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スポットライトリサーチ

無機物のハロゲンと有機物を組み合わせて触媒を創り出すことに成功

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第449回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(椴山グループ)5年一貫制博士課程4年の大石 峻也 さんにお願いしました。

2021年のノーベル化学賞の受賞テーマである有機分子触媒や、有機金属触媒の研究開発が盛んに報告されていますが、今回ご紹介するのは、非金属錯体触媒です。今回開発に成功したハロニウムX+と窒素系配位子からなる非金属錯体触媒は、含窒素化合物の脱芳香環化反応において高い触媒活性を示し、また触媒のメカニズムについても解明されました。本成果は、iScience 誌 原著論文およびプレスリリースに公開されています。

Three-Center-Four-Electron Halogen Bond Enables Non-Metallic Complex Catalysis for Mukaiyama-Mannich-Type Reaction
Oishi, S.; Fujinami, T.; Masui, Y.; Suzuki, T.; Kato, M.; Ohtsuka, N.; Momiyama, N. iScience, 2022, 25, 105220. DOI: 10.1016/j.isci.2022.105220

研究室を主宰されている椴山 儀恵 准教授から、大石さんについて以下のコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

今回プレスリリースした研究成果は、私の当初の想定を遥かに超えるものでした。学部時代に錯体を扱ってきた大石君と錯体化学で学位を取得した藤波さん(当時博士研究員)の協同による最高傑作です。空気中で安定に取り扱えるのに、なぜか500ppmの触媒量で反応を1時間以内に完結させてしまうほど高活性。この疑問にものの見事に答えてくれたのが大石君でした。大石君の緻密な検証実験は、開発した錯体触媒の挙動を解明し、触媒駆動力として三中心四電子ハロゲン結合の新たなページを拓いてくれました。大石君の今後の活躍を確信しています!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

今回の研究では、一価ハロゲンであるハロニウムに対して有機配位子と対アニオンを組み合わせた非金属錯体触媒を開発しました。開発した触媒は非常に高い触媒活性を示し、また、分光学的手法や計算科学の力を借りることで、触媒サイクルにおいてハロニウムの特異な性質が重要であることを見出しました。

図1. 非金属錯体触媒[N···X···N]Yのデザイン

精緻なデザインに基づいた分子性触媒の開発は、医薬品候補化合物や機能性材料の迅速供給を実現する重要な研究課題とされています。金属に有機配位子を組み合わせた有機金属触媒や、金属を含まない有機触媒を主として、これまでに数多の分子性触媒が創出されてきました。有機金属触媒は高い触媒活性や多様な高難度反応を実現する一方で、環境への負荷が懸念され、有機触媒は環境調和性に優れるものの、一般に多量の触媒量が必要とされます。すなわち両者はその特性において相補的な関係にあり、それらの弱点を補強する新たな分子性触媒のデザインが求められています。

私たちは、新たな分子性触媒の開発に向けて、一価ハロゲンであるハロニウム(X+: I+ or Br+)に着目しました。ハロニウムは三中心四電子結合により2つの電子豊富な化学種と相互作用を形成することが知られています。しかしながら、その性質を触媒設計に、そして触媒反応の駆動力に活用する試みはこれまでになされていません。

ハロニウムを触媒化学へと展開するため、窒素系配位子と対アニオンを組み合わせた非金属錯体[N···X···N]Yを触媒としてデザインしました。合成した[N···X···N]Yを含窒素化合物の脱芳香環化反応に適用したところ、非常に高い触媒活性を示すことを見出しました。また、種々の対照実験や分光分析、量子化学計算を行い、ハロニウムの形成する三中心四電子結合が反応駆動の鍵となっていることを明らかにしました。

図2. [N···X···N]Yが駆動する含窒素化合物の脱芳香環化反応

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

触媒サイクルの推定過程に思い入れがあります。触媒のダイナミックな構造変化を追うために、少しずつデータを集め、考察するステップは、触媒化学の醍醐味なのではないかと思っています。本触媒系についても、初めは[N···X···N]+がこのままルイス酸として機能している可能性を考えていましたが、1H NMR滴定実験によりどうやら反応素過程において配位子交換が起きていることが見えてきました。それらを確かにするため、触媒中間体の合成を検討したり、配位子交換の結合形成過程のエネルギーを量子化学計算により確認したりと、多種多様な方面から触媒をじっと見つめてきました。長くかかりましたが、その過程において「このような系ではどうだろうか?」「触媒をこうチューニングすればさらに良くなるのではないだろうか?」と、連結した思索が楽しめるのは良い経験だったと思います。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

やはり、先と同じで触媒サイクルの推定過程にあります。たとえ我々が納得していたとしても、reviewerを納得させなければならない、万全の布陣を構えなければならないことがとても難しいところでした。特に、三中心四電子結合が反応を駆動していることは、なかなか確かな証拠を提供することができず苦労しました。最終的には、名古屋大学化学測定機器室の斎藤進教授、尾山公一博士にご支援いただき、CSI-MS1を測定することで、触媒サイクルの妥当性を裏付ける最後のピースがはまったと考えています。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

本研究を通じて、私はこれまでに新規な触媒をデザインし、その機能の開拓に努めてきました。うまくいかないときには、原因を突き止め、改善する。その繰り返しをおこなってきました。ここに悦楽を見出してきたのです。抽象すればこれは、自分の作ったものが、自分の思い通りに機能する、という達成感だったのかもしれません。今後も、このような達成感を得られる環境に住みたいとぼんやりながら想像しています。具体的なパスはまだ決まっていませんが、化学のドメイン知識を武器として、専門外のところに飛び込んで行きたいと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

モームはその著書において「作家たるものは、創作の喜びと思索の重圧からの解放にのみ報酬を求めるべきであって、評判の良し悪しや売れ行きの多寡には無関心でいなければならない」2と残しています。これは、アカデミアにおいても同様であり、研究者はその内包された精神を利己的に保ち続けるべきなのではないかと、ややラディカルではありますが私個人としてはそう考えています。思索に思索を重ねた結果を–––ときには一生涯の思索の成果を–––技術として、あるいはよく練られた文章として表現するということ。それ以外から無関心であり続けるという姿勢からのみ生まれる学理があるように思うのです。

最後になりますが、本研究を遂行するにあたりご指導いただきました椴山儀恵准教授、同研究室の皆様、鈴木敏泰博士、名古屋大学物質科学国際センター斉藤進教授、尾山公一博士にこの場を借りて熱く御礼申し上げます。

研究者の略歴

名前:大石 峻也 (おおいし しゅんや)
所属:総合研究大学院大学 物理科学研究科 機能分子科学専攻 /自然科学研究機構 分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域 錯体触媒研究部門 椴山グループ 5年一貫制博士課程
略歴:
2019年3月 名古屋大学 理学部 化学科 卒業
2019年4月~現在 総合研究大学院大学 物理科学研究科 機能分子科学専攻 5年一貫制博士課程

関連リンク等

  1. CSI-MS: コールドスプレーイオン化質量分析法。非常に温和な条件でイオン化をおこなえる質量分析法の一種。(リンク)
  2. 光文社『月と六ペンス』Somerset Maugham 土屋政雄訳 より

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大学院生です。ケモインフォマティクス→触媒

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