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UiO-66: 堅牢なジルコニウムクラスターの面心立方格子

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UiO-66 は六核ジルコニウムオキシクラスターを SBU に持ち、高い熱安定性 · 化学安定性を示す構造体です。配位子を伸長させても構造体が構造体の安定性が低下せず、修飾された配位子でも比較的容易にMOFを形成できるため、合成後修飾の下地にしやすいMOFです。

歴史的重要性: 熱的/化学的に安定なMOF

MOF は他のゼオライトやCOF, PAF と比べると、高い結晶性や高い構造設計性を有しますが、熱安定性や化学安定性が低い傾向があります。その理由は、金属-配位子間の結合が比較的弱く、金属-配位子結合の開裂によって、構造体が崩壊してしまうからです。したがって、強い金属-配位子結合をもつような強固な金属クラスターをMOFの二次構造単位 (SBU) にすることは、従来よりも堅牢なMOFの開発に貢献できます。

Lillerud らは、親酸素的で高酸化数の前周期遷移金属元素である Zr4+ を金属に用いることで、強固なSBUをもつMOFを開発できると考えました。そこでZrCl4p-ベンゼンジカルボン酸 (H2bdc: bdc = benzene-1,4-dicarboxylate) の DMF 溶液を 120 °C に加熱したところ、立方体の無色結晶性粉末が得られました1

図1. UiO-66 の合成.

この生成物は、真空加熱引きにより溶媒を取り除いても構造が崩壊することはなく、高い安定性を示しました。熱分析によると540 °C 付近まで大きな重量損失が見られず、さらにその温度ではベンゼンが分解物として生じることが確かめられました。これは、重量損失が起こった温度で配位子中のベンゼン-CO2 結合が開裂したことを暗示し、熱分解が金属-配位子結合を起点としていない可能性を示唆します。ベンゼン-CO2 結合が開裂によって構造体が崩壊していたならば、その分解温度は事実上カルボキシレート系MOFの耐久温度の上限であるといえます。

Lillerud らはZrCl4 とH2bdcにより得られたこの構造体を、所属研究機関 University of Osloの適当な文字をとって UiO-66 と名付けました (66の由来は、私が調べた限りUiO-66の初めの報告には記載されていませんでした)。

ちなみにUiO-66の報告以降も熱的/化学的に安定なMOFの開発は進んでおり、とくにピラゾールやトリアゾールなどのアゾール系配位子から合成されるMOFも高い耐久性を示すことが知られています。

SBU: Zr を頂点に持ちカルボキシレートを辺に持つ八面体

UiO-66 の二次構造単位はジルコニウム六核クラスター Zr6(OH)4(O)4(O2C)12 です (図2a)。このクラスターは、Zr を頂点に持つ八面体とみると理解しやすいです。その八面体では、OH あるいは O が八面体の面を占めており (図2b)、カルボキシル基(O2C)が八面体の辺を構成しています (図2c)。それぞれのZrは八配位正方アンチプリズム構造を取っています (図2d, e)。

図2. SBU をいろいろな方法で表した図. 八面体の面に O か OH が存在し、上のChemDraw構造式では O の面と OH の面が交互に配置しているように書いていますが、実際にはOとOHがどのような配置しているかはわかりません. 黄色はジルコニウム, 赤は酸素, グレーは炭素を表します.

なお、構造体を250 °C近くまで加熱して真空引きすると、4つの OH 基が脱水し、2分子のH2Oが脱離して2つのO2-が残ります。もともと 4つのO2-が存在したので脱水後のSBUの組成は Zr6O6(O2C)12 になります。

図3. SBUの脱水反応. 上の構造では, 対称性を考慮して, 八面体の向い合う面のO原子が水として脱離するように書きましたが, 実際にはどの面のOが脱離するかわかりません.

UiO-66の報告以降、同様のZr6クラスターを持つMOFは多数報告されています。文献2 のレビューを参照.

MOFの構造: SBU が面心立方格子を形成

このクラスター1つ辺りには12つのカルボキシレート基が存在することは、このSBUは12配位のユニットであることを意味します。単純な金属原子が最密充填すると12配位になることを思い出しましょう。UiO-66において、ジルコニウムクラスターは面心立方格子 (立方最密充填) 状に配列しているのです。

図4. UiO-66 の単位格子を正面から見た図(左)と少し斜めに見た図(右). 立方体のそれぞれの頂点と面にSBUが存在します.

最密充填構造が2種類の間隙 (四面体間隙と八面体間隙)を作るのと同様に、UiO-66は2種類のケージ (四面体ケージと八面体ケージ)を作ります。

図5. UiO系のMOFにおいて二種類の孔が存在することを示した図. ここでは, 図の見やすさを考慮して, 長い配位子をもつ UiO-67 (後述) の図を示しています. 黄色い球は八面体ケージの孔を表しており, オレンジの球は四面体ケージの孔を表しています.

図6. 八面体ケージと四面体ケージをいろいろな角度から見た図.

類似構造体

UiO-66 と同様の構造体は配位子のベンゼン環を伸長しても構築できます。特にビフェニレンジカルボン酸 (H2bpdc) やトリフェニレンジカルボン酸 (H2tpdc) から合成される構造体はUiO-66と同時に報告され、それぞれUiO-67 および UiO-68 と命名されており、ベンゼン環の数が増えるにしたがって一桁目の数字がUiO-66から一つずつ増える規則があります。ただし, テトラフェニレンジカルボン酸からもUiO型の構造体が報告されているものの、対応するMOFをUiO-69と呼んでいる文献は筆者の知る限り見たことありません。

図7. UiO-66, 67, 68 の比較.

例えばアミノ基やブロモ基などの置換基で修飾された H2bdc 配位子3 や4,4’-ビピリジン-1,1’-ジカルボン酸 (H2(bpydc): bypdc2- = 4,4’-bipyridine-1,1’-dicarbocylate)4 を用いても類似構造体を合成可能です。ベンゼン環を3つ繋いでも構造体が相互貫入することがなく、化学的、熱的に安定で高い空隙率を持つ構造体を合成できるため、合成後修飾の下地としてUiO系の構造体はファーストチョイスといえます。

性質: 配位子欠如欠陥が多い

上で「1つのSBUあたりには12つのカルボキシレート基が存在する」と書きましたが、これは必ずしも1つのSBUに12つの配位子が配位していることを意味しません。というのも、UiO系構造体において配位子欠如による欠陥が頻繁に見られるのです5,6。UiO 系構造体の合成において、結晶性を高めるために添加剤として酢酸や安息香酸を加えることがあります(下の合成の項目も参照)。それらの添加剤が、SBUに配位したままMOFが形成されることで、配位子欠如の欠陥が生まれるのです。

図8. SBU のカルボキシレート部位に, 配位子ではないカルボキシレートが配位すると配位子欠如欠陥が生まれます.

どの程度配位子が欠如しているかは、添加剤として加えたモノカルボン酸の量などに依存します5。配位子欠如の程度によって、孔体積5はもちろん、触媒活性7なども変調されるため、欠陥を制御することは構造体の物性の制御に直結します。

応用1 : Post-synthetic Modification を利用した触媒開発

MOF を合成後に、配位子を交換したり、配位子の反応性部位に官能基変換の化学を適用したりすることでMOFを修飾する手法を合成後修飾 Post-synthetic modification といいます8。Post-synthetic modification には、合成後配位子交換、合成後金属交換、合成後変換、合成後メタル化などがあります。UiO 系のMOFは、合成後配位子交換や合成後メタル化のための基質に用いらることが多々あります。

配位子交換 Post-Synthetic Ligand Exchange

一度合成されたUiO-66を別のp-ベンゼンジカルボン酸 (H2bdc) 誘導体の溶液に浸すと、MOF中のbdc2-リンカーと溶液中のbdc2- 誘導体が交換して、MOF中に官能基化されたbdc2-を導入できます9。この手法はH2bdcとH2bdc誘導体を混合して直接MOFを形成させることができない場合にも有効であり、MOFの修飾の可能性を大幅に広げました。(ただし筆者の個人的な印象としては、合成後配位子交換は宣伝されているほどきれいに進行しません。)

図9. 配位子交換により鉄チオラート錯体をUiO-66に導入した例.9

合成後メタル化 Post-Synthetic Metalation

キレート性の官能基を持つ配位子を用いてMOFを合成し、そのMOFを金属塩や金属錯体の溶液に浸すことで、キレート性官能基に金属を錯形成することができます。そのような手法を合成後メタル化 post-synthetic metalation といい、UiO系のMOFは、熱的にも化学的にも安定であり、さらに孔が大きいMOFを比較的合成しやすいため、合成後メタル化に利用しやすいです。

例えば 4,4’-ビピリジン-1,1’-ジカルボン酸 (H2(bpydc): bypdc2- = 4,4’-bipyridine-1,1’-dicarbocylate) を配位子にして合成される UiO-67 型の構造体 UiO-67-bpydc は、合成後メタル化の骨格として利用されます10-13, 15,16。具体的には Ru錯体をビピリジン部位にキレートさせて、そのRu錯体を光触媒に利用した事例が報告されています16。注目すべきことは、Ru錯体を導入するために、あらかじめ錯形成させた [Ru(bpy)2(H2bpydc)]2+ を使ったMOFの直接合成12や合成後配位子交換をするよりも、合成後メタル化を用いる方が Ruの導入率が高くなることです。RuのほかにもPd13, Ir10 などを導入して触媒活性を評価した報告があります。

図10. UiO-67-bpydc の構造とUiO-67-bpydcの合成後メタル化の例.16

UiO-67-bpydcの合成後メタル化が定量的に進行すると、MOFの対称性が低下するために空間群が変化することも報告されています10。そのような空間群の変化は粉末X線回折 PXRD でも容易に確認できます。

図11. UiO-67-bpydcを定量的にメタル化すると, 結晶構造の対称性が崩れます. 左の図を見ると, 例えば鏡映面が崩れていることが分かります. 結晶構造の対称性が崩れると, 回折の系統的消失条件 (systematic absence conditions) がなくなるため, より多くの回折ピークが見られます. 右の図はメタル化前のUiO-67-bpydcとメタル化後の粉末X線回折パターンです. メタル化後には, オレンジの線で示した部分に新たなピークが観測されています. 図は文献10から少し改変して引用.

多くの合成後メタル化の報告では、誘導結合プラズマ発光分析ICP-OESで二次金属種の導入率を見積もるのみで、PXRDパターンの変化を観測している報告は筆者の知る限り多くありません。UiO系のMOFは、SBUにOH基があったり、欠陥が多かったりするので、たとえICP-OESで二次金属種の導入が確認できたとしても、きちんとキレート性配位子にキレートされているかは保証できません。つまり、二次金属種がSBUに担持されている可能性もあるのです14。メタル化されたMOFのキャラクタリゼーションや触媒能の評価には注意が必要です。

応用2: 単層金属ハライドシートの形成15

UiO-67-bpydc を金属ハライドの溶液に浸し十分な時間放置すると、金属ハライドがビピリジン部位にキレートされた後、さらに金属ハライドが成長することでUiO-67のケージ内に単層の金属ハライドシートが形成します。MOF内で成長したハライドシートは、結晶学的にも構造決定され、さらに単層の金属ハライドシートはバルクの金属ハライドとは異なる磁気特性を示すことが報告されています。これはMOFの孔のサイズや構造を用いて、無機クラスターの精密合成ができる可能性を示しています。

図12. UiO-67-bpydc へのメタル化による単層ハライドシートの形成. 図は文献15から抜粋.

合成法: UiO-67 の合成10

H2bpdc (3.03 g, 12.5 mmol) 、安息香酸 (125 g, 1000 mmol) 、撹拌子を2L 三口丸底フラスコに加え、新しく開けたボトルのN,N-ジメチルホルムアミド (DMF) に溶かす。溶液に乾燥窒素を 30分間吹込みガス抜きする。ZrCl4 (2.96 g, 22.8 mmol) を加えて、さらに 30 分間窒素ガスを吹き込む。 蒸留水 410 μL を加え、混合物を窒素雰囲気下で120 °C , 5日間加熱攪拌する。5日後、反応混合物を室温に覚まし、上澄み液をデカンテーションにより取り除く。無色粉末を洗浄するためにDMFに浸し、120 °C で24時間加熱する。3度のDMF洗浄後、ソックスレー抽出を用いて、テトラヒドロフラン (THF) で3日間洗浄してDMFを取り除く。その後、不活性雰囲気下で粉末をろ過し、120 °C で真空加熱引きすることで、THFを取り除く。

  • 安息香酸はモジュレーターとして機能します。すなわち、モジュレーターは配位子と競合して金属に配位/解離を繰り返すことで、結晶の成長速度を遅くし、結晶性が高いMOFを与えます
  • SBUにOH基が存在するため、少量の水が必要です。ただし溶媒の湿気具合が生成物の結晶性に影響するため、上記の方法では新しく開けたボトルの溶媒を使用しています。水はDMFの加水分解を促進して、ジメチルアミンとギ酸を生じるのです.
  • 上述の手順は量論をそのままで配位子をH2bpdcからH2bpydcに変えることで、UiO-67-bpydc を与えます。

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参考文献

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PhD候補生として固体材料を研究しています。学部レベルの基礎知識の解説から、最先端の論文の解説まで幅広く頑張ります。高専出身。

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