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化学者のつぶやき

電子豊富芳香環に対する触媒的芳香族求核置換反応

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2017年、ノースカロライナ大学チャペルヒル校・David Nicewiczらは、可視光レドックス触媒を用い、電子豊富な芳香環に対しても進行する芳香族求核置換反応の開発に成功した。

“Cation Radical Accelerated Nucleophilic Aromatic Substitution via Organic Photoredox Catalysis”
Tay, N. E. S.; Nicewicz, D. A.* J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 16100–16104. DOI: 10.1021/jacs.7b10076

問題設定と解決した点

芳香族求核置換(SNAr)反応は直接的なベンゼン環修飾法の1つであるが、中間体であるMeisenheimer複合体を安定化するために、オルト位またはパラ位に強力な電子求引基が必要である。このため、適用可能な芳香環・ヘテロ芳香環種が限られていた。
Nicewiczらはラジカルカチオンへ求核剤の付加―脱離を経る過程の設計によって、通常のSNAr反応とは電子的要請が異なる反応を達成した。

技術や手法のキモ

Nicewiczらはこれまでにアクリジニウム型の可視光レドックス過程から生じるアレーンラジカルカチオンと求核剤の反応を研究しており、C-Hアミノ化[1]、C-Hシアノ化[2]を達成してきた。C-Hアミノ化の基質となっていたアニソールにおいて、ラジカルカチオンの電荷密度がオルト位・パラ位炭素だけでなく、イプソ位炭素においても大きいことが、計算の結果明らかとなった。

冒頭論文より引用・改変

 

ラジカルカチオンへの求核攻撃は可逆であるため、アミノ化・シアノ化の場合は求核攻撃→不可逆的酸化→プロトン脱離を経る形でC-H官能基化が達成されていた。ここで酸化剤を共存させないことで、イプソ位に求核剤が結合したMeisenheimer錯体がメタノール脱離を伴う形でのSNAr反応が達成されることとなった(冒頭図条件)。
また、アリールメチルエーテルのC-O活性化という文脈で捉えると、従来法ではニッケル触媒を用いたり、強い塩基性・酸性条件を必要としたが、今回の方法では遷移金属なしで温和な条件で変換可能である。

主張の有効性検証

①反応条件について

求核剤としてイミダゾール、被置換ベンゼンとして2,4-ジクロロアニソールを用い、可視光レドックス触媒、溶媒、雰囲気を検討している。アミノ化、シアノ化で用いられたものと同じアクリジニウム触媒を用い、窒素雰囲気下、DCE/TFE(9/1)の混合溶媒を用いることで高収率で目的の置換体が得られた。触媒や光なしでは反応は進行せず、酸素や空気下では収率が低下した。

②基質一般性について

アレーン側:アニソールやハロゲン置換アニソールは変換可能だが、フッ素置換体の場合、脱フッ素型のSNAr反応が進行する副生成物も生じることがある。ただし、この脱フッ素型反応も、光やアクリジニウム触媒を除くと進行しないことから、フォトレドックス触媒によって加速された反応と考えられる。チロシン誘導体のメチルエーテル部位を変換することも可能。

求核剤側:主に含窒素ヘテロ環タイプの求核剤が試されており、イミダゾール、ピラゾール、ベンゾイミダゾール、トリアゾールおよびそれらの置換体が適用可能。また、保護ヒスチジンも求核剤として適用可能。アンモニウムカーバメートを用いたアミノ化、塩基存在下にTFE溶媒と反応させるトリフルオロエチルエーテル化も達成されている。

複数の反応点をもつ基質:複数の窒素を有する求核剤に関しては立体的に空いている方で反応が進行する傾向がある。メチルエーテル部位だけでなく、ベンジルエーテル部位も変換可能。置換可能部位を二箇所有する基質においては一方が反応するが、位置選択性は基質依存の面が大きい。また下記の通り、位置選択性におけるTFEの溶媒効果が観測されている。アルデヒド基質とヘミアセタールを形成したり、ラジカルカチオンの安定化に寄与している可能性。

③反応機構に関して

冒頭図構造のようなアクリジニウム型可視光レドックス触媒(+2.15 V vs SCE)は、イミダゾール(Ep/2 = +1.15V vs SCE)も2,4-ジクロロアニソール (Ep/2 = +2.04V vs SCE)も酸化可能であるが、下記Ir-触媒(+1.68 V vs SCE)は2, 4-ジクロロアニソールを酸化できない。前者を用いると今回のSNAr反応が進行するが、後者を用いると進行しない。ゆえに反応の進行には、アニソール類の酸化で生じるラジカルカチオンが重要と判断される。詳細についてはまだ検討中とのこと。

議論すべき点

  • C-H変換ではないのであまり大きな課題にならないかもしれないが、やはり複数のメチルエーテル部位やベンジルエーテル部位があった場合の位置選択性に関して基質依存ではなく、試薬制御条件へとできないかが気になる。
  • Supporting Infomationには適用不可基質の例が載せられているが、これを見る限り、やはりある程度の電子求引基が基質にある方が好ましい?

適用不可基質(理由についての言及は無し)

次に読むべき論文は?

  • ラジカルカチオンを安定化、不安定化する添加剤によって選択性を制御し得るかもしれない。そのためにはラジカルカチオンの性質、その長寿命化に関して理解する必要がある[3]。

参考文献

  1. Romero, N. A.; Margrey, K. A.; Tay, N. E.; Nicewicz, D. A. Science 2015, 349, 1326. DOI: 10.1126/science.aac9895
  2. McManus,J. B.; Nicewicz, D. A. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 2880. DOI: 10.1021/jacs.6b12708
  3. Eberson, L.; Hartshorn, M. P.; Persson, O.; Radner, F. Chem. Commun. 1996, 2105. doi:10.1039/CC9960002105

cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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