[スポンサーリンク]

一般的な話題

低分子医薬に代わり抗体医薬がトップに?

[スポンサーリンク]

GREEN084.png

低分子医薬アトルバスタチン(リピトール)の特許切れのニュースが2011年11月末にありました(参考:リピトールの特許が切れました)。今月、効果は同じで低価格である後発医薬品(ジェネリック医薬品)承認、発売間近であるというニュースも報道されています。世界で最も売られていたアドルバスタチンも、ついに売上高を減らしていくこととなります。

一方で、世界銘柄別売上上位30品目には、リツキシマブ・トラスツズマブ・ベパシズマブ・インフリキシマブ・アダリムマブと「~マブ」という名称が多くみられます。これらは抗体医薬と呼ばれ、分子の構造を書き表すことができる低分子医薬品とは少し異なります。売上の観点からお話ししますと、関節リウマチ治療薬のアダリムマブ(ヒュミラ)は、Evaluate Pharma社の予測によると、この調子で売上を伸ばせば、2016年に世界医薬品売上ランキングの王座を獲得するとかしないとか。

ケミストリーで生産した医薬品から、バイオで生産した医薬品へ、新薬開発の主戦場はどうなるのか。「抗体医薬って何?」というおはなしをしましょう。
  • あなたはどのような根拠であれば信じることができますか

人類は古くから、万病を治癒し、老化にあらがい、健康に生活し、長寿をみちびく方法を模索してきました。あるときは神に祈り、あるときは効果がありそうなものを手当たり次第に試し、願いを叶えようとしてきました。たまたま治ることもあれば、現在の医学から見れば逆効果のことをして悪化させることもしばしばでした。

GREEN081.png

くすり候補の探し方は、それらしいものをたくさんの人で試して、とくに効果の高い方法を伝承する。基本となるアプローチは今も同じです。ただ薬効のそれらしい根拠が異なるだけです。

太古の例 :

「希少動物Aは長生きで200年くらい生きるからその肉を食べれば長寿になるような気がする」

現在の例:

「遺伝子産物Bはとある疾患に関与するから直接に相互作用する分子で機能を制御すれば治療が可能なはずだ」

世界中の鉱物・生物・土壌はかつてそれらしいもの探しが網羅的に行われています。アオカビから単離されたスタチンのなかまもそうして見つかったひとつです。天然物に由来するこれらの化合物は、体内に取り込まれやすくする・副作用を減らす・品質を保持しやすくするなどの目的で化学構造を改良の上、現在、医薬品として使われています。スタチンのなかまのうち、最も使用されている高脂血症治療薬が、先に紹介した2011年に特許切れを迎えたことにより、これからトップの座をあけ渡すことになるだろうアドルバスタチン(リピトール)です。体内ではコレステロールを生合成する反応の1つを触媒するヒドロキシメチルグルタリル補酵素A還元酵素と呼ばれる遺伝子産物を標的とします。

アドルバスタチンは天然物化学の系譜をもってリード化合物が見つかった医薬でした。おおよその見当をつけて化合物スクリーニングし、結果としてとある遺伝子産物の機能を制御して治療が可能になったというわけです。

GREEN2011antibody1.png

スタチンと標的タンパク質の構造.Protein Data Bankより結晶構造解析データを出力

  • 抗体医薬は対タンパク質の最強奥義

一方で、遺伝子産物としてタンパク質分子の機能を扱う分子生物学は、異なったアプローチにより医薬に貢献してきました。とある遺伝子産物の機能を制御できれば治療法になるのに、というところまで分かっているケースはしばしばあります。しかし、標的の遺伝子産物と結合するちょうどよい化合物がなければ、なかなか次のステップには移れません。そういったケースは、たいてい治療法が確立しておらず、不治の病と呼ばれる難病ばかりです。

このようなケースで注目されるアプローチのひとつが、抗体医薬です。トップの座を近いうちにとるとされるアダリムマブ(ヒュミラ)も抗体医薬のひとつです。抗体医薬は、ガンや免疫疾患など細胞の社会で交わされるコミュニケーションに不調をきたした病気で、とくに高い実績を上げつつあります。アダリムマブも、自己免疫疾患のひとつである関節リウマチの治療薬です。

世界中を探しても、コンピューターでシミュレーションしても、目的の遺伝子産物とちょうどよく結合する化合物がなかなか見つからない。それならば、動物本来の災厄を逃れる機能を活用して、それらしい医薬品候補を作成しましょう、というわけです。

抗体とは動物が作るタンパク質のひとつです。基本の構造としてはアルファベットの「Y」のようなかたちをしています。Y字の根本部分はおよそ共通していて、Y字の二又部分は抗原に合わせてたくさんの種類があります。病原体が動物の体内に侵入し、自己ではなく他者であると認識すると、ある種のリンパ球がそれぞれ抗体を作り始めます。抗原と直接に結合するかもしれない抗体の候補がたくさん作られ、その中から目的の抗体を作るリンパ球が選ばれ、増殖し活躍を始めます。

GREEN2011antibody2.png

Y字型をした抗体タンパク質の構造.Protein Data Bankより結晶構造解析データを出力

毒ヘビにかまれたときの血清療法も、毒素と結合する抗体をウマなどの動物に作ってもらったものです。抗体医薬の源流はここにあります。世界中を探さなくても、機能を制御したい分子と直接に結合する抗体を、実験室で作成できるという点がポイントです。 *補足1

アダリムマブの場合、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor)として研究が始まったTNF-αと呼ばれるタンパク質を標的とします。TNF-αタンパク質は、細胞どうしでコミュニケーションし情報をやりとりするためにマクロファージなどの免疫細胞が分泌するサイトカインの1つです。関節リウマチでは、しばしばTNF-αタンパク質が過剰に分泌され、信号のやりとりがおかしくなっています。アダリムマブはTNF-αタンパク質を抗原として結合するように作られた抗体です。アダリムマブはTNF-αタンパク質の機能を阻害することで効果を発揮します。 *補足2

GREEN2011antibody3.png

TNF-αタンパク質の構造.Protein Data Bankより結晶構造解析データを出力

 

注目の抗体医薬ですが、タンパク質を扱うゆえの弱点があります。方法さえ確立できれば比較的安価に化学合成できる低分子医薬と異なり、抗体医薬では細胞にタンパク質を作らせてそれを精製しなければなりません。また、飲み薬にすることは難しく、痛い思いをしても注射しなければなりません。

そのため、抗体医薬は難病の治療薬にはなっても、風邪薬にはならないでしょう。しかし、新薬開発の主戦場が難病にシフトしている現状を考えると、抗体医薬の重要さはまだまだ増していくと予想されます。

ただ抽出するだけ、ただ単離するだけ、ただ構造を決めるだけ、ただ合成するだけ。ただそれだけで終わるアプローチで、従来のように天然物を扱っていても、難病を打開するリード化合物はなかなか見つからなくなってきています。一方、機能を制御したい標的と直接に結合する分子を、自在に作る抗体医薬のアプローチは、力を増していくと考えられます。

 

さて、ここまではタンパク質としての抗体の性質が鍵でしたが、次からはプラスアルファの化学構造が鍵となる話題を紹介したいと思います。ここまでで長くなってしまったので、また次の機会にしましょう。

化学と生物学が交差するとき物語は始まる 


*補足1

実際には、実験動物に抗原を注射して抗体を抽出するのではなく、単一で質が安定し、ヒトに投与しても他者と認識されない抗体を作るため、さらにいくつか工夫がほどこされます。

*補足2

実際には、関節リウマチの原因と症状はもっと複雑です。かみくだいて書かれた記事ではなく、医療専門家の助言を第一に考えてください。

 


  • 関連書籍

  • 関連ニュース

・印ランバクシー、米国で「リピトール」のジェネリック版発売へ(ロイター
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPTYE7B005220111201

・リピトールの特許が切れました(ケムステニュース

http://www.chem-station.com/chemistenews/2011/12/post-697.html

 ()

)((((((((

Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 多置換ケトンエノラートを立体選択的につくる
  2. 近況報告PartIV
  3. タンパク質リン酸化による液-液相分離制御のしくみを解明 -細胞内…
  4. ルドルフ・クラウジウスのこと① エントロピー150周年を祝って
  5. 世界初の金属反応剤の単離!高いE選択性を示すWei…
  6. 第23回日本蛋白質科学年会 企画ワークショップ『反応化学の目から…
  7. Carl Boschの人生 その4
  8. 創薬におけるPAINSとしての三環性テトラヒドロキノリン類

注目情報

ピックアップ記事

  1. 水入りフラーレンの合成
  2. 偏光依存赤外分光でMOF薄膜の配向を明らかに! ~X線を使わない結晶配向解析
  3. 化学者がコンピューター計算を行うべきか?
  4. グレッグ・ウィンター Gregory P. Winter
  5. トロンボキサンA2 /Thromboxane A2
  6. 研究室でDIY!~光反応装置をつくろう~
  7. 大鵬薬品、米社から日本での抗癌剤「アブラキサン」の開発・販売権を取得
  8. 危険ドラッグ:創薬化学の視点から
  9. 今年も出ます!サイエンスアゴラ2014
  10. ピナー ピリミジン合成 Pinner Pyrimidine Synthesis

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年12月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

条件の「前後」も実験条件である【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

そのpH、“本当にその場所”の値ですか?ニードル式pHセンサーを使ってみた!

突然ですが、「培養の再現性がなんか悪い」「同じ条件のはずなのに結果がズレる」といった経験はあ…

「骨格編集」×「ナノカーボン合成」〜ナノカーボン合成の新戦略を実証〜

第719回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(忍久保研究室)博士後期課程2年の平…

【書評】立体化学 はじめの一歩

立体化学は,分子の三次元構造を理解するための重要な分野であり,有機化学や…

水のシミュレーション入門 — 水分子を計算機の中でどう”描く”か —

身近なのに、計算機にとって手強い"水"。本記事では、点電荷モデルから機械学習まで、その"描き方"の進…

◆◇◆◇ 第36回フォーラム・イン・ドージン開催のご案内 ◆◇◆◇

同仁化学研究所が熊本から世界へ情報発信するフォーラム・イン・ドージンの開催ご案内です。今年は『な…

『力』による円偏光発光のon/off制御を単一分子レベルで実現

第718回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 物質理工学院(相良研究室)博士後期課程2年の野中…

数日かかっていた反応機構解析を、わずか数分に!

機械学習ポテンシャルが変える計算化学の現在近年、DFT計算による反応機構解析は広く行われるよ…

海外ポスドクのオファーをもらう【アメリカで Ph.D. を取る: 進路編】

ポスドクとして海外に留学する場合、希望する研究室の教授に直接連絡を取り、面接などを通して適性を判断さ…

MDで観るトライボロジー 〜原子が擦れるその場をシミュレーション〜

軽くて強いのに摩耗に弱いチタン合金は、航空機や人工関節に広く使われています。原子が擦れ合うその場を分…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP