前回まで
1. 設定温度と系内の実温度のお話
2. 温度値をどう判断するか
3. 反応操作をしなくても、化合物は変化する
4. わざと失敗する実験
5. 水分はどこにあるのか
6.蒸留操作で水はどう動くのか
7.酸素は系内に入り込み続ける
8.酸素は見えないが、時に「色」として現れる
9.圧力は「設定値」だけで決まらない
分析結果をどう解析するか
「そのピーク、本当に原料でしょうか。」
TLC、GC、LCで原料と思って追いかけていたピークが、
実は全く別の化合物だった、ということがあります。
分析機器の特性を理解せずに解析すると、真実とは異なる結論にたどり着くことがあります。
「分離」と「同定」は違う
反応の完結判断は、TLC、GC、LCなどの分析手段を用いて行います。
反応の進行を簡便かつ迅速に確認できるため、これらの分析法は日常的によく用いられます。
一方で例に挙げた分析は
複数の化合物を「分離」しているだけで、化合物の「同定」自体はしていません。
それぞれのピークを分けて、増え方、減り方を見ることはできますが、
それが何かまでは分からないのです。
つまり、ピークの位置だけでは化合物名は決まりません。
保持時間への思いこみ
原料が残っている、反応が進行しないと思っていたら、
実は反応はとっくに完結しており、
原料のピークと同じ場所に副生物が増えていただけだった。
というケースはよくあります。
私も原料と思い込んでいたTLCピークを単離してNMRを見たら、
反応系とかけ離れた構造ピークでなんやねんと思ったことがあります。
それだけならまだ良い方で、
実は反応を完結しているのに、その思い込みでさらに試薬を添加し、
過剰反応で目的物収率が低下するというリスクもあります。
「この保持時間(リテンションタイム)だから
この化合物」という思い込みは反応挙動を見誤るリスクになります。
図1 原料と同じ保持時間に別の化合物が出ることもある(左図TLC、右図GC,LC)

分析条件で結果は変わる
分析というのは条件で結果が大きく変わります。
TLCなら展開溶媒の極性比率で分離傾向は変わりますし、
溶媒自体を変えると劇的に出方が変わります。
自分の研究室で当たり前の選択肢だったとある展開溶媒が、
他の研究室では革命的だったという話もあります。
GC、LCも同様で、カラムの種類、温度、溶媒を変えることで、
どこが分離しやすくなるかが変わります。
そのため、別の条件にした途端
見えていなかった化合物の挙動が見えるようになることが往々にしてあります。
つまり、保持時間だけで化合物を判断するのではなく、
分析条件を変えたときに、
ピーク数や保持時間、ピーク形状がどのように変化するかを確認することが重要です。
品質管理でも同じ
この問題は研究だけではありません。
反応結果の他、工程や品質管理でも同じことが起こります。
ある分析条件によって、複数の化合物が同じ保持時間で検出されるということは
規格が設けられている不純物ピークと、規格対象外の未知不純物が重なり、
見かけ上不純物が多く見え、品質規格を満たしていないように見えるということです。
品質規格値として不純物B=1.0%以下だったとします。
しかし分析条件によっては、
規格対象外の未知不純物が不純物Bと同じ保持時間に溶出することがあります。
この場合、実際には
不純物B=0.9%、未知不純物=0.2%であっても、
分析上は不純物B=1.1%と見えてしまい、
規格外と判断されることになります。
真実は品質規格を満たしているのに、
分析上規格を満たせていない状態なので非常にもったいないです。
ここも、上記に述べた通り条件を調整して分離できるようにすることが理想です。
図 規格項目の不純物に未知不純物が被るケース

まとめ
分析結果は「真実」ではなく、「分析条件の下で見えている結果」です。
見かけ上異なる結果になっていることを視野に入れて考察する必要があります。
それを踏まえて解析です。
場合によって条件を適切に変える必要があります。
分析とは、測ることだけでなく、
測定結果を正しく解釈し、解析することまで含めて分析なのです。
そして時には、分析結果そのものを疑うことも解析の重要なプロセスです。
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