[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

脱芳香化反応を利用したヒンクデンチンAの不斉全合成

[スポンサーリンク]

第70回のスポットライトリサーチは名古屋大学創薬科学研究科・北村研究室道木和也さんにお願いしました。

名古屋大学の北村研究室では、触媒開発や反応メカニズムの解明に力を入れ、さらには複雑化合物合成への応用を指向した研究を行っています。今回の道木さんは海洋アルカロイドの一種である(+)-Hinckdentine Aの不斉全合成を達成しています。研究結果が名古屋大学からプレスリリースされましたので、この度のスポットライトリサーチを依頼させていただきました。

“Enantioselective Total Synthesis of (+)-Hinckdentine A via a Catalytic Dearomatization Approach”

Douai, K.; Ono, H.; Taniguchi, T.; Shimokawa, J.; Kitamura, M.; Fukuyama, T. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 14578. DOI: 10.1021/jacs.6b10237

それでは道木さんの研究内容を見ていきましょう。

Q1. 今回のプレスリリース対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

海洋性アルカロイドであるヒンクデンチンA[1]の不斉全合成を行った研究です。本化合物は3つの臭素原子に加え、インドリンと7員環ラクタム、環状アミジンが不斉4置換炭素中心を介して結合した特異な構造を持っており、不斉4置換炭素中心の構築及びブロモ基の位置選択的な導入を効率的に行うことは大きなチャレンジであることが知られていました[2, 3]
今回我々は、入手容易なインドール化合物に対する触媒的不斉脱芳香化反応を独自に見出し炭素骨格の不斉構築を行った後、転位開裂を活用した窒素原子の導入と、位置選択的なトリブロモ化の実現により、ヒンクデンチンAの初となる不斉全合成を達成しました。本合成は、独自の反応設計を基盤として効率的な合成経路を開拓することにより入手容易なインドールから14段階、8.8%収率、300-mgスケールで行うことができました(図1)。

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-11-27-20-35-19

図1

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

最も思い入れがあるのは不斉脱芳香化反応を促進する触媒を探索する過程で経験したことです。当初は一般的な不斉2座配位子を用いて検討を行っていたものの、収率、選択性ともに全く良い結果が得られませんでした。不斉単座配位子に着目し、配位子当量を増やしてアルコール溶媒を用いる条件が良いとの結論に行き着いたのは学部4年生の卒業論文提出日間際でした(図2)。卒業論文要旨提出、卒業論文提出、卒業論文発表になるにつれ、次第に収率や選択性が上がっていき、わくわくしながら実験をしていたことを思い出します。実現の困難な変換を工夫によって成功に導いたときの快感は何事にも変えがたいことを学びました。

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-11-27-20-35-31

図2

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

位置選択的なトリブロモ化における副反応の抑制が非常に困難でした。2つのアニリン性窒素官能基が互いに近い位置にあるために、目的のブロモ化以外の副反応をいかに抑え、再現性の高い実験操作を確立するかが課題になりました。反応初期段階においてはAの生成を抑制するために低温での溶解性とブロモ化反応性を兼ね備えたニトロメタンを使う工夫、また反応終了時に2-メチル-2-ブテンを用いて活性種を使い切ることでBの生成を抑制する工夫の結果、目的のトリブロモ化のみを実現しました。官能基が密集する化合物における官能基共存性や反応性制御の難しさを思い知らされました。

図3

図3

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

将来は後世に残る考え方や分子を作り上げたいと考えています。私はこれまで触媒反応開発と天然物合成に携わり、自身の想像を超えた分子変換や現象に出会うことでわくわくした日々を送ることができました。今後は、幼い頃から興味のあった医農薬化合物の研究に携わり、分子設計や合成手法の開拓を実現していきたいです。道のりは険しいと思いますが、合成化学を基盤としてわくわくするような考え方や分子を作り出し、後世に残したいと思っています。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

私は研究室配属を前にして、ケムステーションで紹介されていた[未踏の構造に魅せられて―ゲルセモキソニンの全合成]の記事を読んだ際に、有機合成化学の奥深さに魅せられ現在の研究室を志しました。私の研究人生を決定する上で、多大な影響力のあったケムステーションで我々の研究を取り上げていただき嬉しく思うとともに、ケムステーションスタッフの方々へ非常に感謝しています。また、この記事を読んでくださった方に少しでも合成化学のおもしろさやわくわくを感じていただけたら幸いです。

最後になりましたが、本研究においてラセミ体での合成経路開拓および光学活性体の性質について非常に重要な発見を多く行われた共同研究者であり共同筆頭著者でもある小野裕之博士、並びに鍵中間体の絶対立体配置決定を行っていただきました北大院先端生命 谷口透助教に厚く御礼申し上げます。研究現場で細やかな指導を行っていただいた下川淳助教、高い視点から研究を導いてくださった北村雅人教授、福山透教授に心より御礼申し上げます。

参考文献

  1. Blackman, A. J.; Hambley, T. W.; Picker, K.; Taylor, W. C.; Thirasasana, N. Tetrahedron Lett. 1987, 28, 5561. DOI: 10.1016/S0040-4039(00)96781-9
  2. Liu, Y.; McWhorter, W. W., Jr. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 4240. DOI: 10.1021/ja021380m
  3. Higuchi, K.; Sato, Y.; Tsuchimochi, M.; Sugiura, K.; Hatori, M.; Kawasaki, T. Org. Lett. 2009, 11, 197. DOI: 10.1021/ol802394n

%e9%81%93%e6%9c%a8%e9%a1%94%e5%86%99%e7%9c%9f

道木 和也 (どうき かずや)

所属:名古屋大学大学院創薬科学研究科 北村研究室 博士後期課程2年

研究テーマ:不斉脱芳香化を基盤とする天然物合成研究

 

しおこんぶ

投稿者の記事一覧

有機化学専攻の博士課程の学生。ものづくりの匠になりたい。

関連記事

  1. 材料・製品開発組織における科学的考察の風土のつくりかた ー マテ…
  2. 1-ヒドロキシタキシニンの不斉全合成
  3. 「Python in Excel」が機能リリースされたときのメリ…
  4. 化学者にお勧めのノートPC
  5. 概日リズムを司る天然変性転写因子の阻害剤開発に成功
  6. 光で脳/神経科学に革命を起こす「オプトジェネティクス」
  7. 2016 SciFinder Future Leadersプログ…
  8. フェネストレンの新規合成法

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 特許取得のための手続き
  2. ヘテロ環、光当てたら、減ってる環
  3. 日本国際賞受賞者 デビッド・アリス博士とのグループミーティング
  4. π⊥ back bonding; 逆供与でπ結合が強くなる?!
  5. 反応探索にDNAナノテクノロジーが挑む
  6. 忍者はお茶から毒をつくったのか
  7. 『主鎖むき出し』の芳香族ポリマーの合成に成功 ~長年の難溶性問題を解決~
  8. 日本農芸化学会創立100周年記念展に行ってみた
  9. 第134回―「脳神経系の理解を進める分析化学」Jonathan Sweeder教授
  10. 野崎・檜山・岸反応 Nozaki-Hiyama-Kishi (NHK) Reaction

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年12月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

マテリアルズ・インフォマティクスと持続可能性: 環境課題の解決策

開催日:2024/05/29 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

Christoper Uyeda教授の講演を聴講してみた

bergです。この度は2024年5月13日(月)に東京大学 本郷キャンパス(薬学部)にて開催された「…

有機合成化学協会誌2024年5月号:「分子設計・編集・合成科学のイノベーション」特集号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年5月号がオンライン公開されています。…

電子のスピンに基づく新しい「異性体」を提唱―スピン状態を色で見分けられる分子を創製―

第614回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(松田研究室)の清水大貴 助教にお願い…

Wei-Yu Lin教授の講演を聴講してみた

bergです。この度は2024年5月13日(月)に東京大学 本郷キャンパス(薬学部)にて開催されたW…

【26卒】太陽HD研究開発 1day仕事体験

太陽HDでの研究開発職を体感してみませんか?私たちの研究活動についてより近くで体験していただく場…

カルベン転移反応 ~フラスコ内での反応を生体内へ~

有機化学を履修したことのある方は、ほとんど全員と言っても過言でもないほどカルベンについて教科書で習っ…

ナノ学会 第22回大会 付設展示会ケムステキャンペーン

ナノ学会の第22回大会が東北大学青葉山新キャンパスにて開催されます。協賛団体であるACS(ア…

【酵素模倣】酸素ガスを用いた MOF 内での高スピン鉄(IV)オキソの発生

Long らは酸素分子を酸化剤に用いて酵素を模倣した反応活性種を金属-有機構造体中に発生させ、C-H…

【書評】奇跡の薬 16 の物語 ペニシリンからリアップ、バイアグラ、新型コロナワクチンまで

ペニシリンはたまたま混入したアオカビから発見された──だけではない.薬の…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP