[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

C–C, C–F, C–Nを切ってC–N, C–Fを繋げるβ-フルオロアミン合成

[スポンサーリンク]

パラジウム触媒を用いた、アジリジンの二官能基化によってβ-フルオロアミンが合成された。β-フッ素脱離およびフッ素の配位子移動によるアジリジンの開環が鍵である。

アジリジンの二官能基化によるβ-フルオロアミンの合成

β-フルオロアミンは、フッ素の導入に伴い塩基性、pKaが調整でき、薬理活性の向上につながることから創薬分野で興味関心が高まっている構造の一つである。例えばメルク社が開発した抗がん活性をもつMK-0731では、アミンβ位にフッ素を導入することで活性が向上し、さらに副作用が低減した(図1A)[1]。β-フルオロアミンの合成法の一つとして、アジリジンの開環を伴う手法が知られる(図1B)[2]。しかし、この手法ではTBAFやXtalFluor-E®などのフッ素化剤を過剰量必要とし、原子効率が低い課題があった。

一方で、パラジウムなどの遷移金属触媒によるgem-ジフルオロシクロプロパンの開環型置換反応が近年多く研究されている[3]。この置換反応では、まずgem-ジフルオロシクロプロパン1のC–C結合がパラジウムに酸化的付加することでパラダシクロブタン2を形成する。その後、β-フッ素脱離によりアリルパラジウム3が生成し、これの求核置換反応を経てフルオロアルケン4が得られる(図1C)。今回、華東師範大学のLiu教授らは、1の開環型置換反応で求核剤にアジリジン5を用いれば、1が炭素官能基化剤兼フッ素化剤として作用し、5のカルボフッ素化によってβ-フルオロアミン7が合成できると考えた(図1D)。すなわち、アリルパラジウム3にアジリジン5が反応して生じたアンモニウム中間体6に対し、切断したフッ素を“再利用”して開環できれば、高原子効率のβ-フルオロアミン合成法になると考えた。

図1. (A) β-フルオロアミンをもつMK-0731 (B) アジリジンの開環反応 (C) gem-ジフルオロシクロプロパンの開環反応 (D) 本研究

 

“Palladium-Catalyzed Fluorinative Bifunctionalization of Aziridines and Azetidines with gem-Difluorocyclopropanes”

Li, D.; Shen, C.; Si, Z.; Liu, L. Angew. Chem., Int. Ed. 2023, 62, e202310283.

DOI: 10.1002/anie.202310283

 

論文著者の紹介

研究者:Lu Liu (刘路) (研究者情報)

研究者の経歴:

2001                                                    B.S., East China Normal University, China (Prof. Ye Liu)
2001–2005                                       Teacher, Sichuan Leshan No.2 Middle School, China
2005–2010                                       Ph.D., East China Normal University, China (Prof. Junliang Zhang)
2010–2013                                       Postdoc, Miami University, USA (Prof. Hong Wang)
2013–2016                                       Associate Professor, East China Normal University, China
2016–                                                  Full Professor, East China Normal University, China

研究内容:ジアゾ化合物を用いたC–H官能基化、キラルホスフィン触媒の開発と応用

 

論文の概要

著者らはトルエン中Pd2(dba)3およびtBu-XPhos存在下、gem-ジフルオロシクロプロパン1とアジリジン5を120 °Cで反応させることで、β-フルオロアミン7が得られることを見いだした(図2A)。また、7のアルケンに関しては、Z体が選択的に得られる。この反応ではアジリジンにシクロペンタン(n = 1)、シクロヘキサン(n = 2)、シクロヘプタン(n = 3)が縮環した化合物5が適用でき、対応するβ-フルオロアミン7a7cを与えた。また、インドリルやベンゾフリル基をもつ1も反応し、7dおよび7eを良好な収率で与えた。なお、本反応ではアゼチジンも反応でき、対応するγ-フルオロアミンが得られる (論文参照)。

推定反応機構に関しては、図1C, Dに示したように、まずgem-ジフルオロシクロプロパン1の酸化的付加と続くβ-フッ素脱離によってアリルパラジウム3が生成する。その後、アジリジン5が付加しアンモニウム中間体INT2となる。これ以降の反応機構で、パラジウムに配位したフッ化物イオンの配位子移動(path I)と、金属から解離したフッ化物イオンがSN2型でフッ素化する経路 (path II)の二つが考えられる (図2B)。DFT計算の結果、それぞれの経路の活性化エネルギー差(⊿⊿G)を比較すると、path Iが6.7 kcal/mol有利であることがわかった。

図2. (A) 基質適用範囲 (B) 推定反応機構とエネルギー計算値 (kcal/mol)

以上、著者らはgem-ジフルオロシクロプロパンを用いたアジリジンの二官能基化によるβ-フルオロアミンの合成法を開発した。2つの環を開いてカルボフッ素化する新規形式の反応である。

参考文献

  1. (a) Purser, S.; Moore, P. R.; Swallow, S.; Gouverneur, V. Fluorine in Medical Chemistry. Chem. Soc. Rev. 2008, 37, 320–330. DOI: 10.1039/b610213c (b) Morgenthaler, M.; Schweizer, E.; Röder, A. H.; Benini, F.; Martin, R. E.; Jaeschke, G.; Wagner, B.; Fischer, H.; Bendels, S.; Zimmerli, D.; Schneider, J.; Diederich, F.; Kansy, M.; Müller, K. Predicting and Tuning Physicochemical Properties in Lead Optimization: Amine Basicities. ChemMedChem 2007, 317, 1881–1886. DOI: 10.1002/cmdc.200700059 (c) Cox, C. D.; Coleman, P. J.; Breslin, M. J.; Whitman, D. B.; Garbaccio, R. M.; Fraley, M. E.; Buser, C. A.; Walsh, E. S.; Hamilton, K.; Schaber, M. D.; Lobell, R. B.; Tao, W.; Davide, J. P.; Diehl, R. E.; Abrams, M. T.; South, V. J.; Huber, H. E.; Torrent, M.; Prueksaritanont, T.; Li, C.; Slaughter, D. E.; Mahan, E.; Fernandez-Metzler, C.; Yan, Y.; Kuo, L. C.; Kohl, N. E.; Hartman, G. D. Kinesin Spindle Protein (KSP) Inhibitors. 9. Discovery of (2S)-4-(2,5-Difluorophenyl)-N-[(3R,4S)-3-Fluoro-1-Methylpiperidin-4-yl]-2-(Hydroxymethyl)-N-Methyl-2-Phenyl-2, 5-Dihydro-1H-Pyrrole-1-Carboxamide (MK-0731) for the Treatment of Taxane-Refractory Cancer. J. Med. Chem. 2008, 51, 4239–4252. DOI: 10.1021/jm800386y
  2. Fan, R. H.; Zhou, Y. G.; Zhang, W. X.; Hou, X. L.; Dai, L. X. Facile Preparation of β-Fluoro Amines by the Reaction ofAziridines with Potassium Fluoride Dihydrate in the Presence ofBu4NHSO4. J. Org. Chem. 2004, 69, 335–338. DOI: 10.1021/jo034895k
  3. (a) Xu, J.; Ahmed, E. A.; Xiao, B.; Lu, Q. Q.; Wang, Y. L.; Yu, C. G.; Fu, Y. Pd-Catalyzed Regioselective Activation of gem-Difluorinated Cyclopropanes: A Highly Efficient Approach to 2-Fluorinated Allylic Scaffolds. Angew. Chem., Int. Ed. 2015, 54, 8231–8235. DOI: 10.1002/anie.201502308 (b) Lv, L.; Qian, H.; Li, Z. Catalytic Diversification of gem-Difluorocyclopropanes: Recent Advances and Challenges. ChemCatChem 2022, 14, e202200890. DOI: 10.1002/cctc.202200890 (c) Zhu, Y.; Zeng, Y.; Jiang, Z. T.; Xia, Y. Recent Advances in Transition-Metal-Catalyzed Cross-Coupling Reactions of gem-Difluorinated Cyclopropanes. Synlett 2023, 34, 1–13. DOI: 10.1055/a-1912-3059
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. イミンを求核剤として反応させる触媒反応
  2. ご長寿化学者の記録を調べてみた
  3. 本当の天然物はどれ?
  4. 粘土に挟まれた有機化合物は…?
  5. 二核錯体による窒素固定~世界初の触媒作用実現~
  6. Spiber株式会社ってどんな会社?
  7. CSJジャーナルフォーラム「ジャーナルの将来像を考える」
  8. 有機合成化学協会誌2025年8月号:ヒドラジド・アライン・有機触…

注目情報

ピックアップ記事

  1. クラレが防湿フィルム開発の米ベンチャー企業と戦略的パートナーシップ
  2. 【山口代表も登壇!!】10/19-11/18ケミカルマテリアルJapan2020-ONLINE-
  3. レジオネラ菌のはなし ~水回りにはご注意を~
  4. 就職活動2014スタートー就活を楽しむ方法
  5. ご注文は海外大学院ですか?〜準備編〜
  6. アカデミックから民間企業への転職について考えてみる
  7. 研究者向けプロフィールサービス徹底比較!
  8. 可視光でスイッチON!C(sp3)–Hにヨウ素をシャトル!
  9. 化学系必見!博物館特集 野辺山天文台編~HC11Nってどんな分子?~ 45 mミリ波電波望遠鏡(筆者撮影)
  10. それは夢から始まったーベンゼンの構造提唱から150年

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2023年12月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

2026年「有機溶媒危機」へのアンサー。北大発・メカノクロスが挑む、溶媒に依存しない新たな合成法 = “メカノケミカル有機合成”の社会実装

株式会社メカノクロスは、メカノケミカル有機合成技術の社会実装に挑む北海道大学発の…

“壊れないよう” に作ってきた半導体ポリマーを、あえて “壊れるよう” に作る化学

半導体ポリマーは長いあいだ、「いかに壊れにくく、長持ちさせるか」といったような安定性を競って進歩して…

有機合成化学協会誌2026年7月号:固体高分子電解質・電子ドナー・アクセプター錯体・機械学習法・trichodermamide類・エナンチオ選択的スキップジエン合成法

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2026年7月号がオンラインで公開されています。…

第62回Vシンポ「見えない空気を科学する~センサによる室内環境・臭気の見える化と快適空間デザインの最前線~」を開催します!

こんにちは、Macyです。第62回Vシンポのご案内をさせていただきます。今回は、前回同様…

【協和ファーマケミカル】新卒採用情報(2028年卒)

協和ファーマケミカルが求めているのは、有機合成の知識や実験経験を身につけ、活かし…

【協和ファーマケミカル】“作れる”だけでは終わらない。原薬を安定供給へつなぐプロセス開発の研究

協和ファーマケミカルの研究開発を理解するうえで欠かせないシンボリックな化合物が、プロスタグランジン類…

協和ファーマケミカル株式会社ってどんな会社?

協和ファーマケミカルは、キリングループの一員として、トラネキサム酸やプロスタグラ…

より良い候補を、より速く。——研究者のためのAI解析環境「Multi-Sigma-Alchemy」正式リリース

「データはある。でもAIに渡せない」——その壁を壊す多くの研究現場に、こういう状況があります…

水分子のふしぎ — 四面体性が生む水の特異性 —

「水」はとても身近な液体ですが、化学の目で見ると驚くほど多くの「ふしぎ」をもっています。この記事では…

超微細孔 MOF 内の Cu(I) サイトによる強い水素吸着とその同位体効果の応用

Long らは、超微細孔質の金属–有機構造体 (MOF) に π 塩基性の配位不飽和金属サイトを導入…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP