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理系ライターは研究紹介記事をどうやって書いているか

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今回は、プロの理系ライター寒竹泉美さんからご寄稿いただきました! トピックもズバリ “どうやって研究紹介記事を書いているか” ということで、どのようなことを考え、気をつけながら文章を練り上げているか紹介いただけました。化学啓蒙を一つの大きな活動としているケムステとしても、大変参考になるお話です。

寒竹さんは、理系ライター集団 チーム・パスカルに所属されており、来週の8月31日に開催される第9回ケムステVシンポ「サイコミ夏祭り」にも講演者としてご登壇いただきます! 参加無料・時間差視聴可、どこからでも参加できます。登録して損なしです! 講演では、以下の話以外にも様々なお話をうかがえます。ケムステ肝いりの楽しいイベントですので、是非是非ご参加ください!

それでは、以下、寒竹さんからの寄稿文となります!


現在わたしは、理系ライター集団チーム・パスカルに所属して、研究者の仕事の成果を一般の人にも分かりやすく伝える理系ライターの仕事をしています。大学や研究所の広報や雑誌の記事、理系企業のウェブサイトなど、仕事は様々で、依頼は途切れることがありません。サイエンスをわかりやすく伝えることが世の中に求められているのだと思います。

研究者の方々も、一般の人に向けて発信する機会も増えてきているのではないでしょうか。そこで、わたしの個人的なやり方ではありますが、どのように記事を書いているのかを紹介することで、研究者のみなさまのヒントになるかもしれないと思い、本記事を寄稿させていただきました。どうぞ、ご笑覧くださいませ。そして、これを読んで自分では書きたくないと思った場合は、ぜひ、パスカルにご用命ください。

まずは「何が面白いか」を全力で伝える

研究内容を一般の人に伝えるときにやってしまいがちなのが、ただただ、詳しく丁寧に優しく猫なで声で説明することです。ちょっと想像してみてください。お店を歩いていたら店員につかまって、興味をひとかけらも持っていない商品の製造手順について延々と説明されたら、結構な地獄だと思います。説明が詳しければ詳しいほど地獄度は増します。わたしなら、二度とその店には行かないと思います。

逆に、「面白そう」と興味を覚えれば、少々わからないところがあっても食らいついていくのが人の心の不思議なところ。以前、わたしは有名なSF小説を読み、こんな難解な小説が人気だなんてすごい…と驚愕していたら、「そんなの、わからなくていいんだよ。それらしき理論が並んでいれば」とSFファンに言われて、カルチャーショックを受けました。研究を紹介する記事は、わかってもらわないと困りますが、「もっと読みたい! 詳しく知りたい!」と思ってもらいさえすれば、こっちのものなんですね。

基礎研究の面白さを伝えるには

とはいえ、研究者のみなさまは日頃から「何が面白いのか」「何の役に立つのか」と問われ続けて疲弊しているのではないでしょうか。医療や産業に応用できる研究ならともかく、基礎研究は一般の人が飛びつくような、わかりやすい面白さがありません。さらに、基礎研究の面白さをわかってもらうためには、知っておいてもらわないといけない前提知識がたくさん出てきます。

こんな場合は、どうすればいいのでしょうか。現在執筆中の、大型放射光施設SPring-8の広報誌「SPring-8 NEWS No.101」の制作過程を例に説明してみようと思います。

まず、取り上げさせていただいたのは、東京都立大学の伊與田正彦先生たちの有機合成化学の研究です。チオフェン分子を6つ繋げた環状チオフェンオリゴマーの作成に成功し、その結晶構造をSPring-8で解析し、さらに磁界中で環電流特性を示すことも見出したという研究です。詳細は、東京都立大学のプレスリリース「二重ドーナツ型の超分子コイル~磁気に応答して電気が流れる巨大なチオフェン環状分子~」を直接見ていただいた方が早いでしょう。

さて、理科好きの高校生でもわかるようにというのがSPring-8 NEWSの担当者からのリクエストです。理科好きの高校生がワクワクしてくれそうなつかみポイントを探します。これが冒頭のイントロダクションになります。

  • 化学者は新しく分子を作ることができる
  • 新しい分子は新しい材料を生み、世の中を便利にする
  • 電気的・磁気的な特性をもつ有機分子は、新たな材料としての可能性が大きい

SPring-8を使った研究成果を伝える冊子ですので、SPring-8推しポイントも入れます。

  • SPring-8だから不安定な結晶でも短時間で測定でき、解析に成功した

そして研究の面白さを伝えるためには、どうやって成し遂げたかの過程も必要になります(同じ専門分野同士だと、この話題だけでOKですよね)。また、環状チオフェンオリゴマーが、なぜ電気的性質と磁気的性質をもつのかも説明したいと考えました。これに関しては説明のハードルがかなり高くなり、とても苦労しました。

わかりやすく伝えるために最も届きにくい人をターゲットにする

面白そうと思ってもらえたら、次は「わかりやすく伝える」ミッションです。これは誰を対象にするかによって書き方が違ってきますが、悩んだ結果、今回の出だしは『物質はすべて原子という小さな粒からできています。』になりました。

「そんなの中学で習ったから知ってるわい!」と、ほとんどの人を油断させ、さらに中学の理科で離脱した人でもがんばれば入ってこれるようにしました。特に今回は、原子同士の結合や電子軌道などの話もやんわり出てくるため、最初の一歩で絶対に離脱してほしくなく、慎重に始めました。あまり簡単なことを説明しすぎると、理科好きの人が離れてしまうので加減が難しいところですが、2文目は『この世に存在する原子の種類は限られていますが、原子が結合してできる分子は、組み合わせや結合の方法によって多種多様です。』と、ややアクセルを踏み込んで、環状分子やポリマーや電子の登場の伏線を張っています。

 また、有機化合物の多くは電気を通さず磁石にも反応しないのに、今回はその両方の性質をもつ有機分子ができた、という点が本研究の面白いポイントだと思ったので、その説明をするために、そもそも「有機化合物とは何か」というところから説明する必要がありました。

 こんなことをしていたらなかなか本題に入れないのではないか…と心配になってきた人もいるかもしれませんが、そのとおりなのです。基礎研究の紹介の場合、わたしはいつも記事全体の4分の1くらいを、このような科学知識の説明に使っています。「何が面白いか」を心底わかってもらうまでは本題に入れないのです。

 そうして、ようやく本題です。今回もっとも苦労したのは、環電流の説明でした。電子軌道の説明を始めるとややこしくなるので、そこは避けたい。ど、どうすれば……! 他にもいろいろ四苦八苦しましたが、化学者のみなさまなら完成品を読んでいただければ苦労の跡をわかっていただけると思います。

SPring-8 NEWS No.101は9月の終わりごろには発行されているはずです。冊子を手に取る機会がある方は、よかったら読んでみてください。ネット上にも公開されます。

SPring NEWS ウェブサイト 

最後になりましたが、本記事に取り上げることを快諾していただいたSPring-8 NEWS編集部と伊與田正彦先生に感謝を申し上げます。

(寄稿:チーム・パスカル所属 理系ライター 寒竹 泉美)

寄稿者プロフィール

寒竹泉美(かんちくいずみ) 小説家・理系ライター

九州大学理学部化学科卒業。京都大学医学研究科博士課程修了。博士(医学)。大学院での専門は神経科学。博士課程修了後、小説家デビュー。その後、チーム・パスカルのメンバーに出会い理系ライターを始める。京都在住。

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ニューヨークでポスドクやってました。今は旧帝大JK。専門は超高速レーザー分光で、分子集合体の電子ダイナミクスや、有機固体と無機固体の境界、化学反応の実時間観測に特に興味を持っています。

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