[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

実験化学のピアレビューブログ: Blog Syn

 

A君「この化合物どうやって作ろうかな」

A君「得意のSciFinderで検索だ!」

「よしバッチリなものを見つけたぞ。実験手順も簡単だ!すぐにでもできるよ!」

ー数時間後

A君「あれ?生成物が得られないんだけど。なにか手順を間違えたかな。もう一度やってみよう」

ー数時間後

A君「あれ?おかしいな。」

ー数日後

A君「全然うまくいかないよー。本当にあってるの?嘘ついてるんじゃないの?

B先生「君の腕が悪いんじゃない?」

C先輩「この本に似た様な反応がのってるからもう一度、元文献やコツを確認してみたら?」

 

こんなA君のような経験ありませんか?筆者は少なく例とは状況が違いますがあります。有機合成のものづくりをやっているとこんな方法があったはずと調べてみて実際の論文の実験手順にそってやってみてもうまくいかない。収率は報告されているものよりも悪いもの往々にしてさらには全く目的の生成物が得られないことも。こんなとき筆者は自分を疑い、必ず報告されている基質に戻り、出来る限り注意深く実験を行なってみます。それでもダメなら普通は諦めます。

これはB先生のいうように俗にいう「腕が悪い」で片付けられる問題かもしれません。そうではなくて、C君のいうように、実際にいろいろな実験のコツが必要な場合もあるかもしれません。有機合成化学にはそのような”職人的な”側面が少なからずあるので、いくつか実験化学のノウハウ的な書籍や、もちろん信頼性や大量合成でも活用できる反応を掲載した論文誌Org. Synth.、Org. Proc. Res. Dev.などもあります。

上記にあげた理由で解決出来れば、よしよし有機合成化学者として育ってきたなといいたいところです。さて、A君の最後の発言に戻ってみましょう。

 

本当にあってるの !?嘘ついてるんじゃないの!?

 

これを確かめる方法はあるのでしょうか?

無論、皆さんご存知のように、論文はその筋の第一人者らによってピアレビュー(研究者仲間や同分野の専門家による評価や検証)されます。いわゆる論文査読というやつですね。但し、実験内容まで確かめて、合成反応の実験の再現性や収率を確かめることはなかなかありません。

 

そんな実験化学のピアレビューシステムをブログでやってしまうじゃないの!

 

ちょっと前置きが長くなりましたが、こんなA君の気持ちに答えた(?)ブログが登場しました。それが、今回紹介するBlog Syn です。

 

と大々的にお知らせさせていただいたものの、このブログ、今年にはいってできたばかりで、いまだ投稿数は3つしかありません。しかし、時間がかかるのはみればすぐにわかります。

論文となっている有機合成反応を自身の手で実験、解析を行い、さらには論文著者への質問、著者からのコメントをもらって、再度実験までしてるんです。

このペースで長い期間続けられるのか?と疑問ですが、どの3つの記事も秀逸です。現在ある3つの記事は筆者の元ボスやお友達ですが著名な有機合成化学者Phil BaranJIn-quan Yuなどの実験も”ピアレビュー”しています。

例えば以下の反応、

 

organometallica-scheme.png

実際行なった有機合成反応(画像はブログから抜粋)

見ての通り、最近報告されたピリジンのC-H オレフィン化反応(J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 6964. doi: 10.1021/ja2021075.)ですが、文献では73%の収率。その下に書いてあるのが、実際にブロガーが行なった実験結果。40%と書いてあります。結果から申しますと、収率は1回しかやっていないのでまあまあ再現性はとれているという結果ですが、その過程が素晴らしい。

Yu rxn.jpg

こんなふうにやりました。(画像はブログから抜粋)

Yu NMR.jpg

こんなNMRがとれました。(画像はブログから抜粋)

反応の仕込み方や結果のNMRなどは序の口。TLCや使った試薬、反応のコツまで事細かに記載。さらには上述したように著者にメールでコンタクトをとり、コメントまでいただいてます。掲載許可は得ているのかわかりませんが、Philのコメントがまたまた面白い。

さらにそこから再現実験をもう一度行い、最終的な結論を出すといった徹底っぷりです。まさに実験化学のピアレビューをしていますOrg. Syn.などは同じシステムを論文投稿前に踏みますが、論文投稿後の合成反応をここまで晒した内容は見たことがありません(残念ながら投稿前というわけにはいきませんが)。しっかり答えている、化学者にも称賛したいところですが、化学者の誠実さを証明するためにもぜひぜひこの「ピアレビューブログ」を続けてほしいものです。いつの日かそこの君の実験も再現されるかもしれませんよ!

それはさておき、ここまで詳細にいかなくとも最近のネット環境は論文公開後のピアレビューを可能としています。もちろん多くのブログで紹介、批評しているこのサイトもその1つです。海外のブログで水素化ナトリウムの酸化反応が取り上げられ後々追試された結果、取下げられたことも記憶にあたらしいことでしょう。が、最近のTwitter、FacebookなどのSNSの発達はそれらをさらに加速しています。その話はまた後の機会にしましょう。

【追記 2014年11月26日】

久々に訪れてみたら、2014年の更新はなし。それだけではなく2013年も記事は6つだけ。残念です。継続は力なりですよ。続けられることを地道にやることが、どんな事柄においても重要であるといえます。

関連書籍

The following two tabs change content below.
webmaster
Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. ちょっとした悩み
  2. 有機EL素子の開発と照明への応用
  3. ホウ素は求電子剤?求核剤?
  4. 水が促進するエポキシド開環カスケード
  5. “Wisconsin Process”に…
  6. 真理を追求する –2017年度ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨…
  7. クロム光レドックス触媒を有機合成へ応用する
  8. オキソニウムイオンからの最長の炭素酸素間結合

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ロジャー・チェン Roger Y. Tsien
  2. 2017年の有機ELディスプレイ世界市場は11年比6.6倍の2兆186億円。
  3. カーボンナノチューブの分散とその応用【終了】
  4. ケムステが化学コミュニケーション賞2012を受賞しました
  5. 化学物質だけでiPS細胞を作る!マウスでなんと遺伝子導入なしに成功
  6. 究極の二量体合成を追い求めて~抗生物質BE-43472Bの全合成
  7. 液体キセノン検出器
  8. 有機合成化学協会誌2018年2月号:全アリール置換芳香族化合物・ペルフルオロアルキル化・ビアリール型人工アミノ酸・キラルグアニジン触媒・[1,2]-ホスファ-ブルック転位
  9. 東レ、ナノ構造制御技術を駆使した半導体実装用接着シートを開発
  10. エステルからエーテルをつくる脱一酸化炭素金属触媒

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

太陽ホールディングスってどんな会社?

私たち太陽ホールディングスグループは、パソコンやスマートフォンなどのIT機器やデジタル家電、車載用電…

「自然冷媒」に爆発・炎上の恐れ

「環境省・経済産業省の指示により、エアコンに使用されているフロン類の入れ替えが必要だ」と偽り、地球環…

効率的に新薬を生み出すLate-Stage誘導体化反応の開発

今回紹介する論文は、Late-Stage-Functionalizationの手法を開発し、新規薬剤…

「次世代医療を目指した細胞間コミュニケーションのエンジニアリング」ETH Zurich、Martin Fussenegger研より

海外留学記第22回目はETH ZurichのDepartment of Biosystems Sci…

チャン転位(Chan Rearrangement)

概要アシロキシエステルに対して塩基を作用させることで、転位を伴い2–ヒドロキシケトエステルを与え…

卓上NMR

卓上NMR (Benchtop NMR)とは、通常のNMRよりも小型で、専用の部屋を必要としないNM…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP