聞化学工業日報など、化学の最新トピックが豊富な業界紙については、もちろん一つの就職先になると思います。

出版業も進路としてはなかなかレアであるような印象を持ちますが、博士号を取った後、外資系学術出版業界(Springer-Nature・Elsevier・RSC・ACSなど)に職を得ている日本人もいらっしゃいます。化学同人東京化学同人などは、専門教科書や月刊「化学」「現代化学」などを通じて、普段からなじみ深い日本の化学系出版社ですね。ケムステとしてもVシンポのCSJカレントレビューコラボなどの形でお世話になっています。普段意識しないことですが、化学の知識を母国語で学べることは、世界を眺めると当たり前のことではありません。我が国で質の良い母国語教育が実現できる背景には、国内出版社の御尽力があってこそ。感謝感謝です。

A7-1. 日本じゃないですが、ドイツのメルケルは政治家ですし。(物理という人もいるけど一応JACS出してるし)。
A7-2. 珍しいといえば現ローマ教皇フランシスコも化学科卒らしいですね。

メルケル首相がPhD科学者というのは有名な話で、夫もフンボルト大学の量子化学者です。ドイツのしっかりした技術立国スタイルとも無関係ではないでしょう。JACSに論文も出してます。

フランシスコ教皇が化学科卒というのは恥ずかしながら初めて知りました。国家元首クラスで言えば、タイ国のチュラポーン王女も化学者です。これも相まって、タイは化学教育と研究振興に熱心な国の一つでもあります(参考:ケムステ代表のタイ訪問記)。

科学の地盤がゆらぎつつある日本には、理系出身の政治家がもっと増えて欲しいなぁと思います。

筆者の知ってるユニークな方々

Ulrich Mayerさんは、京大・時任研で博士研究員を勤めた後に、英文校閲会社Mayer Scientific Editingを立ち上げられています。筆者も英文校閲で普段お世話になっています。リーズナブル価格で納得いくまで繰り返し添削頂け、もの凄くいい感じに文章を直してくれるので重宝しています(ケムステでの紹介記事はこちら)。

高橋祐介さんは、化学系企業を脱サラ後、マグロ料理専門の居酒屋「MEGRO」を経営されています。実は東大・中村栄一研のご出身で、筆者とほぼ同年代です。ちょっと他にないカラーのお店で話題性としても高く、筆者も来客があるたび利用させて頂いています。コロナ禍にも負けず頑張っておられるようで、皆さんもご贔屓ください。先日、「アド街ック天国」で紹介されていました。

画像:食べログ

喜多喜久さんは、製薬会社勤務中に化学系小説「ラブ・ケミストリー」でデビューされました。その後も多数の理系小説を出版され、現在は専業作家として活躍されています。「化学探偵Mr.キュリー」は10巻を数えるロングシリーズになっています。ケムステでも新刊が発行される度にご紹介しています(参考:ケムステまとめ「化学小説」)。

境宏樹さんは、合成化学をテーマとしたサイエンスバーFRACTALのマスターです。実はいくつかケムステにも記事を寄稿頂いてますが、かつて見たことがないレベルのぶっ飛び人材です(諸藤先生による紹介記事を読めば一目瞭然!)。こちらも飲食業ゆえコロナ禍でなかなか大変そうなのですが、近くに分子研もあったりしますので、岡崎市の近くを訪問の際にでも、一度足を運ばれてみてはいかがでしょう。

化学が関わる仕事を知るための書籍

化学に携わる様々な業種と職種の仕事内容や日常をまとめた本が発刊されています(ケムステ書籍レビューはこちら)。目次をざっと眺めて見るだけでも、化学はかなり多くの職種に根を張っていることが分かりますね。

化学のオープンコミュニティ・ケムステSlack

このQ&Aに限らず、ケムステSlackでは進路相談のような質問が日常的に飛び交っています。大学教員や化学系企業の方々が多く参加していることもあり、有益なアドバイスも多く提供されている様子です。進路に悩む学生の皆さんも、こちらのケムステSlack解説記事をご覧いただき、是非加入いただければと思います!

ケムステSlack参加はこちら

 

 

cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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