[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

光分解性シアニン色素をADCのリンカーに組み込む

[スポンサーリンク]

 

抗体薬物複合体 (ADC: Antibody Drug Conjugate)は、タンパク質と特異的に結合できる抗体に小分子薬を接続することで、がん細胞選択的に小分子薬を作用させる分子標的薬です(図 1)。ADCは2000年代から急成長しており、既に二つの承認医薬が登場しています。

 

 

図1. a ADCの作用機序[1]. まずがん細胞特異的に発現している膜タンパク質に抗体が結合し, ADCが細胞内に取り込まれる. リソソームにADCが運ばれるとリンカーが開裂し, 小分子薬が放出される. 小分子薬は標的タンパクに結合することで生体機能を阻害し, 細胞死に導く. b FDAから承認を受けたADC (T-DM1).

図1. a ADCの作用機序[1]. まずがん細胞特異的に発現している膜タンパク質に抗体が結合し, ADCが細胞内に取り込まれる. リソソームにADCが運ばれるとリンカーが開裂し, 小分子薬が放出される. 小分子薬は標的タンパクに結合することで生体機能を阻害し, 細胞死に導く. b FDAから承認を受けたADC (T-DM1).

ケムステのADCに関する記事は以下参照。

ADCのさらなる効率向上や毒性の低減において、小分子薬を狙った場所で分離するリンカー開裂反応の開発がカギを握ります。

今回はそのような観点から、最近報告された「ADCのリンカーに対するシアニン色素の導入」について簡単にお話しましょう。

 

近赤外光で分解できるシアニン色素の開発

2014年にNational Cancer InstituteのSchnermannらは、近赤外光で分解し小分子薬を放出できるシアニン色素の開発に成功しました(図 2)。[2]

近赤外光は650-900 nmの波長域を指し、生体組織による吸収が小さいため高い浸透性(数cm程度)をもちます。

小分子薬が連結されたシアニン色素は、光照射によって1光子励起されると、酸化の付加を経てアルケンが開裂する。続いて、C4′-N結合が加水分解され、環状ウレアが生成する過程で小分子薬が放出されます。

 

図2 光分解性シアニン色素の分解機構

図2 光分解性シアニン色素の分解機構

 

ADCリンカーに組み込むと?

さらに最近、Schnermannらは、光分解性シアニン色素をADCのリンカーに組み込むことで近赤外光による小分子薬分離を初めて達成しました(図 3)。[3]

このADCは光照射されないかぎり小分子薬が放出されないため、がん細胞以外の組織への負担を低減できると考えられます。実用化にあたっては光分解性シアニン色素の化学安定性や光分解効率の向上が必要ですが、なかなかおもしろいアイデアではないかと思います。

図3. aシアニン色素への近赤外光照射によるADCの分解. b(左)赤丸は590 nmの光を照射した部位. 黒丸は光を照射しない部位. (右)腫瘍へのADC局在化を示した近赤外光イメージング. c 光照射後の近赤外光イメージング. 光照射した腫瘍のみ, シアニン色素が照射量依存的に多く分解している.

図3. aシアニン色素への近赤外光照射によるADCの分解. b(左)赤丸は590 nmの光を照射した部位. 黒丸は光を照射しない部位. (右)腫瘍へのADC局在化を示した近赤外光イメージング. c 光照射後の近赤外光イメージング. 光照射した腫瘍のみ, シアニン色素が照射量依存的に多く分解している.

 

関連文献

  1.  Chari, R. V. J.; Miller, M. L.; Widdison, W. C. Angew. Chem., Int. Ed. 2014, 53, 3796. DOI: 10.1002/anie.201307628
  2. Gorka, A. P.; Nani, R. R.; Zhu, J. J.; Mackem, S.; Schnermann, M. J.  J. Am. Chem. Soc. 2014136, 14153. DOI: 10.1021/ja5065203
  3. Nani, R. R.; Gorka, A. P.; Nagaya, T.; Kobayashi, H.; Schnermann, M. J.;Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 13635. DOI;: 10.1002/anie.201507391

 

関連書籍

bona

bona

投稿者の記事一覧

愛知で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 配位子で保護された金クラスターの結合階層性の解明
  2. 酸化グラフェンの光による酸素除去メカニズムを解明 ―答えに辿り着…
  3. 「Natureダイジェスト」で化学の見識を広めよう!
  4. 米国へ講演旅行にいってきました:Part I
  5. 光触媒で人工光合成!二酸化炭素を効率的に資源化できる新触媒の開発…
  6. 光触媒-ニッケル協働系によるシステイン含有ペプチドのS-アリール…
  7. 魔法のカイロ アラジン
  8. 「触媒的オリゴマー化」によるポリピロロインドリン類の全合成

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 金属水素化物による還元 Reduction with Metal Hydride
  2. 基礎有機化学討論会開催中
  3. 化学系ラボでSlackを使ってみた
  4. 三菱ケミカル「レイヨン」買収へ
  5. Newton別冊「注目のスーパーマテリアル」が熱い!
  6. 相田 卓三 Takuzo Aida
  7. コルベ・シュミット反応 Kolbe-Schmitt Reaction
  8. 塩谷光彦 Mitsuhiko Shionoya
  9. ガレン・スタッキー Galen D. Stucky
  10. 芳香族フッ素化合物の新規汎用合成法

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

注目情報

注目情報

最新記事

三井化学岩国大竹工場の設備が未来技術遺産に登録

三井化学はこのほど、岩国大竹工場(山口県和木町)にあるポリエチレン製造装置が、国立科学博物館により、…

【金はなぜ金色なの?】 相対論効果 Relativistic Effects

相対性理論は、光速近くで運動する物体で顕著になる現象を表した理論です。電子や原子などのミクロな物質を…

gem-ジフルオロアルケンの新奇合成法

トリフロンにグリニャール試薬を作用させるだけで多置換gem-ジフルオロアルケンの合成に成功した。フッ…

パーソナル有機合成装置 EasyMax 402 をデモしてみた

合成装置といえばなにを思い浮かべるでしょうか?いま話題のロボット科学者?それともカップリング…

湿度によって色が変わる分子性多孔質結晶を発見

第277回のスポットライトリサーチは、筑波大学 数理物質系 山本研究室 助教の山岸 洋(やまぎし ひ…

【書籍】機器分析ハンドブック1 有機・分光分析編

kindle版↓概要はじめて機器を使う学生にもわかるよう,代表的な分析機器の…

第46回「趣味が高じて化学者に」谷野圭持教授

第46回目の研究者インタビューです。今回のインタビューは第10回目のケムステVシンポ講演者の一人であ…

【山口代表も登壇!!】10/19-11/18ケミカルマテリアルJapan2020-ONLINE-

「ケミカルマテリアルJapan2020-ONLINEー(主催:株式会社化学工業日報社)」は、未来に向…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP